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僕はただ、人でありたかったんだ。

作者: ありす

戦場、俺が堕とされた地獄。


お国を守るため、人を殺す。


人なんて殺したくなかった

自分も殺されるかもしれない場所に足を踏み入れたくなかった。


けれど、逃げようものなら死より苦しい体罰がくだる。

それで何人犠牲になったか。俺は知っている。知っているから、動けない。


そんな中で、俺を支えてくれたのが、戦場で出会った同じ年頃の兵士だった。

俺が泣いている時は何も言わずそばにいてくれて、悩みがあれば聞いてくれた。

友がいたから、俺は狂わずにいられた。




『おい、お前たち。戦場へ出る準備をしろ。敵が攻めてくるぞ』


そんな機械的な声が耳に届いた。

周りのものは、ある者は無表情に、ある者は怒りながら、ある者は泣きながら銃を持ち、戦場へ向かう。


俺は、その日死ぬはずだった。

肩を撃たれ、痛みで動けなくなっていると、

敵がニヤリと笑ったのが見えた。


銃弾が、俺のこめかみに吸い込まれていくのをこの目で見ていた。


「死にたく、ない」


そうつぶやいたのは俺のはずだった。

けれど、銃弾は友の体を撃ち抜いた。


友が、俺のかわりに撃たれたのだ。


俺は固まって動けなかった。

友はズルズルと倒れていく。


少し、悲しそうに微笑んで、俺の方に手を伸ばした。

そして何かをつぶやこうとした。


けれど、


そのまま、友は動くことはなかった。

俺は友の亡骸を抱きしめて、「ごめんなさい」と泣き続けた。




『もうすぐ敵が攻めてくる。準備をしろ』


何十回目になるのか、そんな声が聞こえた。


俺は、銃を持つ。

この銃で、何人、何十人の人間を殺してきたんだろう。


<今度は、君が死ぬ番だ>

銃が、俺にそう言っているように聞こえた。


これは罰なのか。

兵士が死を怖がって、友を犠牲にしてしまった罰なのか。


・・・・それなら、甘んじて受け入れよう。

死ぬのは怖い。けれど、俺は戦争が終わっても、きっと普通には戻れない。

壊れてしまったのだ、心が。

それに、どうせ終わっても今の苦しみが消えるわけじゃない。

なら、ここで死のう。きっと、それが友への償い。


その日、俺に、銃弾がめり込んだ。


腹に空いた穴から血が止まらない。

だんだん、目の前がかすれていく。


(嗚呼、友よ。今から、そちらへ行くからね。)


俺は青い空の下で、

手を差し伸べている、泣き出しそうな顔をした友の手を取った。


『生きてくれって、最後に言ったのに』

『ごめん』

『・・謝らなくていいよ。そんなつもりで言ったんじゃない。俺は、俺の意思で君を守ったんだ。まぁ、酒でも飲みかわそうか。終わった記念にさ。』


(死ぬのは怖かった。

でも、これ以上、戦場で狂っていくほうが、怖かった。)





これは、壊れてしまった兵士の話。

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