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身体の変化?

 俺の女隊長の後を他の女戦士たちと共に追って走っていた。

 どうして男戦士がいないのか?

 簡単だ。

 本来、普通、通常なら、男は戦力にならない。なれないからだ。

 世が世なら、戦士は男と決まっているかもしれないが、この世界では真逆。

 力において女は男を完全に勝っている。

 だからあの女隊長以外は俺を見た時に、一丁前に剣を握っている俺を見て嘲笑(ちょうしょう)してたんだ。

「いたぞ! 総員止まれっ! ここで迎え撃つ!」

 先に見えるのは五体の生き物。

 しかし一目でわかる。それが普通の生き物ではないと。

「くっ。運の悪い。獣型のスライムか」

 スライムの厄介な特長として一つ。

 打撃を含め、斬撃さえもほぼ無効化されてしまうのだ。

 レベルが相当に高いものならばスライムだろうと斬って捨てるのだが、戦士たちの表情を見るにそれは無理なんだろう。

「……この中に攻撃魔法を実戦レベルで使える奴はいるのか?」

「……いないな」

 スライム唯一の弱点。

 それは魔法だ。

 ジェル状の身体をしているスライムだが、そのほぼ中央にある丸い球体。あれがコア、本体なのだが、通常武器ではジェルによって柔軟にダメージを逃がしてしまい、ダメージらしいダメージを与えることが出来ない。

 スライムがというよりも、あのジェルの弱点こそが魔力であり、魔法なのだ。

「し、しかし相手は所詮スライムだっ!」

「確かにスライムは雑魚だけど、対処法がしっかりしてるから雑魚ってだけで、対策無しでだとそれなりに強いぞ?」

「この子の言う通りだ」

 俺の言葉に賛同するのは女隊長。

 やっぱりこいつは頼りになるな。

 まあ、あいつが馬鹿すぎるだけかもだが。

 俺に喧嘩を売って早々に負けたあの女戦士がまたも突っかかってきたが、女隊長が味方なのだ。負けはない。

「だとよ」

「くっ」

 内心では思いっきりバカにしながらも、表情の上では冷静に言う俺。

 セッカとやらは悔しそうにギリギリとここまで聞こえるほどに強く歯を噛み締めている。

 歯。悪くするぞ?

「ねー。隊長さんはあれやれる?」

 つまり剣でジェル状のボディを突破できるかという問いだ。

 前はここで俺は戦線に出なかった。

 そのため、この時のこの人の実力を知らない。

 もしかすると隊長とはいえ、話にならないレベルかもしれない。

 だけど、俺は確信していた。

「……ふっ。どうだと思う?」

「斬れるでしょ?」

 女隊長は言葉は返さずに、笑みを深めるだけで前を向く。

 まっ。でしょうね。

 雰囲気が明らかに強いもん。

「お前たちは下がって我らがうち逃したものの足止めをしろっ!」

「「「はっ!!」」」

 ……ん?

 我ら?

「君も手段があるのだろう?」

「……まあね」

 何この人。人の心を見透かす能力でもあるのか?

 そうすると色々やばいんだけど?

「君の実力。見せてもらおう」

「……はいはい」

 諦めが肝心だと思うんだよね。

 そもそもせっかくやり直せることになったんだ。

 色々変えてやる。

 俺の望むようにな。

 だから元々力を出し惜しみするつもりなんてまったくないんだよ!

「おりゃっ!!」

『魔法剣、虚炎(きょえん)

