目が覚めたら最初の地でした。
俺は死んだ。
現世の日本で産まれ、生涯日本で過ごそうとしていたにもかかわらず、それすら叶うことはなかった。
(悔い……か……)
何もないといえば嘘になる。
いや、この人生悔いしか残っていないと言ってもいい。
好きな人とは結ばれなかった。
結婚も出来なかった。
ぶっちゃけ好きな人すら出来ることがなかった。
(なんで俺はこうなった?)
……わからない。
何もないはずだった。
ただ一つ、確実に言えることがあるとすれば、間違いは全てあの日だったんだ。
あの日。
俺が世界から消えた日。
☆ ★ ☆ ★
俗に言う転移というやつだったんだと思う。
高校に入って、さあこれからリア充目指して頑張るぞと思っていた頃だったはずだ。なのに転移してしまったせいでそれは叶わなかった。
……いや、現実逃避はやめよう。
高校に入って俺は普通に一年を過ごした。
だけど恋人のコの字すら出来なかった。
俺が転移したのは高校二年の夏だったと思う。
ある日寝て、起きたら知らない場所にいた。
最初はそりゃ混乱したさ。
気が付けばいきなり知らない場所だぞ?
恐怖を感じない方がおかしい。
でも不幸中の幸いで俺は転移されてからすぐに保護された。
それは小さい村だったが、とても楽しい毎日だった。
しかし、そこはとある異常があった。
村人全員が女だったのだ。
俺はその村で育った。
結婚は出来なかったものの、一応楽しかった。
だけど、普通転移物ってもっと優遇されるものじゃないだろうか。
普通の幸せすらない。
悔いありまくりだ。
それにーー。
そして俺は死んだ。
あっさりと死んだ。
死に際に思ったのは一つ。
「悔いありまくりじゃこんちくしょーうっ!!」
……ん?
「あー、えー。……えっ、喋れる?」
それだけじゃない。
なんだこれ。声が……若い?
いやいや。そんなわけがない。
俺は既に顔中が皺だらけになるほど高齢だったんだぞ?
だけど、事実として声が若くなっている気がする。
いやいや、気がするってレベルを超えている。
「……若返った?」
俺は自分の顔をぺたぺたさわりながら思わず呟いた。
そしてふと、自分の手に視線を落としてそれは確信に変わった。
手からも皺という皺がなくなっている。
「……よし。とりあえず若返ったことは気にしない方向でいこう」
俺には自分が若返ったという事実よりも気になることがあった。
「……ここどこだよ」
一言で現状を言うと、外にぽつんと俺一人。
はい。意味わかりません。
思わず敬語になってしまうほど俺は動揺していた。
だって俺の死因ってあれだよ?
ただの衰弱死だよ?
寿命死だよ?
ベッドの上にいたはずなのだ。
なのに気が付けば外で座り込んでいる俺。
はーい。この問題がわかる人は手をあげてくださーい。
正解者にはご褒美でぎゅってしてあげるよー。
「……はぁー」
ずっと独り身だったからなのか、頭の中で自分と話す回数が増えた気がする。
当社比五百倍くらいだろうか。
「……なんか色々やばいな。俺……」
ついでに独り言も……。
「……はぁー」
自分のこれからが心配になって深い深い、どこまでも深ーいため息をつく俺でしたとさ。
「……さて。現実逃避はこれくらいにしないとな」
さっきからある身体の違和感は別にいい。その内慣れるだろう。
しかし、この場所、この光景。
俺にとってはそっちのほうが余程重要だった。
「……だってここ。俺が落ちてきた場所だよなー」
ここは俺がこっちの世界に初めて来た時に目覚めた場所だ。
もしかしてあの時のようにここで待ってると前みたいに拾われるかも……。
「そんなわけないかっ! あっはっはっ」
「あの、大丈夫ですか?」
「……は?」
いつのにか背後にいた何者かの声に慌てながら振り返ると、そこにはなんというか、見覚えのある顔があった。
「ど、どうかしましたか?」
「えーと」
「あっ。私はこの近くの村に住んでいるリティカといいます」
リティカ。
うん。知っている。
俺を助けてくれた恩人の名前もリティカだ。
偶然ってすごいなー。
「あっ。村の名前はパティーですよ」
はーい。俺それ知ってまーす。偶然ってすごいなー。
「えーと、言葉はわかりますか?」
「へ? あ、はい」
「良かったぁ。その格好、きっと落ち人さんですよね?」
「は、はい」
落ち人ってのは所謂転移者のことだ。
いやいや。初めてそれを知った時は驚いた驚いた。
俺のような落ち人がこの世界にはたまに現れるらしいって聞いたからな。
今言われて気付いたけど、俺の格好もまた変化していた。
具体的に言えば、現代の服だ。
この世界の服は質素というか、シンプルというか、いやまあ俺はこの村しか知らないわけですけど?
