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第14節:ナイアたんは心配します。


「おー、ナイア。どうした?」


 腹に剣をぶっ刺されたまま手を挙げる俺に、いつもの格好をしたナイアが心配そうな顔をする。


「どうしたではありませんわ、コープ様。帰りが遅いからと心配して来てみれば、何故襲われているのですか」

「よく分からんけど、お前絡みっぽいよ。アウターの屋敷出た辺りからつけてたらしいし」


 そんな風にナイアと会話を交わす俺を、なんか恐ろしげなものを見るような目で女騎士が見ていた。


「貴様、何故そんなに平然としている?」

「え? ああ……」


 まぁ普通の人間は腹に剣をぶっ刺したまま話とかしねーだろうしな。

 ってか、ここで本当の事言っても良いのか、と一瞬考えた俺に。


「コープ様は、わたくしのゾンビですわ!」

「って、お前がバラすんかい! しかもゾンビじゃねぇ、フレッシュゴーレムだ!」

「いいえ、コープ様はゾンビですわ! 死霊術で作ったのですもの!」

「そう言い張っても良いけど、お前もうちょっと状況考えろよ!」


 相手は騎士だぞ! とナイアに思わず突っ込むと、女騎士がずるりと俺の腹から剣を引き抜いた。

 うおお、感触が気持ち悪い!


「……ネクロの都の街中で、ゾンビだと……?」


 呻くように言う女騎士に、俺は言う。


「ゾンビじゃねーって。フレッシュゴーレムだって」

「やはりー、貴様は魔女だったか、ナイア!」


 そうだった。コイツも人の話を聞かないタイプだ。


 でもやはりって何だ?

 速やかに女性騎士の側から離れる俺に目もくれず、彼女はナイア向かって騎士剣を向けた。


「いつかやらかすと思っていたが、まさか魔王軍に入るとはな……自分で告白した事を後悔するが良い!」


 死霊術士が全員魔王軍な訳じゃないと思うんだが。

 しかし思考が飛躍しているのに、実際正解だからややこしい。


「あら、だったらどうだと言うんですの? ジャンヌ・ノーデンス」

「ふふふ、昔からいけ好かなかったお前を、今この場で始末してやる!」

「出来るとお思いですの?」


 バチバチと火花を散らす二人のやり取りを見て気付いてはいるがとりあえず確認しとこう。


「あー、もしかしなくても知り合いか?」

「貴族学校の同期ですわ」

「この問題児にどれほど手を焼かされた事か!」

「ご迷惑をおかけした覚えはありませんわ」


 つん、とそっぽを向くナイアに、ジャンヌという名前らしい女性騎士がギリギリと歯軋りする。


「首席のくせに礼拝は出ない、珍妙な格好をいくら言っても止めない、あまつさえS級聖女のくせに等級欄に堂々とG級死霊術士と記載するような奴がどの口で!」


 俺はちょっとだけジャンヌに同情した。

 首席とかいうのが何なのか分からないが、悩まされていたのだろう事は察せられる。


「神は信仰しておりません。校則にも違反していませんでした。そしてわたくしは聖女ではなく死霊術士ですわ! 何も間違った事はしていませんわよーだ!」


 べー、と舌を出すナイアが、逆に普段よりも幼く見える。

 てか、昔からそんなんか、コイツ。


「ねぇ、そうでしょうホテプ?」

『うむ。我が筋肉の素晴らしさを理解するナイアであるからして、その行動は全て正しいのである!』


 ……ナイアがこんな奴に育ったのって、もしかしてホテプのせいじゃないのか。


「最早問答無用だ! 死ねナイア!」


 と、ナイアに襲いかかろうとしたジャンヌの足を、俺はひょいと引っ掛けた。


「ぬぉ!?」


 全く俺の事を意識していなかったのだろう、あっさり転んだジャンヌは、ごちん、と石畳に頭を打ち付けて気絶した。

 額にでっかいたんこぶが出来て美人が台無しだが、まぁ仕方がない。


「コイツ、こんな好戦的でよく騎士なんかやってるな……」


 街中で見回りをする騎士となれば、おそらく憲兵団の所属だろう。

 荒事に強くなければいけないのは分かるが、コイツみたいに頭に血が上りやすいタイプだと、逆に厄介ごとを引き起こして回っている気がする。


「あー、なんか精神的に疲れたな。帰ろうぜ、ナイア」


 もうこの際、屋敷でも何でも良いからベッドにダイブしたい。

 寝なくて良い体でも、精神的には疲労するしなー。


「コープ様。ジャンヌはどうするのです?」


 呆気なく終わってしまったどこか不満げなナイアに、俺は投げやりに答えた。


「このまま放っとくのもアレか。じゃ、憲兵所の前にでも転がして……」

「そうではありませんわ」


 俺の言葉を遮ってナイアが真剣な目を俺に向ける。


「生きていたら、わたくしが見つけた時点で死んでいたのですよ、コープ様は。なのにジャンヌを許すのですか?」

「別に実際に殺された訳じゃねーし。っていうかお前なんか最初に会った時、俺を見捨てただろうが!」


 ジャンヌの言う通り、どの口が言うんだ、って話だよ!


「……はっ! そう言えばそうでしたわ!」


 衝撃の真実に気付いたよーな顔だけど、ジャンヌよりお前の方がひどいからな。


「殺すほどのこっちゃねーよ。それより疲れたからさっさとしようぜ」


 見やると、魔力の源がジャンヌだったのかリビングメイルまで動きを止めている。


「で、でしたらわたくしが運ぶので、コープ様は屋敷で休んでいて下さいませ!」

「運ぶってどーやって」

「こうやって」


 ホテプが魂の尾を突き刺し、ナイアがリビングメイルとジャンヌを軽く抱え上げる。


「なるほど。ま、でも運んでくれるなら憲兵所に行くくらいは付き合うわ」

「大丈夫ですわ!」


 そう言われてもな。


「一応、お前は主人だしな。……それに俺一人で帰ったらルラトになんて言われるか……」


 小言食らう程度で済むとは思えない、と小さくつぶやく俺に、何故かナイアはパァァ、と花咲くような笑顔を浮かべた。


「……どうした?」


 正直滅茶苦茶可愛いが……。


「コープ様、ついにわたくしのゾンビとしての自覚をお持ちになられたのですね!?」

「違うわ!」


 どーせそんな理由だろうと思ったよ!


「良いからさっさと行くぞ!」


 幾ら強くても、見目麗しい貴族令嬢に一人で夜道を歩かせる訳にもいかない、というもう一つの理由は胸に仕舞っておいた。

 そんな事まで言ったら、ますますナイアが調子に乗るのが目に見えていたからだ!

 

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