 俺がスライムに向かって剣をすりおろすと同時にお得意の魔法を発動する。

 その瞬間。

 俺が握るのはただの剣ではなく、紅蓮に燃え盛る炎の剣となった。

「なにっ!?」

 隊長さんが驚くのも仕方がない。

 普通。こんな鈍じゃ魔法剣は発動出来ない。

 特に炎属性なんてもってのほかだ。

 理由は至極明快。

 炎に剣が耐えられないからだ。

 普通。魔法剣を使う時には専用の武器を用意するものだ。

 それがあまりにも高価で剣だと一本で家が一つ買えてしまう程だ。

 一瞬でスライムは二つに分かれ、煙なって消える。

「……本物?」

 女隊長は思わず足を止めてしまう。

 ただの子供がそんなものを持っているわけがないと思ってるんだろう。

 その通りだ。

 これはただの鈍。

 正真正銘の屑刀だ。

 この世界の誰もが持っている魔力。

 魔力は個人によってその性質が違う。

 俺の身体にも魔力が流れている。

 現世ではまったく気が付かなかったが、この世界に落ちた瞬間に大量の情報が頭の中に流れてきたのを今でも覚えてる。

 あの時の頭痛は本当に死ぬかと思ったからな。

 けど、だから俺は生きていられたのかもしれない。

 力があると知れたから。

 生き延びることが出来るとわかったから。

 確信に至る属性。

「……幻の炎に焼かれる気分はどうだ?」

 幻属性。

 つまりは幻術能力だ。

 普通一人につき得られる属性は一つだ。

 しかし俺は、俺の力はそんなものを気にしない。

 だって幻だから。

 存在していないものを存在していると錯覚させる魔法。

 錯覚している間は相手にとって現実となんら変わりはない。

 だからこそ、本当はただの剣に斬りつけられただけだというのに、スライムの身体は断ち切れた。

 自ら結合を解除してしまったのだ。

「次っ!!」

 振り下ろした状態の剣を振り上げると同時に横になぎる。

『魔法剣、虚氷(きょひょう)

 振り下ろし、刃が地についた時点で炎は消えている。

 今は炎ではなく、むしろ逆。冷気を纏っていた。

 この距離からではスライムを斬ることなんて到底出来ない。

 だからこその『虚氷』なのだ。

 刃を延長させるようにして氷の刃が伸びる。

 剣の間合いを自在に変化させる術。

 それこそが『虚氷』。

 今の一振りでスライムは二体まとめて煙となって消えた。

「おりゃっ!」

 女隊長に出番はやらんという気持ちで俺は『虚氷』を発動したまま剣を振るう。

「ちっ!」

 残念なことにこの攻撃は避けられてしまった。

 さすがは獣型だなと言い訳をしてみる。

 いや、本当だよ?

 獣型の特長としてすっごくすばしっこいんだもんっ!

 そりゃ不意打ちじゃなきゃ『虚氷』みたいな大振りの攻撃あたりませんよっ!!

「あーもうっ! めんどいっ!」

 一閃、二閃と小馬鹿にされているかのように俺の攻撃は避けられていく。

 獣型はただのスライムと違って多少の知能らしきものがある。

 そのため仲間が一瞬でやられてしまっているために攻めてはこない。

 ずっと俺の攻撃をかわしながら距離を取っている。

「すまない。手伝うぞっ!」

 硬直が解けた女隊長が抜刀し突進している。

 スライムとはいえスピードは獣並。刀剣を武器にしている女隊長では追いつくことすら難しいだろ。

 だが、そんな俺の予想は簡単に裏切られた。

 いやまあ、良いことなんだけどな。

「桜花流。『瞬花(しゅんか)