「わ、私の村に来てくれませんか?」
「はい。そうします」
断る気はない。
だってこれ、ここまできたら言い逃れできない。
やり直しで確定でしょ?
「こちらです」
俺はリティカに案内されるまま草原を歩く。
まあぶっちゃけ道知ってるから後ろじゃなくて横歩いてますけどね。
まさか転移の後に転生、いや、やり直しが起きるとはこれっぽっちも。ミジンコ並みにも思っていなかったな。
まあでも。転移した時点で現世の常識なんて半分ほどまとめてキャッチボールの球にしてやりましたけれども。
「あの。お名前を聞いてもいいですか?」
お? なにやら美少女の声が聞こえる。
ああ、リティカか。
リティカかってちょっと言い辛いな。だなんてどうでもいいことを考えていたら心配そうにリティカが俺の顔を覗き込んだ。
「あのー」
「あっ。悪い悪い。俺の名前だよな? 俺の名前は」
さて。なんて言うべきだろうか。
最初の俺は警戒していて偽名を名乗った。
だから俺には現世での名前と、この世界での名前。二つの名前があることになる。
リティカは可愛い。
前の時間軸でも思っていたが、やはり可愛い。
着ているのはここ周囲では一般的な服で紺のワンピースだ。
茶色いミディアムヘアー。
そもそもこっちでは黒髪って珍しいくらいだ。
多分リティカも服装というよりはこの髪で落ち人だと判断したんだと思う。
何故か頬を赤くしているリティカを見て俺は決めた。
「俺の名前は千晶」
「チアキ様ですか?」
「……そっ」
前の偽名の時はこんな感じじゃなかったし、やっぱり日本名って外国の人からすれば言いにくいのか?
まあ、外国どころか外世界の人だけど。
「ふふ。どうやらそちらがチアキ様の素のようですね」
「……あっ。馴れ馴れしいですねごめんなさい」
そうだ。
俺にとってリティカは昔からの仲だが、リティカにとっては違うんだ。
俺とリティカの時間はズレているんだ。
それを忘れて言うの間にか砕けた口調になっていた俺が謝ると、リティカは横を歩いていた俺に振り向くと慌てたように手をパタパタと振る。
「き、気にしないでください。私はう、嬉しかったのでっ!!」
「……まあそういうなら」
顔を真っ赤にして何故か力説された俺。
雰囲気的にこのタイミングで敬語なんて使ったら多分やられる。
この世界での力関係は女が上だからな。
多分今の俺じゃ勝てない。
「あっ。着きました」
「おー」
パティー村。
特産無し。
観光地無し。
見所無し。
男無し。
「え、えーととりあえず村長のところに行きましょうっ!!」
「はーい」
考えるの面倒。てことで全てリティカ任せにすることにした俺は適当な返事を返してリティカの後ろをついていく。
前は知らないことが多くて色々警戒してたけど、今は平気だからな。
それに、リティカが俺を陥れるような人じゃないことは良く知っている。
「村長ー」
とある家に到着した後、リティカは扉をポコポコとノックする。
「あーい。誰じゃい?」
出てきたのはおばあちゃんのような口調と雰囲気を纏った二十代の女性だ。
「あっ。村長ー」
「むむ? リティカじゃないかい。どうしたんだい?」
「えーと、迷子拾ってきました!」
迷子って酷くないですかね?
まあ、この紹介方法は知ってましたけどね!
