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コワモテ!  作者: リソタソ
再会と出会いの春先
2/105

不良たちの巣窟で・・・・・・始まり!?

 がっくりと肩を落としながら通学路を歩く。折角会うの楽しみにしてたのに、会ったら会ったで、見た目が変わっちゃったショックもあったけど、それでもやっぱりかっこいいなって思ってたのに、私のバカ。はぁ、嫌われちゃうなんて……。

 とぼとぼと歩いて、顔を上げればワンちゃんの後姿が見える。それが一層私を惨めな気分にさせる。

 同じ学校で良かったなぁ、なんて思ったのに、今じゃ地獄だよぉ。私はまだ顔を伏せることにした。もしかして、学校生活でもこんな風にずっと顔を伏せてなきゃいけないようなことになるのかなぁ……。

 しばらく歩いていると、駅前の繁華街から離れて家が立ち並ぶ住宅街についた。その住宅街の道を縫うように歩くと、私の通う学校のある木々が生い茂った丘が見えてきた。丘のふもとに駐輪場があって、その横の方には丘を登るために舗装された坂道があった。相変わらず、前を歩くワンちゃんもその坂を登る。私の方も相変わらず目線を下におろして、足元のアスファルトをしげしげと眺めながら後に続いた。

 坂道を登って階段も一段一段、足元をきちっと確認しながら登る。そして登り切ったとき、私の靴の上に一枚の桜の花びらが舞い落ちた。

「……桜?」

 重い頭を上げて見上げてみれば、校舎に続く平らな一本道の両脇に、ずらっと桜が並んでいた。

綺麗な桜並木……。私は足を止めて頭上に広がるピンク色の桜の屋根を見上げた。なんだか、足元を見ていたのがすごくもったいないと思った。桜並木が、私を歓迎している。そんな思いに浸りながら、また歩み始める。

 じゃりっ。

 私は何かを踏みつけた。もしかして……毛虫!? なにか小さい、それこそ芋虫みたいなものを踏んでしまったような感触……あれ、でも、毛虫を踏みつけたならぺちゃんこになっているはずなのに、踏みしめてもまだ感触が残っている。恐る恐る足をどかしてみると……

