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コワモテ!  作者: リソタソ
再会と出会いの春先
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一日の終わりに家族と・・・・・・・平穏!?

夕暮れの桜並木の下で、私は一人で歩いていた。みんな、授業終了のチャイムが鳴るとすぐにどっか行っちゃったし、作治君はあれから保健室に行ってそのまま帰ってこなかったし、結局、今日は私一人で帰ることになっちゃった。

 はぁ、友達、欲しかったなぁ。もうできそうにない、というか、あの子たちと友達になれる気がしない。仲良くなれそうなのは作治君だけ。でも、やっぱり同性の友達が欲しい。

そういえば、ワンちゃんは、なんだか一目置かれてるっぽいし、裏番だっけ? なんか強そう。それに嫌われちゃってるみたいだし……ちょっとショックだなぁ。

 さ、早く帰っちゃおう。って言いたいんだけど、まず駅に行ってからじゃないと、新しい家までの道を知らないんだった。明日は早く起きて学校までの近道探そっ……ちょっと、気が進まないけど。

 私はいったん駅に行って、それから前に下見をした通りの道順で新しい家まで行った。新しい家は、駅を横切って道なりに進むとある道場の傍にあるマンションだった。

 道に迷うことなく着けた。エレベーターの中でほっと胸をなでおろす。良かった。土地勘とかほとんど忘れてるから、迷っちゃったらどうしようって思ってたし。

 エレベーターが止まったのは八階。そこの一番奥が私たちの部屋だ。お母さん、もう帰ってるかな?

 ドアノブに手を掛けて回してみると、鍵はかかっていなかった。よし、お母さん帰ってたみたい。

「だだいま」

 初めての家なのにただいま、っていうとちょっと変な感じ。

「お帰り! カナちゃん」

 お母さんの元気な声がリビングの方から聞こえてきた。次のドアを開けてリビングに入ると、段ボールが山積みにされたリビングに着いた。

「ちょ、ちょっとお母さん、全然部屋片づけてないじゃない!」

「ごめんごめん、引っ越しが終わって仕事場に顔出してたらついつい長居しちゃって……さっき片づけを始めたところ」

 お母さんはそう言いながら、スマホでテレビ見ながら煙草吸ってるし。しかも片づけ始めたって言ったって、段ボール一つしか開けてないじゃない!

