蜥蜴
ゆっくりとだが確実に山を下っていく。
山裾に広がる森はいつになく騒然としている。
きっと蜥蜴どもは薄く、広く森に展開して狩りの真っ最中なんだろう。
「前方約四半里に群れが居た。出来れば迂回するべきだな」
斥候の分身が小走りで駆け寄ってきて、報告してきた。
「数は?」
「かなり散っていたようだから正確な数は分からんが、纏まっていた数だけで50は下回らない感じだった」
「そうかぁ…前も進めば駄目かぁ。これで完全に囲まれたかな」
周り中が蜥蜴パラダイスな件
「仕方ないさ本体。とりあえずそろそろ山も降りきる。手薄な箇所を縫うように進んでいこうぜ」
「それしかないか…被害が出ないように細心の注意を払って進むか」
――――
1時間もしないで、敵に発見されましたわ
オシメで泣いた赤ちゃんがいて、伝播したアトス含む赤ちゃんの大合唱とか、敵に居場所を教えてる以外の何物でもないです…
隠密とか、ほんと無理
蜥蜴どもが赤ちゃんの泣き声聞いて駆け付けて来てくれた!
ごめん、心配させちゃった?
うん、分かってる。あいつらの目が獲物だヒャッハーって言ってる。分かってた。
蜥蜴は5体ばっかりだから、ごり押しでイケるか?
50体の分身が一斉に駆け出す!
蜥蜴どもに兎に角しがみついて引き倒し、身動きを封じ込める!
武器で攻撃?
武器無いわ!
じゃあどうするかって言ったら、水攻めですわ
しがみつきにあぶれた分身達が即座に蜥蜴どもの頭に水の法術で水球を作り上げて被せて差し上げる。
下手に顔に近づくと噛むしね。これで血も叫び声も上げさせないクリーンな殺しが完成だ
ガボガボ言って水飲んでるけど、オカワリいっぱいあるからねー
まあそんなこんなで、5分も待ったら完成だ。カップラーメン作るより多少手間程度だったかな?
村のメンバーの怯えた顔が印象深く残ったけど、気にしてる余裕はない。サクサクと進みますわ
――――
斥候を10体程度、常に出していたため索敵ははかどったけど、行進は思ったほど捗らない…
あの後2回ほど不意打ちからの殲滅で5体前後の集団を切り抜けたけど、今はちょっとマズい状況だ
どうやら足跡を補足されたらしく、背後が嫌にうるさい。
そして子供達の疲労はピークに達しようとしてる。
これ以上の行進は脱落者を出す。
分身が担いでいるが、子供が子供を担いでいるのだから、やはり遅い事には変わりなくあと2時間もすれば完全に追撃戦に移行しそうだ。
待ち伏せして、殲滅が次善の策だが、まだ後方に放った斥候からの報告は無く、規模が把握出来ていない。
「お兄ちゃん、疲れたよ…」
「しょうがないな、エリスは。コイツにおんぶして貰いな」
隣を警戒しながら歩いていた分身をエリスに差し出す。
嫌そうな顔で俺を見る分身。
おい!エリスは俺の可愛い妹だぞ!?おんぶ出来るなんて光栄な事だと思えよ!!
あ、分身からしたらエリスはやっぱり自分の妹だったわ。……可愛い妹をおんぶ出来て良かったジャマイカ…
そんな馬鹿な事を考えていたら、後方から斥候が駆け戻ってきた
「おい、本体!コイツはちょっとマズいぞ!100体近い蜥蜴どもが追跡してる。このまま追い付かれたら、相当な被害が出るぞ」
あちゃー、分身の総数より多いか…
「こりゃ迎撃しないと無理かな。今回は大立ち回りせなアカンか。最悪森に火でもかけて大混乱にせなアカンかな…」
もうカルマ値もエラい事になってるらしいし、火付けしても今更だろ?
でも森林火災とか逃げ遅れたら、本当にどうにもならんから最後の手段かな…
先ずはプランAを実行してからかな?
「次の更新時間はあと1時間後くらいか…それまでは手の空いている分身は食料の詰め替えでもして空袋作って、小石を貯めておけよ!」
さてさて、どうなることやら…