 魔力を使って足元に作った線の上を滑るように、まるで電車がレールの上を走るように女隊長は高速移動をした。

 刹那にスライムの正面についた女隊長は振り上げた剣を振るう。

 普通ならスライム相手に斬撃なんて無駄だと鼻で笑ってしまうのだが、女隊長の一閃は速く鋭い。

 世の中頑張ればあの柔らかい豆腐でも人を殺す凶器になり得るらしいい。

 常識なんてものは捨てるためにあると俺は思うね。

 事実。

 スライムは中心のコアごと真っ二つに断たれていた。

「はっ!」

 女隊長はそのまま返す剣で隣のスライムも斬り捨てる。

 あーあ。終わっちゃった。っと心の中で毒を吐く俺は、準備していた魔法を魔力に戻した。

「わーお。刀剣でスライムを斬り捨てるなんて凄いな」

「ふっ。私は君に驚いたのだがな」

 戻ってきた女隊長にそう言葉を掛けると、何やら嬉しそうに口元を緩めていた。

 後ろでは女隊長の部下たちがまるでアイドルのおっかけのようにはしゃいでいる。

「ここはライブ会場か?」

「ライブ会場とはなんだ?」

「いや。気にすんな」

「そうか」

 そういえばこっちにはアイドルって概念がない。

 そのせいなのかは知らんがライブって単語もないらしい。

「皆、戻ろうっ」

「はいっ!」

 今回まったく役に立ってない女隊長の部下たちだけど、返事だけは立派だな。

 女隊長がいろいろと俺の魔法剣について聞いてくると思ってたんだが、どうやらそれは杞憂に終わりそうだ。

 まあ、話そうにないことが簡単にわかるからな。

 それよりもだ。

 気になることがあった。

 どうして俺がこの戦いにここまで焦って参加したのかだ。

 まあ、ぶっちゃければ前のルートでの知識からくるものだ。

 今回の戦い。

 俺は現世にいる時から剣道って奴をやっていたんだが、師範曰く最弱。大した力もなかったため、俺はおとなしくリティカと一緒に避難をしてたんだ。

 だけど一つ悲劇が起こった。

 前線が突破されたんだ。

 多数の死者が出ちまった。

 リティカはどうにか軟弱な俺の剣で守ることが出来たのだが、それだけだった。

 村の半数がやられてしまったんだ。

 その中には、リティカの母親もいた。

 あの時のリティカは見ていて辛かった。

 だから、もうリティカにあんな顔をさせないために前に出たのだが、あの部下たちは負けても仕方がないにしろ、あの女隊長の実力がありながらも突破されるなんてあり得るのか?

 最後の攻防を見ていればわかる。

 明らかに女隊長の実力はあんな連中に遅れを取るレベルじゃない。

 何かあったのか?

 いや、今それを考えても意味はないか。

 俺は俺のするべきことをするだけだ。

 俺はこの世界を変えてみせる。

 世界の修正力とやらはさほどないらしいからな。

 なんせ、出なけりゃこうしてリティカに嬉し涙を出させながら抱きしめられてはいない。

「チアキーっ」

「リティカー?」

 まずい。

 これは非常にまずい。

 何がまずいって?

 いやいやだってリティカは美をつけるに相応しい少女だよ?

 前のルートではまったく気にする必要がなかったけど、今回はそうはいかない。

「えーと、リティカ?」

「チアキー……ふにゃ!?」

 自分が一体何をしているのか今になって自覚したらしいリティカは顔を真っ赤にして瞬間移動したんじゃないかというスピードで離れた。

 ……ちょっと名残惜しいのは内緒だ。

「リティカ? 後でお説教な?」

「えっ!? ど、どうしてですかっ!?」

「リティカには自分が美少女だっていう自覚を持って貰おうと思いましてね」

 落ち着け。落ち着くんだ内なる俺よ。

 だめだ。やめろっ!

 リティカを抱きしめようとするなっ!

 だって仕方ないじゃんっ!

 なんだよこの小動物みたいな愛らしい生き物はっ!

 俺は元々可愛いものが結構好きなんだぞ!?

 拷問かっ!!

 拷問なのかっ!?

「えと、チアキ大丈夫ですか?」

「……大丈夫」

 内なる声に抗い、どうにか我が心を落ち着かせた俺。

 って、なんだかさっきから俺の言動が中二病っぽいんだが?

 ……はあ。疲れてるのかな。いろいろと。

「本当に大丈夫ですか? なんだかすごく疲れてる顔してますよ?」

「……はぁー。リティカは優しいなー」

「ふにゅあっ!?」

 おっと。

 ついつい昔の癖でリティカの頭を撫でてしまっている。

 ……けど、本当に撫で心地いいなー。

 俺もこんな髪に生まれたかったものだ。まあ、手入れをサボったのが原因なんだと思うけど。

「悪い。つい」

「い、いえ……私は大丈夫です……」

 撫でるをやめて一応謝っておくと、赤くなってうつむくリティカ。

 うん。可愛い。

 もっかい撫でてもきっと大丈夫だろうなー。

 いやいや。リティカがお願いを拒否できない系美少女だからってそんかことお願いしていいのか?

 否っ!

 だめに決まってるじゃないかっ!

 もう俺は前回の俺とは違うんだ!

 リティカが嫌がらないからって毎日のように抱き枕にする生活はダメなんだ!

「あっそうだ! お母さんは無事か?」

「えっ? う、うん! チアキたちが頑張ってくれたおかげで助かったよ!」

 きゃっきゃっと擬音が付いているかのようにはしゃぐリティカ。

 うん。可愛い。

 念のために、いや別にリティカのことを疑ってるわけじゃないよ?