「もう、お母さんってば相変わらず片づけが苦手なんだから……」

「苦手じゃない、好きじゃないだけ」

「やらないんだったらできないのもやろうとしないのも同じよ」

 引っ越しの準備のときの苦労が思い出される。殆ど私一人で全部準備したようなもんだったなぁ。その逆のことをしなくちゃいけないのかな……はぁ、自然とため息がこぼれた。

「あ、そうだカナちゃん。引っ越しそば買って来たよ。ロ○ソンのがいい? フ○ミマのがいい? セ○ンイレブンのがいい? ポ○ラのがいい?」

 お母さんはそう言って、近くに置いてあったコンビニのビニール袋を私に差しだしてきた。

「んー、じゃあフ○ミマので。ざるそばでしょ?」

「うん。ざるなんてないけどざるそば」

 私はそのうちの片方を受け取った。そう言えば昼ごはん食べられなかったからすっごいお腹減ってたんだった。

「じゃ、ご飯にしちゃおうか」

「うん!」

 私たちは段ボールを机代わりにしておそばを食べ始めた。

「お母さん、新しい職場はどう?」

「いい感じいい感じ。地元のパンフレットを作る会社なんだけど、年齢の近い人が多いから初日からみんなと仲良くなれたわ」

「いいなぁ、お母さんは」

「アンタはどうなの?」

「私は全然、なんだか学校に馴染めそうにない」

「そりゃああの学校だしねぇ」

 お母さんは苦笑いをして堪えた。

「お母さん、あの学校が不良たちの巣窟だって知ってたんだ」

「一応ね。でも、あなたの頭じゃあそこぐらいしか編入できなかったし」

「そうだよね……自業自得か」

「でも、そんなことでへこたれてちゃダメよ! 精一杯仲のいい友達作って、ついでに彼氏の一人や二人作っちゃわなきゃ!」

「か、彼氏って……」

「もう高校二年生よ? 未だに男を知らないなんて、カナちゃん他の子よりも出遅れちゃってるわよ」

「い、いいもん、出遅れてたって。そりゃあ、中学時代はバイトと勉強で忙しくって、結局両立も恋もできなかったけど……それでも私には……!」

 好きな人がいるもん! って前なら言えたんだけど……その長年の片思いも、つい今日終わっちゃったんだった。

「好きな人がいたもん……」

「あら、過去形になっちゃった。めげてちゃダメじゃないのカナちゃん。お母さんの娘なんだから、きっとそのうち引く手数多になるに決まってるわよ。そのためにも、女を磨かないと」

 嘘かホントかは知らないけど、お母さんは昔モテたらしい。そのせいか恋愛には結構積極的になれって毎回アドバイスされるんだけど……。

「じゃあ、お母さんは、会社に誘ってくれた人……えーっと、(たな)(ぶち)さんとはどうなの?」

 ぶっ、とお母さんが食べかけのそばを噴き出した。明らかに動揺してるよ。

「ば、棚淵君はただの高校の同級生よ」

「ほんとにぃ? もしかして、お母さんが未亡人だって知ったから、わざわざ同窓会のあとに自分の会社に誘ったんじゃないの?」

 私も前にこの家の下見をしたときに棚淵さんとは顔を合わせた。この家も棚淵さんが斡旋してくれたし、もう至れり尽くせり。少し中年太りが入っていたけど、爽やかな笑顔が特徴の紳士って感じで、結構好感が持てる人だった。その人に対してのお母さんなんてもう見てられなかった。声もワントーン上がってるし、うわべだけじゃない嬉しそうな笑顔を時々覗かせて……あ、この人年甲斐もなく恋してるって私でも分かっちゃった。

「そんなわけないでしょ。もう、からかっちゃって……」

「お母さんもまだ三十代でしょ? 十分再婚もできる年齢だって。私も手がかからなくなって来たし、いいころあいなんじゃないの?」

「はぁ……そうねぇ、再婚の頃合いだとは思うけど。この歳の恋愛はめんどくさいのよね。立場とか考えないといけないし……それこそぽっと出の女が自分とこの社長をたぶらかしてるなんて知った時の社員の反応とか、悲惨なものよ」

「ふーん、私子供だからわかんない」

「でしょうね。でも、せっかく子供なんだから、今の内にできる恋愛を、あなたはしなさいよ。高校生活はたった一度きりなんだから。悔いのないように、思いっきり青春しなさい」

 ちぇ、せっかく優勢だったのに、いつのまにかお母さんの方に主導権を握られちゃってた。

「はーい」

 私はそう言って、おそばの最期の一口を食べ終えた。


 私は自分の部屋の片づけをしていた。ベッドとかの大きいものは引っ越しの業者さんがやってくれたおかげで、私がすることは小物を並べたり、服をしまったりと簡単なことばかり。それでもちょっと時間がかかったて、疲れちゃった。

 ごろん、とベッドの上に寝転がる。

「恋かぁ」

 スマホのロックを解除して、メールボックスを見る。前の学校の友達から、いっぱい連絡が来ていた。殆どが励ましの内容で、心がほっとする。

 こんな友達、今の学校でできるのかな? まずそれができそうにないのに、恋人なんか無理でしょ。

 一人、乾いた笑いがこぼれる。ああ、結構つらいなぁ、友達も恋人もできない高校生活なんて嫌だなぁ……。とか思いながらメールを見ていると

 From 河村

 の文字を見つけた。

「げっ、河村さん」

 河村さんは、私がバイトしていた飲食店にいたフリーターのお兄さん。お兄さんとは言っても、背が小さくて髭の濃い、おかっぱ頭に眼鏡っていうちょっと変な格好をしている人で、仕事はできるんだけど、すっごい女好きな人だった。私、その人にやたら目を掛けられてて、入った当初からずっとデートに誘われてたんだよなぁ。もちろん、毎回丁重にお断りしていたんだけど。

