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閉幕後

「後輩くん後輩くん」

 学園祭終わりのキャンパスは、普段よりも多くの学生が行き交い、そこかしこの出店のテントで片づけをしている。

「後輩くん後輩くん後輩くん」

 僕は半日ぶりに吸った外の空気に、雨の匂いを感じた。夕立でも降ったのだろうか、コンクリの道路は若干の湿り気を残している。僕は演劇部の部会をそうそうに抜け出して帰るところだった。

「後輩くん後輩くん後輩くん後輩くん」

 なんですか、と振り返りながら、声の主を半目で見返す。

「一緒に帰ろうよー、途中まで道一緒なんだしー」

 勝手にしてください、と僕は無言でまた歩き出す。

「それにしても結構評判だったね!明日は今日よりも一杯お客さん来るかも。やっぱ部長としての私の実力ってとこかな!」

 否定はできない。確かに先輩の監督、脚本、そして主演は、自己中心的だと部の一部からは批判も買ったが、結果としては例年にないほど好評だった。だが、

「もちろん後輩くんが頑張ってくれたおかげでもあるけどね!あんなに喋るなんて疲れたでしょ?」

 僕は最初に先輩から台本を渡されたとき、この人は「先輩」と「後輩」を誤植しているのではないかと疑った。普段は僕の後をついてまわる自他ともに認めるストーカーである先輩が、無口な探偵役で、一方極端に口数が少ない僕が、おしゃべり助手役だったのだ。

 僕は先輩をまた半目で見返す。なぜあんな配役にしたのか、と。

「だってたまには、よくしゃべる後輩くんも見てみたかったんだもーん」

 はあ、と僕は返事の代わりにため息を吐く。

 『言葉は話すだけ軽くなる。書けば積み重なる』。依然先輩を揶揄して言った言葉を、演劇とはいえ僕が言われる立場になるとは思わなかった。

「実はあの脚本はね、タイトルから先に決めたのよー。診断チェッカーていうサイトで『あなたの新作タイトルは』ってのがあってね、私の名前書いたら『私のやかま後輩と雨の日』だって!でも実際やかましいのは私だし、どうせなら後輩くんにしゃべってもらいたかったから、あんな感じにしてみたの!面白かったでしょ!」

「いや全然」

 練習も含めてこの数か月、僕は毎日部活から帰るころには疲れ果てていた。

 僕は雨の匂いとしっとりとした空気の漂うキャンパスを横断する。先輩はやかましくまだ何か喋りながら僕の後をついてくる。

 明日に備えて今日はもう喋らない。僕は心に誓った。

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