 そういうわけじゃないのだけれども、念のためにこの目で見ないと不安で仕方がない俺はリティカに言ってお母さんのところに連れて行ってもらうことになった。

「おかーさーん。チアキ帰ってきたー!」

 心から嬉しそうな声で抱きつくリティカ。

 リティカが抱きついた相手。それはどこからどう見てもリティカの母親だった。

「……よかった」

 思わず呟いてしまった。

 棒立ちでそんなことを呟いている俺を不審に思ったのか、リティカの母親は俺に困ったような視線を向ける。

 この目で見るまで不安だった。

 だって、昔良く読んでいた物語。

 ループ系の物語だと大抵は修正力とやらで運命とでもいうのだろうか、最初のループで死んでしまった人を助けることなんて不可能なことが多かったから。

 だから、不安だった。

「……よかった」

 あれ?

 おかしいな。目の前で揺らいでいく。

 まるで酔った時みたいだ。

 グラグラとグルグルと回る回る世界が回る。

「……チアキっ!?」

 どうしてリティカそんな顔をしてるんだ?

 ああ、そうか。

 これ、魔力の使い過ぎか。

 それを自覚すると同時に俺は倒れ、気を失った。


「……あれ?」

 視界が広がった時、目の前に広がるのはあの村で借りている部屋……ではなく。何もない。完全なる白の空間だった。

「ここ、どこだ?」

 こんな場所、俺は知らない。

 今の俺は怪訝な顔しているだろう。

 ……いや。待てよ?

 なんとなーく。本当になんとなーくこの後の展開が読めたような気がするな。

 だってこれってあれじゃん?

 思いっきりの、テッパンでしょ?

「……だね」

 ほらー!

 狙っているかの如く背後から響き渡る若い声(・・・)

 ……ん? 若い声……だと……?

「……悪い?」

 少し拗ねてるような声に俺は少しの焦りを感じながら振り向いた。

 いやまあ、そうしないと話進まないし?

「……初めましてであってるか?」

「……驚愕。礼儀、出来たの?」

 振り向きながら珍しくも礼儀をわきまえて話す俺。

 視界に映ったそれはそんな俺に思いっきり驚いたような顔を向ける。

 ようじゃなくて驚いてるんだろうけどね。

「……で? 君は何?」

「……ふふ」

 目の前にいるそれは。

 俺の想像ではなんか白髪で長い髭を生やしてるおっさんが出てくると思ってたんだけど、期待を裏切るかのように現れたのは、少女(・・)だった。

「……文句ある?」

「……いや、ないけど」

 文句はない。異議はあります。

 なんてね。

「……人はそれを文句と言うはず」

「……わーお」

 少女の言葉に。

 神秘的な雰囲気を持った少女の言葉に驚く俺。

 驚いた理由?

 そんなもの、目の前のそれが自然に、ナチュラルに当然の如く人の心を、地の文を読んできたからじゃない。

「……君は人じゃないのかな?」

「……否定する」

 本当に? そんな疑問は口にしない。意味がない。無意味だ。

 だから飲み込む。だけど、あーあ。不貞腐れちゃってるよ。

 そりゃそうだよねー。

 だってこの字が、心が読めるっぽいからねー。

「……メタい」

「あーもうっ! なんでそんなこと言うんだよ! その一言さえなければそういうものだとして認識されたかもだろ!?」

「……肯定を否定しない」

「……あー。もういいや。なんとなくこのまま問答を繰り返しても続かない気がする。先になっ!」

 両目を大なり小なり記号っぽくして訴える俺。

 この神秘的な少女はさっきからほとんど表情を変えていない。

 この神秘的な少女の表情で動いているのは目ぐらいだ。

 目は心を語る……てか?

「……安堵する」

 手を絶壁に当てて一息つく神秘的な少女。

 ……あっ。神秘的な少女の両目が薄っすらと光っている。

 ……ああ。なるほど、涙か。

「なんで泣いてんだ? 神秘的な少女?」

「……ドコ」

「……どこ?」

 何を言っている?

「……銅おこ。略してドコ」

「分かりづらっ!?」

 なんですかその新しいやつはっ!