「おー。そうかいそうかい。ならこの村に住むといい」
現れた時から俺のことを怪しんだ視線を送っていた村長はリティカの言葉で納得したらしい。
てか、軽いなー。
これまた知ってたけどさー。
「いいんですか?」
「むむ? 違和感があるねー。別に名ばかり村長だからねー。そんなに緊張することない」
「わかった」
「おっ。素直じゃないかい」
前は相手が村長という肩書きのせいで、なかなか敬語が抜けなかったのだが。村長が社交辞令ではなく、本気で普通に接して欲しいと思っているのを知っている俺としては一瞬でやめました。敬語なんて家畜の餌にしてしまえばいい。
「そうそう。君、名前はなんて言うんだい?」
「俺はチアキ」
「チアキか。覚えておこう」
千晶と言ってもどうせカタカナ表記みたいな発音になるんだ。ならいっそのこと最初からカタカナ表記みたいな言い方をすれば面倒なことにならなくて楽だろ?
「ふむ。確かリティカの隣は空き家だったね」
「はい」
「よし。チアキはその家に住みなさい」
「りょうかーい」
「はっはっはっ。変わった若者だね」
遠慮の二文字もドブに捨ててるからな。
村長もそれに気分を害した様子はない。むしろ喜んでいるようにも見える。
「それじゃあリティカ。チアキを家まで案内しておやり」
「はーい。こっちだよー」
リティカは遠慮なく俺の手首を掴むと、ずんずんと歩き出した。
この村はさほど広いわけじゃない。
リティカの家の場所は今でも覚えているし、その隣の空き家も知っている。
それに前もそこに住んでいたしな。
「ここだよっ!」
「へー」
リティカに案内された場所を俺はやっぱり知っていた。
普通やり直しってちょこっと変化があると勝手に思っていたんだが、どうやら俺の場合にはないらしいな。
二階建ての一軒家。
この村で俺が住むことになるのがそれだ。
前の住人は残念ながら昨年に他界してしまったらしい。
原因は、殺害だった。
「なあ。前の住人はどうしたんだ?」
「えーと、それは……」
言い辛そうにしているリティカ。
やっぱりそこも変わらないらしい。
俺がこの世界にまた戻ってきたのは、やり直すことになったその理由は一体なんだろうか。
「あ、あの、チアキ?」
「ん? あー。悪い。ぼーっとしてた」
考え込んでいたチアキに不安気な表情を向けているリティカ。
軽く謝った後、俺は明るい表情になったリティカの後ろをついていった。
内装としては一般的な民家だ。
ただ思うのは。
「……もの、少ないな」
「あ、あぅ。前の人は無駄が嫌いな人でしたので……」
「あー。なる」
不要なものは全て捨てる主義ってやつか?
いや、そもそも揃えてすらいないのか。
元の世界でだったら数億円はするだろう大きさの家だ。
庭までついて立派なことこの上ない。
だけど中はガラガラ。すごく寂しい。
「で、ですが必要最低限のものはちゃんと揃ってますよ!」
リティカに案内されたまま中を見てみるが、元の世界の形式に合わせると二階含めて5LDKといったところか。
「……一人で住むには広すぎないか?」
大は小を兼ねるというが、住居の場合はそれに限らない。
広過ぎればまず使い切れないし、何よりも手入れが無理だ。
「……あ、あの」
(おっ? やっぱりか?)
前のルートの記憶からとある願いを込めてつぶやくと、俺の策略も知らぬままに純粋なリティカは提案をした。
「……私もここに住みましょうか?」
遠慮気味に言うリティカ。
二人でも広いことに変わりはないが、それでも多少はマシになる。
前回も今回のようにリティカと共に住んでたしな。
「リティカの親は大丈夫なのか?」
一番の問題はこっちだ。
リティカの両親とは会ったことがある。
リティカの母親は優しい人だが、同時に厳しい一面も持っていたはずだ。
今回は前と違うところが一つある。それを心配していたのだが、
「いいわよ?」
隣という近さもあり、同棲の許可を貰いに行ったのだが、リティカ母は簡単に許してくれた。
むしろ泣いて喜んでいるようだった。
「うるうる。リティカもそんなお年頃になったのねー。お母さん嬉しいわー」
そういえば前回も最初はずっと勘違いされていたし関係ないか。
リティカ母は俺を見た時に驚いていた。
まあ、こっちで黒髪珍しいから当然だけど。
「え、えと、不束者ですがよろしくお願いしますっ!」
胸の前で両拳を握り、顔を真っ赤に染めるリティカ。
あー。この反応懐かしいなー。
昔はこんな感じでいちいち赤面してくれて可愛かった。
さて、せっかくのやり直しルートなんだ。
運命というやつを変えてみようかね。
☆ ★ ☆ ★
俺がこの村に来てから一ヶ月ほど経った頃だったと思う。
とある事件があったんだ。
「魔獣が出たぞっ!!」
魔獣っ!!