「こ、これって、また!?」

 先の方を黒々と炭にし、短くなった煙草の吸殻だった。

「……なんだか、すっごい嫌な予感がする……」

 桜によって高揚した気持ちがすっかり落ち込んでしまった。なにもなければいいんだけどなぁ……。



「失礼します」

 学校について私はすぐに職員室を尋ねた。

「はーい、あら? あなた、転校生の子?」

 白衣を着た美人の先生だ。もしかして、保健室の先生かな。

「はい。今日からお世話になります、咲宮叶恵です」

「咲宮ちゃんね。校長先生が待ってらっしゃるから、まずあいさつに行ってね。あ、そうか、場所知らないわね。じゃ、案内してあげる」

「あ、ありがとうございます」

 私は美人の先生に連れられて、職員室の隣にある校長室に入った。

「校長先生、転校生の咲宮ちゃんが来ましたよ」

 ソファと大きな机のある部屋で、校長先生は偉ぶる風もなく、大きな椅子にちょこんと座っていた。

「おやおや、これはどうも初めまして、校長の湯水です」

 校長先生は立ち上がってぺこりとお辞儀をする。

「こちらこそ初めまして、咲宮叶恵です」

 私も慌ててお辞儀を返す。良かった。校長先生も美人の先生も優しそうな人で。

「咲宮君も大変ですねぇ、こんな時期に転校することになるなんて、やっと元の学校でも新しいクラスメートの顔を覚えられるようになったくらいでしょう?」

「は、はい……。でも、母親の仕事の都合ですし、この学校でも頑張り……ます」

 一瞬、私の頭に不安がよぎった。ワンちゃんみたいに嫌われたりしちゃうんじゃないか、友達、できないんじゃないかとか。

「良い心がけですねぇ。うちの学校は本当に個性の濃い子が多いので大変でしょうが、頑張ってくださいね、僕も応援しますよ」

 本当に、校長先生は人のいいおじいちゃんって感じ。子供たちに好かれていて、先生たちからも尊敬を集めているような、そんな人のようにおも……。

「チョットー!!! 校長センセ!!! コレは一体、ドーイウ事なのデスか!!!?」

 ばん!! と扉が勢いよく開け放され、誰かが入ってきた。片言の日本語で叫び立てながら、私たちを押しのけて校長先生の机の前に立つと、その人がすごく背の高い、外国人の男性だと分かった。

が、外国人の先生!? 英語の先生かな? とても怒っているみたいで、本当は綺麗にワックスで固められた髪形をしていそうな七三分けの頭をしているんだけど、今はまさに怒髪天を髪であらわしているような、かきむしられた崩れた髪形になっている。

「こ、これはダズィー先生、一体、どうしましたかな?」

 校長先生もさすがに詰め寄られて苦笑いをしている。ど、どうしたんだろう。

「ドーシタもコーシタないデスよ!!! この教科書の目次をミテクダサイ!!!」

 ばん、と手に持っていた教科書を叩きつけた。後ろから覗き込んでみるとそれは……国語の教科書!!?

「目次ですか、どれどれ……おやおやこれは……」

「オキヅキになられマシタネー、そう! 今年の教科書ーには、太宰治のショウセツが一つもノッテナインデース!!!!! 校長センセ、ワタシイイマシタよネー。太宰治のノッテイナイ教科書はワタシ使わないト」

 太宰治!!? それに、もしかしてこの人、国語の先生!?

「ン? オヤ? 校長センセ、どうして、生徒がココにいるんデスか?」

 外国人の先生、確かダズィー先生だっけ? 初めて私に気が付いたみたいに片方の眉を上げていぶかしげに校長先生に尋ねた。

「ああ、彼女はね転校生ですよ。君が授業を受け持つ二年生の生徒です」

 校長先生が教えると、ダズィー先生は大げさに手を叩いて、ナルホド、と言った後、私の方に手を差し出した。

「ワタシ、国語の教師をシテマス、ダズィー・オーサムです」

 ぶっ、と噴き出しそうになるのを堪える。だ、ダズィー・オーサムって……。

「おぉ、ニッポンジン、みなワタシの名前を聞くと笑うの堪えマス。それは太宰治に似てイルからデショウ?」

「す、すみません……」

 み、見抜かれてた。

「気にしなくていいンダヨ。ワタシはこの名前をとても気に入っているカラネ。ところで、ガール、お名前ハ?」

「あ、私は咲宮叶恵です。よろしくお願いします」

 私はダズィー先生の差し出された手に手を伸ばした。握手が交わされる。うわぁ、私、初めて外国人の人としゃべって、握手もしちゃった。

「ところで……君は太宰治のショウセツは、読んだコト、アリマスカ?」

「えっ? え~と……」

 太宰治、太宰治……えーっと何書いた人だっけ、『舞姫』だっけ、『雪国』だっけ……いや、どっちも違うような……。

「モシカシテ、読んだことナイんデスカ!!!?」

 ダズィー先生は急にまた怒り心頭怒髪天の、江戸時代の外国人の似顔絵みたいな顔になった。

「ひゃああああ! ご、ごめんなさい、読んだ事ない、かもですーーー!!」

「シットゥ!!! これダカラニッポンジンはダメダメなんデス。自分の国のそれも最高傑作タチを読んだ事がない人がアマリにも多すぎるダナンテ。モウ、太宰が生きていたらシニカルにイマのニッポンジンを批判してマスよ!」