 メールの返信、もうしなくていいよね。バイトもやめたんだし、河村さんにもきっと会うことはないよね。

 スマホの画面をオフにすると、自分の顔が暗いディスプレイに映った。

 去年まではずっとバイトをしていたんだった。お母さん、今は結構元気そうなんだけど、当時はかなり体を弱くしていて、仕事も新しく始めては辞めて、始めては辞めてを何度も繰り返していたから、家は収入が安定しなかった。ちょっとでも家計の助けになれば、って思ってバイトを始めたんだけど……楽しかったんだけどね、そのせいか学校の部活動もほとんどいけなかったし、勉強にも身が入らなくなっちゃった。みんながメイクをし始めるころになっても、私だけ全然できなかったし。

「こんな私に、恋なんてできるの?」

 ディスプレイに映る私は、眉を八の字にして不安そうな顔で、私にそう語りかけていた。



 同時刻、すっかり夜のとばりの中に包まれた学校の駐輪場。静かな夜の中、誰もが忘れたように佇むそこに、再び人が集っていた。人数は二十人ほど。一クラス分には足りないものの、放課後に部活動でもないのにこの人数が集まることは稀有なことだろう。

「よ、ミトッチお疲れー」

 電燈がまたたくここに、水戸このみもやって来た。彼女が来ると、すでに駐輪場にたむろしている制服姿の生徒たちの中から三人の、水戸と仲のいい彼女の取り巻き達が集まって来た。

「バイト疲れた」

「お疲れ様さ、ミトッチ」

「アンタたちは何をしてたの?」

「んー、スタバでだべってたの」

 それを聞いてはぁ、と水戸はため息をついた。

「アンタらもバイトしなさいよ。アタシだけアンタらのために稼いでるなんて馬鹿みたいじゃない」

「いいじゃんいいじゃんー。だって、ミトッチが最初に自分が稼ぐっていったんだしー」

「まぁ、そうだけど……でもなぁ、アタシの稼ぎが全部移動費に消えるのは納得いかないな」

 腕を組んで口を尖らせる水戸に一人の男子が近づいて来た。彼は百五十センチほどの小柄な体格で金髪の男子だ。右肩を左手で揉みながら得意そうに片方の口角をあげて笑っていた。

「移動費全部だせば、アニキだってお前のこと認めてくれるもんなー。役に立つ手下から、有能な女の子に、なー!」

「バカジュン! アンタ何言ってんのよ!」

 水戸が慌てた様子で彼、下中順のお腹に蹴りを入れた。

「あだっ!! 相変わらず容赦ねーなー……」

「ふー、ふー、誤解を受けるようなこと言うからよ」

「誤解って言ってもねー。ミトッチが番長のこと好きなのはみんな知ってるよねー」

「なっ!?」

 水戸の顔があっという間にゆでだこのように真っ赤になった。

「そうさそうさ、この反応見ればわかるさ」

「ちょ、ちょっと!」

 にやにやとした視線が水戸に向けられる。

「そうだな」

「水戸さんって意外とわかりやすいよね」

「水戸さんは番長一筋って感じでかっこいいっす」

 雑談を交わしながらも耳をそばだてていた、水戸達との会話に参加していない他のメンバーたちもいつのまにか口々にそう語っていた。

「も、もう! アンタら、いい加減にしなさいよ!」

 水戸は、このグループでの中心の番長に近い人物だった。それが物語るように水戸の一言でしん、と静まり返る。

「まぁまぁ、お前の痴情話はこれくらいにしろよー、興味ないって」

「痴情っていうな! バカジュン!! っていうか、アンタが勝手に始めたんでしょうが!!」

 その中で一人けらけらと笑っている下中。彼もまた、見た目とは裏腹に番長の片腕的存在だった。

 ふーふーと息を荒げて肩を上下させる水戸、お調子者らしくにやにやしている下中。彼ら二人は、それぞれに女子のリーダー格、男子のリーダー格で、ほとんど対等な関係だった。

