then they are gone
※今回も前回と同じく一部、残酷な表現が含まれているため気をつけてください。
人の為
謳う者皆
偽善者だ。
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その後、俺は軍を辞めた。
あんな見るのも辛いような光景を二度と見たくなかったからだ。
でも、地獄は俺から離れようとしなかった。
毎晩毎晩、体の何処かを欠損させた男女が俺と交わることを求めてくるような夢だ。
そして、彼らは俺に囁く。
『どうせ、お前も奴らと同類なんだろ?』
『小さい子を見て性的興奮を覚えるんでしょ?欲情するんでしょ?』
やめてくれ...!
『身体を切り刻むことに悦びを感じるんでしょ?相手の苦痛に歪む顔を見て悦んでるんでしょ?』
やめてくれよ...!!
『死体にしか欲情できないから殺すんだろ?死後硬直が始まる前のカチコチに成りかけの身体を犯して楽しいか?』
やめてくれって言ってるだろ...!!
『何を今更、人を殺して安心するような異常者が何で否定するんだよ?
馬鹿馬鹿しい、結局は人を殺したかったんだろう?殺して快感を覚えたかったのだろう?自覚がないとは言わせないぞ。この異常性癖者が!』
もう、やめてくれ!!!
いつもここで目が覚める。
あの悪夢はすっかり記憶から消え去っていた。
でも、すぐに俺は思い出してしまう。
そして、また吐き気がしてトイレに行く。
それが毎日続いた。
そして、精神的にも参ってしまった俺はここで更に過ちを犯す。
そう、
二つ下の実の妹を俺は襲ってしまった。
気づいた時には彼女は泣き崩れていた。
俺を支え、俺を愛し、何時も側に居てくれた妹の初めてを俺は歪んだ欲望で奪ってしまったのだ。
妹は言った。
「兄さん、ここまで追い詰められてたんだね...」と、
この時彼女が浮かべていた儚げな微笑は今でも憶えている。俺の歪んだ愛を受け止める覚悟をした顔だったが俺は余計に罪悪感が増した。
そして、俺は家族と絶縁した。
いくら妹が赦したとはいえ、俺の方が自分を赦せなかったことが大きな理由である。
それっきり、家族とは一切会っていない。
家を出る直前、妹は言った。
「愛してるよ、兄さん」と、
俺は肯定的に解釈しようとしたが、あの時のことを思い出してしまい、妹に何も言い返せなかった。
俺は溢れる後悔の涙を流しながら絶縁した。
とうとう、俺は帰る場所すら失われたのだ。
これも何かの縁か、元軍人の仲間から傭兵にならないか?との誘いがあった。
特に何もすることのない俺は何も考えずになる、と即答してしまった。
今思うとこの時期からだろう。
俺が本格的に歪んだのは。
実の妹を犯すという世間的に赦させざる罪を犯して尚、人殺しに手を染めようと言うのだ。
この時から既に俺はイカレていた。
傭兵になってからも汚い戦場を見続けた。
でも、そう言った戦場を渡り歩いていると自然と慣れてしまうのだ。
これは恐ろしいことだった。
人は殺されるのが当たり前。
人は犯させるのが当たり前。
人は奪われるのが当たり前。
俺の中で人とはそうなってしまったのだ。
ああ、そうさ。自分でも最早何を言ってるのかわからない。
自分なんだけど自分ではない。
要するに心ここに在らずといった感じが常時続いている。
見えないから見えるんじゃなくて聞こえるから見えるんだよ。わかるかね?
そこ!早く拳にナイフを突き立てろ!早くしろ。訓練が終わらんぞ。
見えないから見えないじゃなくて走っているから追われるんだ。
何を言ってるのかわからない?それはお前がおかしいからだ。
おかしい奴じゃなければ俺のいってることが理解できるはずだ。
ああ、そうかいそうかい。そっちがそう言うならこっちもやってやろうじゃないか。
ほら拳銃で俺を殺してみろ。
あの偉大な革命家の言葉を借りようか。
『よく狙え。お前は1人の男を殺すんだ』
...これ以上は文字が乱れすぎてて読めそうになかった。
僕は思わず嘆息した。
何だこれ、僕は読み終わってからまずそう思った。
彼女に対する返信も確か何だこれって送った気がする。
いやでもほんとに理解不能だ。
この手記を書いた兵士は狂ってしまったのだろうか?
まあ、狂っていようが狂っていまいが僕にとってはどうでもいい事なのだが。
読みながら書いてた文章が出来上がったので僕はゆっくりとノーパソを閉じた。
これから史上最悪の悲劇が始まるとは知らずに。
ゆるりと眠れ。
ゆるりと逝け。
ゆるりと祈れ。
我が道に神がある事を。
祈り続けろ。
そうすれば神は汝を救うだろう。
だって神はいつもそばに居るのだから。
人は何時だって救われるのだから。
I don't think . I believe.