いやいや、最初は驚いたことこの上ないね。
魔獣といえばファンタジーの定番じゃないかと。
この世界はまさしくファンタジー世界だ。
魔獣が存在し、同時に魔力の概念さえある。
魔力があるということはつまりあれもありますよ?
「チアキっ! 避難所いこっ!」
魔獣との戦いは派遣されている戦士に任せて村人たちは避難所に行くのが普通だ。
不安気な顔をのぞかせてリティカは俺の手を掴む。
「リティカ。避難所には一人で行ってくれっ」
「なんで!?」
リティカの手を振り払いながら俺は言う。
俺の言葉を信じられない顔をするリティカ。
当然だ。今の俺はただのガキにしか見えない。
(だけどここでミスるわけにはいかねえんだよ!)
都市からそれぞれの村に派遣されてくる戦士たちは強い。
だけどそれは村人たちと比べればだ。
普通の魔獣が相手なら遅れを取ることはまずないほどの戦士が派遣されるのだが、今回は違う。
避難所があるのはこの村の北側。
理由として何故かはわからないが魔獣は良く南から来るからだ。
「リティカっ! 絶対避難所に行けよ!」
俺は最後に叫ぶとリティカに背中を見せて北とは逆方向に走った。
敵は南からくる。
ならば戦力は村の南側に置くべきだ。
戦士の方々が住んでいる共用住居の隣にある施設。
俺はそこに向かっていた。
村中に魔獣の襲来を知らせる鐘の音が響く中、俺が目指していたのは戦士たちが己の腕を磨くための場所。訓練所だ。
この訓練所には訓練用の木刀だけではなく、真剣も置かれている。
俺は壁に飾られている一振りをおもむろに掴むと、今度は南門に向かって走り出した。
南門の前には戦士の方々が集まっていた。
この世界に慣れてしまった俺には違和感が全くないが、初めての人間はその光景に凄まじい違和感を感じるだろう。
普通、戦力、戦士と言われれば、屈強な男を思い浮かべるだろう。
しかし、そこに集まっているのはぱっと見まだまだ若い女性の皆様だった。
「あれっ!? なんでこんなところに村人がいるの!?」
女戦士の一人が俺の存在に気が付き、もともと丸い目をさらにまん丸にしていた。
一人が騒いだことで他の戦士たちにも気付かれたようだ。
何やら短く簡潔に話し合った後、一人が代表として俺に向かってきた。
「君。鐘の音が聞こえないのかい?」
本気でそう思っているとはまず考えられない声色。
目の前に立った女戦士は視線を俺が持っている剣に向けた。
「……君も戦う気か?」
真剣な表情で言う女戦士だが、大して驚いている様子はない。
むしろこの世界じゃ俺くらいの奴は自分から戦力になろうとかって出るため、きっとこの女戦士も見慣れてるんだな。
「ああ。そのために来た」
「武器はそれか?」
「ああ」
訓練所にあったのだ。名剣なんかじゃまずないだろう。
だからといって鈍ということもないだろ。
女戦士は俺が前に突き出した剣を観察した後、その対象を俺の身体に変えた。
「……ふむ。剣術が使えるのか」
「ああ」
剣術は、というか剣道を昔習っていた。
そのため、最初のルートでも俺は剣を武器にしていた。
まあ、あの時は達人レベルまでにしか上達しなかったが、今なら違う。
達人より上。人外レベルで扱えるはずだ。
なんせ、俺の身体にはありえない量の魔力が流れているからな。
「わかった。君を私たちの小隊に入れよう」
「あんがと」
「……ふっ。その態度気に入ったぞ」
えー。普通逆じゃないですか?