「ふん!」

 下中の腹にまたけりが食らわせられる。このように腕っぷしでは圧倒的に水戸の方が優勢らしい。

「く、くそう。昼の肩に引き続いて今日はダメージの多い日だぜ……」

「昼って、下中さんなんかあったんスか? なんか湿布臭いですし」

 一人の男子が、下中に肩を貸しながら問いかける。少なくとも、下中に人望はあるようだ。

「よく聞いてくれた! 今日な、大神のヤローにやられちまったんだよ」

「大神って、裏番ッスか? よく生きてましたね」

「ああ、半端ない激闘だったぜ……」

「違うでしょ。アンタが片手で持ち上げられたただけでしょ? しかもただ単に大樫をいじめてるアンタが目障りってだけで」

 しみじみと回想しているように語る下中に水戸は無情な横槍をブチ込んだ。

「るっせぇ! それを言っちゃあ情けねーじゃねえかよ!」

「ジュンさんはいつだって情けないですよ」

「るっせぇ! って、俺になんつーこといいやがるんだコラ!!」

 下中、人望はあるが舐められているらしい。

「ったくよー。あーあ、今日はツイてない日だったぜ」

「転校生も微妙だったしねー」

「あ、そう言えば先輩たちのクラスに転校生が来たんでしたね」

「そうそう。でも、うちらのグループにはいらない感じの子。ま、この学校じゃあの子は馴染めないままに不登校になりそうだけどね」

「明日はどんな風にいじめるさ?」

「そうねぇ。公開バリカンショーとかどう? みんなの前で坊主にしてやんの」

「それいいの! うちに兄ちゃんのバリカンあるから明日持ってくるの」

「おいおい、せっかく貴重な黒髪だってのに……剃ったの、持って帰っていいか?」

「キモいバカジュン死ね」

「るっせぇ! 人の趣味にケチつけんじゃねえ!」

 彼らが和気藹々として笑っていると、ブロロロ、とバイクのエンジン音が聞こえてきた。すると、全員がそれに気づいて、整列し始めた。駐輪場の真ん中の道を開けて、左右に男女別に並ぶ。バイクのヘッドライトの眩しい明かりが近づいて、彼らを照らした。

 大型のバイクが、開かれた道をまっすぐに進む。先頭にいる水戸と下中を過ぎたところで、バイクが止まった。

「わりぃ、遅くなっちまった」

 バイクのエンジンが切れ、爆音が鳴りやむと、ヘルメットをかぶった革ジャンの男がバイクから降り立って言った。

「大丈夫ですよ、アニキ」

「時間は……五分遅れね」

 水戸と下中はそれぞれ対照的な反応を示すが、どちらの顔も待ち望んだ番長の登場に明るくなっていた。

「はは、相変わらずこのみは厳しいな」

 振り返った革ジャンの男が、ヘルメットを外す。ぼろん、と額に垂れるセットされてまとまった髪。革ジャンを脱げば、地肌を覗かせる胸元の大きく開かれカッターシャツに、銀のネックレスがきらりと光る。その上に今度は学ランを羽織ると、立派なこの学校の生徒の姿になった。

「お疲れ様です! 竜美さん!」

 一斉に彼、竜美懸(たつみかける)を迎え入れるように整列した仲間たちが叫ぶ。

「お疲れさん! いやぁ、朝からバイトするとさっすがに疲れるな」

 竜美はそう言いつつも、爽やかに笑った。

「アニキは働き過ぎなんすよ。学校までサボって。出席日数足りなくてまた留年したらどうするんすか」

「そんときゃそん時だ。俺に見えているのは、すぐ目の前に迫ったゴールデンウィークだけだからな!」

「相変わらず今日に生きてるわね、アンタ」

「おうともよ! 青春は一日一日無情に過ぎていくんだ! 未来のことなんか考えて無駄に過ごすわけにはいかねえよ!」

 懸の言葉に、男たちは全員きらきらと眼を輝かせる。女子たちは少し呆れ気味だ。だが、彼らも彼女らも、みんな彼のそんな生き方が大好きだった。ここにいるのは全員、懸のことを敬愛する仲間であり、青春に悩める子羊たちだった。

