02 イヴ
(最悪だ...)
大通りからはずれた裏道でイヴは自分の不運さを呪っていた。周りをぐるりと取り囲み、ニヤニヤと汚らしい笑みを浮かべる男たちを見渡すと一つため息をつく。
「最悪だ...」
天を仰ぐと、そこには薄暗い建物の隙間から、雲一つない青空が広がっていた。
北大陸の西に位置する大国ストロフィアから、今日この地に降り立ったイヴはさっさと宿泊施設に行き、休むつもりだった。
シバには陸路で来たため足には疲れがたまっているし、馬車での移動で体の節々を痛めてしまったため動くのがつらいのだ。
そんなとき、疲れのためかつい大通りの道をそれ、薄暗い裏道へと迷い込んでしまった。気づいたときには、汚らしい笑みを浮かべた男たちに取り囲まれてしまっているという冒頭の状況に戻るのだ。
「おいおい兄ちゃん、どうしたんだ空なんか見て。自分のこれからが不安でたまらねぇのかい?」
男たちの先頭にいた男が、下品な笑みで問いかけた。その顔には、自分たちが絶対的優位であると確信を持っている人間の傲慢さが張り付いていた。ほかの男たちも同様である。
(ざっと見積もって六人か...。1人対6人とは、よくやるな..。相手の実力もわからない雑魚のくせに)
イヴは心の中で悪態をつくと、冷めたまなざしを向けた。その眼差しにはどこかゾクリとするものが含まれている。男たちもそれを感じ取ったのか、目をせわしなく動かしていた。
「な、何だその目は!!おまえをどうするかは俺ら次第なんだぞ!!」
「そうだ!!俺らはアルハザールに出場する参加者だぞ、お前みたいなひょろいガキに何とかなるとでもおもってるのか!!」
「...喚くな雑魚が。お前ら程度がアルハザールに参加するだと?笑わせるな」
イヴは心底バカにしたようにいうと、はっと鼻で笑った。
それに顔を真っ赤にして怒りにゆがめた先頭の男が、イヴにつかみかかってきた。
否、つかみかかろうとした。
男の手がイヴに届くその瞬間、男の体が宙を舞い壁に衝突した。クレーターができるほどの勢いで。
そんな一瞬の出来事に目を丸くして息することも忘れているものたちを睥睨した。
「さて、次はどいつだ?」