「……上位版にシコとゴコがある」

 あっ。わかったっ!

 ピンポーン。早押しクイズの如く女に見えないスイッチを即座にクリックする俺。

 いや、クリックよりもタップか?

 そんなことより、あれだろ?

 シコはどうせシルバーおこの略で、ゴコは五個じゃなくてゴールドおこだろ?

「……肯定」

 それならドコじゃなくてブコの方がいいんじゃないか?

 銅じゃなくて、ブロンズで。

「……最下位版はブコに変更」

「……あっ。はい……」

 躊躇なく変更しやがった。

 迷いなんてどっかに捨てたのか?

 いらないのか?

 ホールインワンか!?

「……最後の、関係ない」

「人の心に突っ込むな!」

「……反省?」

 首をこくっと傾げる神秘的な少女。……それにしても毎回毎回神秘的な少女って言い難いな。

 なんか他に呼び方ないのか?

「……名前?」

「それだっ!」

 いや、むしろなんで今までそこに考えが至らなかったんだ俺は?

 バカなの? アホなの? し……ゲホゲホ。

「……そのネタ嫌なの?」

「いや、なんかこれは使ったら負けかなって……」

「……なにそれ? 美味しーー」

「それもアウトっ!!」

 ネタを口走りそうになっている神秘的な少女の口を慌てて塞ぐ俺。

「あーもうっ! いちいち神秘的とか面倒い!」

「……私のせい?」

「そうだよ! 早くさっさとせっせとえっこらよっさか名前を言えー!」

 再度両目を大なり小なり記号っぽくして叫ぶ俺に、神秘的な少女はため息を一つ。

「……その目やめて。言う」

 おっと。どうやら大人気もなくジト目を向けていたようだ。失敬失敬。

「……私は神」

「……ん?」

 神って神様のことかい?

「アーユーゴッド?」

「……マイ、ネーム、イズ、カミ」

 ん?

 つまりどういうことだ?

「つまりあれか? その神は神様の神じゃなくて、ただの神ってこと?」

「……そう」

 神って名前の少女らしい。

 うん。ただ一言、言わせてくれ。

「名付け親をここに連れてこい。子供の未来を考えない親には制裁を」

 神って明らかに最近増えているらしいあれだろ? ピカピカネームとかなんというやつ。

 あれって子供の気持ちどうなるんだろうな。まあ、最悪名前を変えることって手続きで出来るらしいし問題ないのか?

 そのうち学校のクラスの過半数がこのピカピカネームになるかもしれないのか。

 ……怖い。

「……私、親いない」

 うん。なんとなく想像はしてたよ?

 けどさ。ほらさ。だから俺はあえて名付け親って言ったんだけどなー。

 俺の気遣いって一体……。

「……そ、そっかー。じゃあとりあえずその名前を付けた奴を連れてきてくれるか?」

「……?」

 首を傾げるんじゃありません!

 ずっと気付かないふりしてたけどそんなことされたら目をそらせなくなるだろうがっ!

 そうだよ!

 もういいよ! 隠さないよ!

 ええ、ええ。そうですとも。

 この神とかいう少女はめちゃくちゃ可愛いんですよこんちくしょう!

 これはリティカといい勝負するぞ?

 くそっ!

 俺は一体どうすればいい!

「……照れる」

 オーマイガガガガガッ!

 そうだった!

 こいつ、地の文が……ごほごほ、俺の心が読めるんだった!

「……そろそろ次?」

「……そうだな。これ以上くだらない問答をするのはアレだな」

 一体名前一つでどれだけ長い間あれこれ話さなきゃいけないんだよ。

「……いや。待て。誤魔化すな。名前を付けた奴を連れてこい」

 あっ。やっぱし。

 そこまで言いたくないのか?

 思いっきり視線逸らしてるのですが。

「……なあ。もしかして」

「……肯定する」

 名付け親は自分ってことか……。

 あれ? 気のせいか?