「じゃあよ! 早速集会を始めるけどよ……」

 そして、彼らが今日ここに集ったのは、週に一度の彼らの集会のためだった。今日は、例年の恒例行事になっているゴールデンウィークのバイク旅についてだった。懸とこのみがバイトに精を出しているのは、この為だ。

「……ってことで決まりでいいか?」

 全員が頷く。集会は数分で終わった。

「じゃあ、今日はここまで! 後は自由に解散!」

 駆がそう宣言するも、すぐにこの場から立ち去るものはいなかった。

「いやー、楽しみだなーバイク旅」

「そうね」

 去年はチャンスが無かったから今年こそは……。このみは懸の言葉にうなずきつつも、内心ではそう考えていた。本来なら一学年上のはずの懸だが、今はこうして同じ学年にいる。今年こそ告白して、彼と……このみは恋愛に燃えるお年頃の乙女だった。

「そういやよ、アニキ」

 このみが恋に燃えているなか、下中が懸に話しかけた。

「なんだ?」

「うちのクラスに今日転校生が来たんだ。女の子の」

 びくん、と懸とこのみが反応した。このみの方は、まずい、と嫌な予感に冷や汗を流す。

「ちょ、ちょっとバカジュン!」

「えっ?」

 このみの予感を知る由もなく、ただ単に与太話として話をした下中はぽかんと三白眼を怒らせているこのみの真意が理解できなかった。

 そんなこと言ったらいつもの発作が始まる! このみがそう言おうとしたときだった。

「な、ななな、なんだってーーーーー!!?」

 懸が大声で吠えた。彼の声が反響して、校舎も住宅街の家々にも振動を起こさせているようだった。

「ただでさえ悪い評判しかないせいでこの学校に転校生が少ないってーのに、しかも、女子だと? なんて、なんて青春の匂いのするイベントなんだ!!!!」

 また吠える懸。それを見て、このみは深い溜息をついてしまう。こうなると手が付けられない。青春、青春、尋常じゃない青春馬鹿の懸が、学校で滅多にない出来事が起こると、すぐに興奮してバカみたいな行動を取ってしまう。それが彼の最大の欠点だとこのみはお思っていた。

「なんでそれをもっと早くに言ってくれなかったんだ!」

「だ、だってよ、アニキ。俺達だって今日知ったんだよ」

「それはアンタだけ。アタシらは前から知ってたわよ」

「なんで!?」

「一応ー、先公の話聞いてるからねー」

「く、くそー!! お前らばっかり楽しい青春イベントをこなしやがってええええ!! こうしちゃいられねー!!」

 懸が雄叫びをあげながら駆け出した。

「あ、アニキ、どこに行くんすか!?」

「今からパンを買って、登校時間までパンを咥えて町内一周じゃあああああああああああああああ!!!!!」

 懸はバイクも置いて、駐輪場を猛スピードで走り去って行った。

「あ、アニキぃいいいいいいいいいい!!!」

 今度は、下中の悲痛な叫びが響いた。

「……つーか、なんでパン咥えて全力疾走なのよ」

「多分、転校生がパン咥えて街角で打つかって「ごめんなさい」「大丈夫だよ」「はっ、かっこいい人!」みたいなラブコメのお約束をやりたいんじゃないの?」

「パン咥える方逆じゃん!!」

 このみは今日何度目かのため息をついた。なんだか、さっきよりももっともっと嫌な予感がして胸が苦しかった。その苦しみを少しでも発散するためにも、失言をした下中に、もう一度、今度は思いっきり全力での蹴りをブチ込むこのみであった。


ストックをふやさねばならないと思う投稿スタートから一か月目の今日この頃

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