だって自分でいうのも何だが、俺の態度は無礼にも程がある。
どうやらこの女戦士は小隊長のようで、部下らしきものが後ろで殺気立っているからな。
一人の女戦士が止めていなければ約一名、本気で襲いに来そうな奴がいたくらいだ。
「小隊配属ってことはあんたの指示に従えってこと?」
「不服か?」
「貴様っ!! 文句でもあるというのかっ!!」
聞こえによってはそうとも受け取れるだろう。
襲い掛かって来そうだった女戦士が仲間を振り払って目前に迫る。
その手は腰に差している剣の柄に触れている。
まあ。そんなんでビビらないですけどね。
「あんたとは話してない。部外者は消えろ」
穏便に済ませようと思ってたんだけど俺の口からは想像以上にキツイ言葉が出ていた。
こりゃ結構頭にきてたらしいな。
「なん……だと……?」
俺に睨まれた女戦士は一瞬怯むものの、流石は戦士。顔を真っ赤に染めて怒り狂っているようだった。
「貴様っ!!」
「うるさいなー」
とうとう剣を抜いた女戦士に俺の目が細まった。
「おいっ」
「まあ待って」
「隊長っ!?」
あの女戦士を止めていた者が焦った顔で止めようとするものの、それを先ほど話していた体長らしく女戦士が止めた。
俺の力をみたいってことか?
いいぜ。
見せてやるよ。
前と違って今は肉体的力が溢れている。
この女戦士のように身体を魔力で覆う必要はないな。
俺が住んでいた元の世界。
日本に伝わる居合抜きと似たような技を繰り出す女戦士。
剣速は申し分ない。
俺がただの子供なら今頃真っ二つになっているだろうな。
見た所この女戦士は若い。十代の後半。世が世なら大学生だろう。
けど、驕りが過ぎよう。
伊達にこの精神、歳を食ってはいない。
どうせだ。
憂さ晴らしに少し驚かせてみるか。
今この時代にはない技術。
本来であれば未来で確立される術。
『虚空』
「はっ!」
女戦士の斬撃が鞘の中からまるで銃弾のように解き放たれる。
俺に動きは見えない。
「……?」
ただ一人。
隊長と呼ばれたあの女だけが眉を顰め、面白いものを見たかのように笑みを作る。
「セッカのバカっ」
セッカの剣が俺の身体を真っ二つにすると同時に仲間の一人が悲壮感漂う顔で叫ぶ。
「まあまあ。そんなに慌てるなよ」
「なっ!?」
真っ二つにされた俺の上半身。
その顔がその口で言葉を紡ぐ。
驚いているセッカとかいう女戦士の顔が面白い。
俺の顔はきっと今不気味に笑っているんだろうな。
俺としては普通に笑ってるつもりなんだけど、仲間にはいつもそう言われたからな。
二つになった俺の半身が重力に従って共に地に落ちる。
その身体で話したという事実。
今だに笑みを浮かべいるという事実。
二つの事実によってセッカの顔は恐怖さえも感じているようだった。
「そこまでっ!」
隊長がそう宣言する同時にセッカの視界が一瞬にして変わる。
「なっ!?」
今までに見たことがないほどの驚愕を顔に貼り付けるセッカ。
地に落ちていた二つの身体は無く。
目の前にあるのは己の喉元に切っ先を向ける俺の姿だった。
「……一体……何が……」
どうして真っ二つになったはずの俺が平気な顔をしてそこにいるのか。
セッカの喉元に切っ先を向けているのか。
それがわからないセッカを含めた隊長以外こ女戦士たちがどよめく。
「……ほう。今まで見たことのない術だな」
「術っ!? 隊長っ一体何を言ってるんですかっ!」
隊長の言葉に後ろに控えていた女戦士が叫ぶ。
「こいつに魔法が使えるわけがありませんっ!」
「しかし。その目で見ただろう? あれは魔法だ。それ以外になんて説明するのだ?」
「そ、それは……」
ありえない。
そんな顔をしている女戦士。
その反応は当然だ。
何故なら、普通なら、俺が魔法を使えるわけがない。
人は道具無しで空を飛べない。
向こうの世界で例えればそんなレベルの知識。
これはこの世界において常識だ。
「君は魔法が使えるのか?」
「……ああ」
「……ほう。実力は今ので証明された。意義をとなえるものもおるまい。さあっ行くぞっ!!」
腰に差した剣を抜き放ち。
天に翳しながら高らかに叫ぶ女隊長にセッカを除いた女戦士たちが応え、叫ぶ。
「……くそっ」
そんなセッカのつぶやきに、俺は気付かなかった。
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