「ダズィー先生の場合は偏愛すぎますけどね」

 美人の先生の指摘にも、ダズィー先生はちっともひるまない様子で続けていく。

「偏愛でケッコウデース。私は生まれてこの名を受けた時から太宰治の文学とシンジューする運命にあったノデスからねー。カワバタなんかヨミマセーン」

「ね、個性的でしょう?」

 にこにこしながら校長先生が言う。いや、個性的すぎるような気がするんですけど……。

「そう言えば、君のクラスは二年C組になるんだが……」

「あ、はい!」

 もったいぶった校長先生の言い方に、そのクラスに何かあるんじゃないかと勘繰ってしまう。

「そこの、若槻先生が担任なんですよ」

「……えっ?」

 私は振り返って、後ろの美人の先生を見た。先生はふふっ、私と目が合うと微笑んでくれた。

「そ、私が担任の若槻春香よ。担当は数学。よろしくね、咲宮ちゃん」

「あ、改めまして、よろしくお願いします」

 私は改めてお辞儀をした。口元のにやけが止まらない……やった! こんなに優しそうで美人な先生が担任だなんて、あぁ、今日はいやなことがたくさんあったせいで、これが今日で一番うれしいことのように思える。

「若槻センセはこう見えても一児の母ナンデース」

「もう、ダズィー先生ってばそんなことも紹介しなくていいでしょ?」

「えっ、ご結婚なさってるんですか?」

 若槻先生は左手薬指の指輪を見せてくれた。いいなぁ……。

「ええ、でも、そんなに驚くことかしら?」

「あっ、そのぉ、先生ってすっごく若いじゃないですか、だからちょっと意外だなって……」

 私がそう言うと、校長先生とダズィー先生がびくりと小さく震えるのが見えた。

「こ、コレはまずいコトが起こりそうな予感がシマース」

「ですなぁ……さ、咲宮君、若槻先生に年齢のことを聞いちゃ……」

 こそこそとしゃべる二人。なんだろう……? 私に向かって校長先生が何か言ったようだけど、

「本当!! もー、咲宮ちゃんってばー! 先生は若く見えているだけよー!」

 若槻先生の上機嫌な声に押しつぶされて校長先生の声が掻き消えてしまった。何が言いたかったんだろう? ま、いっか。若槻先生もとっても楽しそうだし。

「そうなんですか!? てっきり二十代前半だと思ってました」

「そんなに若くないわよー」

「へぇー、先生っておいくつなん……!?」

「……!!!??」

「………………アチャー」

 途中まで言いかけると、場の空気が一瞬にして凍り付いた。若槻先生はさっきまでの微笑をちっとも崩していないんだけど、なんだか背後からもやもやした黒―い何かが出てきているような、不穏な空気を纏っているし……、も、もしかして、またやっちゃった?

「おいくつ……って何がかしら?」

 怖い! 何、これ!? 普通のトーンと全く同じ声なのに! なんか怖い!!

「そ、それは……そのぉ……ね……むぐっ!?」

 と言いかけた時、ダズィー先生が私の口に手を押し当てて黙らせた。

「ハッハッハ、彼女は若槻センセのバストサイズを聞いたんダヨー……ね!?」

 ダズィー先生が目で合図している、とにかく合わせろと。私はぶんぶん頭を振って頷いた。

「もう、ダズィー先生。それはセクハラですよ?」

「オー、これはシツレイシツレイ、紳士としてハズべきことをしてしまいマシタ」

「咲宮ちゃんも!」

「……むぐっ!?」

 私はまた頷いた。

「オー、シツレイ」

 若槻先生が再び上機嫌になるのを見るや、ダズィー先生が私の口に当てていた手を離してくれた。息苦しかった……でも、それ以上に怖かった。ダズィー先生が止めてくれなかったら一体どうなっていたのだろう……。