 頬が若干赤いような……。

「……否定すふ」

「すふ?」

「……話を戻したい」

 あーあ。頬どころか顔全体、耳まで真っ赤になっちゃった。

 なんだかこれ以上は虐めてるような気になるし、仕方がないか。

「それで? ここはどこだ?」

「……神域」

「神域?」

 なんだが随分と大層そうな場所だな。

「……いや。お前が神だから神のいる場所、つまり神域ってことか?」

「…………」

 何も言わずにそっぽを向く神ちゃん。

 うん。どうやら図星のようだ。

「で? なんで俺はこんなところにいるんだ?」

「……ここにいるってのは正しくない」

「……説明よろ」

「……ここに今いる君は精神体」

「精神体?」

 いきなりそんなこと言われてもわからないのは当然だ。

 だから俺の上に大量の疑問符たちが列をなしているのも仕方がない。

「……君は魔力の使い過ぎで気絶中。飛んでる意識をここに連れてきた」

「……てことはここはあれか? 精神世界とか、そんな感じのやつか?」

「……肯定する」

 ふーん。だからこんな現実ではありえないような完全なる白の空間なのか?

「神域ってことは俺の精神世界ってわけじゃないんだよな?」

「……肯定する」

 神ちゃんが既に赤みの抜けた顔で、特にこれといった感情を感じさせない無表情でそう淡々と言うと同時に、俺の目が細められる。

「ならお前は何者だ」

「……ふふ」

 神ちゃんは口端をわずかにあげて小さく笑う。

 ここが俺の精神世界のようなものだと仮定すれば、特異な能力で、【例外】で意識を人の中に入り込むことはあり得る。

 もちろん。この可能性だってあまりにも低いものだ。少なくとも俺は前のルートでそんな【例外】を見たことがない。

 前のルートでこの世界を多少冒険したとは言え、全てを知っているわけじゃない。

 俺が知っているとすればどうしてあの村に女しかいないのかということだけ。

 ここが俺の精神世界ではなく、それ以外の精神世界に近しい何かだとすれば、どうして俺はここにいる?

 どうして俺自身を俺として認識している、できている俺がここにいる?

 他人の意識をそのものの中にある精神世界外の世界に連れて行くことは普通ならばありえないことのはずだ。

 とはいえ、常識なんてものは、その者の持つ知識によって大きく変わるものだ。

 ただ、俺が知らなかったというだけでそういう手段があるのかもしれない。

 しかし、前のルートでそれなりのことを経験した俺が知らない手段を知り、そしてそれを用いているこの神ちゃんとは、一体なんだ?

 俺は警戒レベルを最大限に引き上げる。

 ここで目覚めた時、俺の手に武器らしい武器はなかった。

 けど、俺の属性は幻。

 無を有として見せかける。

 偽物の力がある限り、武器なんてなくても問題ない。

「ーーっ!」

 驚いた俺を見て神ちゃんの笑みが深まる。

「……気付いた? 今の君に魔力は無い」

 自身の内に、全く魔力を感じ取ることが出来なかった。

 この世界に来た瞬間に目覚め、今まで俺を助けてくれた幻属性の魔力。

「……ない、だと?」

 驚愕と動揺。

 様々な感情が荒ぶる中、その大部分がその二つの感情だった。

「俺に何をしたっ!」

 感情のままに叫び、俺は拳を握り締める。

「……見て」

 神ちゃんは笑みを引っ込めて俺に何かを向ける。

 それを一言で言うならば。

「……鏡?」

 俺の身体全体を映すことが出来るほどの大きさの鏡。

「ーーえっ?」

 そこに映っている俺の姿を見て、俺の顔がとある感情に染まる。

 そこに映っていたのはあられもない姿の自分。

 足の指先から、頭のてっぺんまで、肌色一色の自分。

 無論。

 今のは今の現実を今わかりやすく伝えるためのものであって、実際には頭の上には黒い髪で覆われている。

 鏡に映っている自分の姿。

 一言でまとめると。

 全裸だった。

「ーーなんで?」

 視線を下にやれば。鏡を使わずに、裸眼で自分の姿を目視すれば簡易なものとはいえ、服はしっかりとしている自分が映っただろう。

 だけど、それよりも、俺の心にあるのは驚愕の一心だった。

 鏡ごしに見たら全裸でした。

 確かにこれだって驚くだろう。

 心境が驚愕の一色に染まったとしても不思議じゃない。

 だけどそれ以上の驚きがあった。

 そこに映る自分の姿はどこからどう見ても。

「ーー戻ってる?」

 ()の姿だったんだ。

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