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中世王朝物語文学の豊穣な世界へ。竹取物語から宇津保物語まで

作者: 舜風人

日本文学の歴史に置いて、9世紀から始まる時代こそもっとも花開いた時代であったといえようか?

詩歌、物語、随筆、旅行記、日記文学、などなど、まさに百花繚乱を呈したのであった。

それ以前、確かに万葉集などの国民文学はあり、日本人の魂の原点ともいえるものであるが、

こと、日本的な物語文学の発祥といえばこの時代から始まるのである。


私が取り上げるのは、物語文学である。


物語とは今の言葉で言えば小説であろう。

紫式部は「物語の出てきた親は竹取物語である」といっている。

たしかにいわゆる物語として最初に知られるのはこの竹取物語であろう。

これは文字通りフィクションである。

メルヒェンといってもいいだろう。

月の世界から来た天女?であるかぐや姫の物語は

深読みすれば、ドイツロマン派のどこぞのメールヒェンにも共通項が見出せそうなおはなしである。


それからというもの、物語文学は隆盛を極めた。

中で傑作は、『源氏物語』であろうが、


それ以外にも、恐らくは、いまはもう永遠に失われてしまった、数百の物語があったといわれている。

そのことは、

13世紀の後半に編纂された「風葉和歌集」という歌集によって分かるのである。

この歌集はそもそも、

当時まで伝わっていた物語から歌を抜いて配列した詞華集であるからだ。

出典が記されているから物語のタイトルだけは分かるが

物語本体は今は伝わっていないものばかりだ。

『朝倉』『自ら悔ゆる』など失われた物語も

そのタイトルだけからも、なんか読んで見たくはないだろうか?




以下引用

風葉和歌集ふうようわかしゅうは鎌倉時代中期の物語和歌集。藤原為家とおぼしき人物が、後嵯峨院の后・大宮院(西園寺姞子・姞=[女吉])の依頼を受けて編纂し、文永八年(1271年)に成立。もとは勅撰集の如く20巻の部立があったが、現存本は末尾の二巻を欠く。歌の数は1400首(欠巻を除く)。


『源氏』『宇津保』『狭衣』をはじめとする平安中期から鎌倉初期にかけての作り物語から、作中の架空人物の和歌を抄出し、大筋を述べる詞書を付した。選歌対象となった二百余りの物語のうち大半が現存せず、僅かに風葉集の詞書によって大概が知られるのみである。『みかきが原』『あさくら』『海人の藻塩火』のごとき散逸物語はいうまでもなく、『寝覚』『みつの浜松』のように不完全な姿で伝来する物語の欠巻を補うのに役立ち、『無名草子』と共に中古作り物語の研究資料として貴重。

以上ウイキペディアより引用。





この「風葉和歌集」



と、、、もうひとつ「無名草子」



が王朝物語文学研究の原点である。

この2書によって今は失われた数百の物語の梗概がわかるからである。



物語で原典が今に伝わっているものでは


伊勢物語        業平の歌物語

落窪物語        継子いじめの物語

堤中納言物語      短編小説集

今昔物語        日本のアラビアンナイト?

夜半の寝覚(寝覚物語) 寝覚めの君の恋の行く末は?

浜松中納言物語     中国まで舞台の大ロマン

宇津保物語       日本最古の大長編伝奇小説。

とりかえばや物語    男女取替えのお色気小説?

狭衣物語        狭衣中将の恋物語


などが有名である。


これらに共通するのは王朝の風俗を色濃く反映した作り物語フィクションであるということだ。

主題は恋である。

貴族の男女の恋模様が纏綿たる情緒の中に、あるときは初々しくまたあるときは悲劇的に連綿とつづられていくのである。

そして当時の教養であった歌(和歌)が物語の随所にちりばめられて興趣を誘う。

これって、ドイツロマン派のたとえば、

ティークやアイヒェンドルフの小説と構成が似ていないか?

たとえば「予感と現在」には小説中のいたるところに、

詩が挿入されている、

まさに歌物語の形式になっているのである。


時に幻想的な場面も頻出する。

そこもなにやらドイツロマン派と通じる物がありそうだ?

あるいは、イギリスゴシックロマンスの

あの、因縁劇にも通じるのではないか?

アンラッドクリフの『イタリア人』のあの波乱万丈の物語と、

『宇津保物語』の大ロマンスを引き比べてみるのも面白いかも知れない。


ダフネデュモーリアの情緒劇と引き比べるのも面白いかもしれない。

浅薄なリアリズム小説に飽きたら、こうした大ロマンスに浸ってみましょう。

また、もうひとつ、目がひらけるかもしれませんね?



私が王朝物語文学に開眼したきっかけは

新潮文庫の、中村真一郎氏の「王朝物語の世界』という本に寄ってである。

これはそれまで源氏物語の亜流で無価値とされていた王朝物語群に光を与えて、

価値付けしたものとして画期的といえる。


さらに最近、笠間書院からなんと、「中世王朝物語全集」という全22巻という大全集が刊行されつつあり、これは原文と現代語訳が表記されていてこれもまた画期的な全集である。







以下笠間書院のホームページからの引用になります。




■全巻構成


1●あきぎり・浅茅が露 978-4-305-40081-9 本体4600円

2●海人の刈藻 978-4-305-40082-6 本体3689円

3●有明の別

4●いはでしのぶ

5●石清水物語

6●木幡の時雨/風につれなき 978-4-305-40086-4 本体4000円

7●苔の衣 978-4-305-40087-1 本体4660円

8●恋路ゆかしき大将/山路の露 978-4-305-40088-8 本体4700円

9●小夜衣 978-4-305-40089-5 本体4000円

10●しのびね・しら露 978-4-305-40090-1 本体4400円

11●雫ににごる/住吉物語 978-4-305-40091-8 本体3592円

12●とりかへばや 978-4-305-40092-5 本体4900円

13●兵部卿物語・八重葎・別本八重葎

14●松浦宮物語・雲隠六帖

15●風に紅葉/むぐら 978-4-305-40095-6 本体4000円

16●松陰中納言 978-4-305-40096-3 本体4800円

17-18●夢の通ひ路物語

19●夜寝覚物語    978-4-305-40099-4  本体6800円

20●我が身にたどる姫君(上)  978-4-305-40100-7  本体4500円

21●我が身にたどる姫君(下)  978-4-305-40101-4  本体4500円

22●藤の衣物語絵巻 他

23●別巻


未刊は、3/4/5/13/14/17(次回予定)/18/22/23(別巻)です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 明晰で読みやすい文章です。 各物語の特徴を分かりやすく説明している点も良いです。 中村真一郎氏はプルーストと源氏物語の類似性を取り上げていましたが、こちらの文章ではドイツロマンとの比較に…
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