「初対面の人に「おいくつ」なんて聞いたら…………だめよ」

 ずっとにこやかでトーンの高い声で話していた若槻先生だけど、最後の「だめよ」で劇的に声が変わった。まるで脅しかけるような、鋭利なナイフみたいな冷たく鋭い低い声。

「はい!!!!」

 それを聞いて、私は素直に即答した。昔の軍人さんが上司に気を使ってるみたいだ。

 ……それにしても、先生方個性強すぎぃぃ……。




「さ、ここが二‐Cの教室よ」

 若槻先生に連れられて教室に来たんだけど……なんだろう、すっごい騒がしい声がガンガン聞こえてくる。ドアは締め切られているようだけど……今ホームルームの時間の前だし、ちょっとぐらい騒がしくってもしかたないのかな?

「じゃ、早速入りましょうか」

 先生がドアに手を掛け、勢いよく開けた。

「はーい、みんなー、おはようございまーす」

 先生が教室の中に入り、私もその後に続く、いったいどんな人達がいるんだろう……。

「今日はですねー、転校生を紹介しますよー」

「……っ!!!?」

 教室に入ってすぐの場所は教室全体を一気に見渡せた。見渡せたのはいいんだけど……。

「う、嘘でしょ……」

 教室の一番後ろの黒板にはチョークじゃなくてスプレーで落書きされていて、机なんかは列を成していなくてぐっちゃぐちゃだし、酷く混沌とした内装になってるし……しかも、見渡す限り髪の毛が逆立ってたり、女の子はみんな金髪だったり赤だったりするし、これってもしかして……いや、むしろ絶対に……

 みんな、不良おおおおおおおおお!!!?

 こ、校長先生、個性的って言ってたけど、これは個性的すぎるよぉぉ……。

「はい、では自己紹介お願いしますね、咲宮ちゃん」

「えっ、あっ、は、はい」

 急に振られてテンパりながらも姿勢を正す。きちんと、挨拶しないと……。

「さ、ささ、咲宮叶恵です! よ、よろしくお願いします!!」

 ぺこり、とお辞儀をして体を起こす。

 しーん……。教室中が静まり返っていた。

 あ、ああ、あああぁぁぁぁぁぁぁ。もう、やだぁ、みんな反応してないし、むしろ無反応で私のこと睨めつけてる……な、なんかとっても、居づらいよぉ……。

「はい、じゃあみんな仲良くしてあげてね。それじゃあ咲宮ちゃん、空いてる席に適当に座ってね」

「あ、はい……って、あのぉ」

「どうしたの、咲宮ちゃん」

「先生、空いてる席が五つくらいあるんですけど……」

「あ、そうね。でも、どれでも好きなとこに座っていいわよ。どうせ来ないし」

こ、来ないって……ま、まぁいいか。どうして来ないかはそっとしておいた方がいいかもしれないし。じゃあ、適当に一番近い席に座ればいいかな。

一番近い席、それでも後ろから三列目の廊下側の席でちょっと遠いんだけど、でも、これ以上遠くの席の方はなんだか怖そうな人いっぱいいるし、一つは女の子たちに取り囲まれてるし、一つは廊下側の一番後ろだし、ここでいっか。

そう思って席に着いたとき、シャン、と勢いよく後方のドアが開かれた。

「……」

 振り向いて見ると……えっ!? ぎろりと私の方に目を向けているのは、わ、ワンちゃん! 

「……ちっ」

 ワンちゃんは舌打ちしながら一番後ろの席に座った。

「あー、大神ちゃんまた遅刻して、そろそろ遅刻するの止めないと留年しちゃうよー?」

 先生がワンちゃんに注意した。

「……ちっ」

 ワンちゃんの方を向くと、ワンちゃんは舌打ちしてそっぽを向いた。

 同じ、クラスなんだ……。ちょっとだけ嬉しいかな? で、でも、やっぱり不良ばっかりなのは……。私、このクラスに溶け込めるかなぁ……無理そう。あぁ、やっぱり前途多難だぁ……。


この回以降、次数が少なくなっていきます。

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