後編
真正面から突撃するアーサーに対し、ムヴォルアは鋭い牙で噛み付こうとする。
アーサーは軽々と跳躍して躱すと、頭上から大剣を叩き付けた。
ところが分厚い刃は弾かれてしまう。
並大抵の魔獣なら一刀両断するその斬撃は、ムヴォルアの額に小さな亀裂を付けただけだった。
「くそっ、硬すぎるだろうがっ!」
着地したアーサーは仰天する。
そこに怒りの咆哮を上げたムヴォルアの魔力ブレスが放たれる。
目を見開いたアーサーは咄嗟に退避行動を取る。
「やべっ」
極太の光線が一直線に荒野を削り飛ばす。
軌道上すれすれの地点にアーサーは倒れていた。
ブレスが掠めたことで左半身が消し飛び、大地に内臓を撒き散らしている。
それでも大剣だけはしっかりと握っていた。
「畜生め、アンデッドになると回避が疎かになっちまうなぁ……」
ぼやくアーサーの肉体が高速で再生していく。
ロイムからの魔力供給によるものだった。
瞬時に復活したアーサーは、遠くに立つロイムに手を振る。
「すまん、助かった!」
「まったく……脳筋すぎるよ……」
小声で愚痴るロイムは、手から漆黒の粘液を出す。
その粘液は、これまでに彼が殺してきた魔獣の魂を練り固めたものだった。
無数の魂が混ざり合ったそれに確固たる自我はなく、術者のために動く魔術生物でしかない。
「ほら、餌だよ。行っておいで」
ロイムの言葉に従って粘液が飛ぶ。
粘液はムヴォルアに付着した瞬間、数万倍にまで拡大して絡み付いた。
動きを妨害されたムヴォルアは激しく暴れる。
しかし、粘液はゴムのように伸びるばかりで破壊できなかった。
粘液は徐々にムヴォルアへと浸透し、奥底の魂に干渉する。
そうして生命力を吸収することで、肉体を損傷させることなく死を届けようとしていた。
一分ほどでムヴォルアが倒れて痙攣を始めた。
そこにアーサーが容赦なく襲いかかる。
「よっしゃあ! ナイスだ、ロイム! とどめは俺が貰うぞォッ!」
アーサーは魔力を大剣に注ぎ、限界まで圧縮する。
そして斬撃に乗せて放った。
渾身の一撃はムヴォルアの首を刎ね飛ばした。
勢い良く転がる生首を見て、アーサーは大喜びでロイムのもとへ戻った。
「ふふん。どうだ! 見たか! 最高にかっこよかっただろう!」
「えっ、いや……別に僕の術だけで倒せたんだけど……」
「おいおい、大剣でバサッと斬り殺す方がロマンがあるじゃねえか!」
「そうかなぁ……?」
「お前もいつか分かる時が来るさ。それより早く帰ろうぜ!」
「うん、そうだね」
頷くロイムが死霊術を発動する。
首を断たれたムヴォルアが起き上がり、頭部は粘液で元の位置に固定された。
アンデッド化したムヴォルアは静かに歩き出す。
「こんな大物を持ち帰ったら、街の連中も驚くだろうなぁ」
「め、迷惑じゃないかな……」
「剛岩竜は捨てる部位なんてねえぞ。武具に建材に食糧、魔術触媒……とにかく便利なんだ」
「それなら追加報酬も貰えそうだね」
「ああ、もちろん! 向こうが渋ったら剛岩竜を暴れさせようぜ」
「さ、さすがにそれは不味いよ……」
暢気に駄弁るロイムとアーサーは、仲良く帰路に就いた。




