前編
「うっぷ……酔ってきた……」
荒野の只中で、死霊術師ロイムが顔を青くして呻く。
彼を背負う剣士アーサーは苦笑気味に応じた。
「頼むから俺の頭にゲロ吐かないでくれよ?」
「だ、大丈夫……たぶん、うっ!? やっぱり駄目かも……」
ロイムはアーサーの背から下りてぐったりとする。
水を飲んだ彼は、その場から動かずに吐き気が鎮まるのを待つ。
そばに立つアーサーは少し呆れた様子で提案した。
「そんなに辛けりゃ、自分の足で歩けばいいだろ」
「だって疲れるし……」
「それならアンデッドになればいいじゃねえか」
「いつも言ってるけど、痛いのは嫌だし、死ぬのも怖いんだよね……」
「はっはっは、死霊術師のセリフとは思えねえな」
アーサーは気さくに笑う。
彼はふと自分の腕を見つめた。
鍛え抜かれた腕は丸太のように太い。
ただし色艶には陰りが差し、まるで死人のように青白かった。
腕をぺちぺちと叩くアーサーは世間話のように語る。
「割と便利な身体だと思うがね。苦しいのは最初だけなんだから、ちゃちゃっと人間捨てちゃえよ」
「その苦しいのが嫌なんだよぉ……あと術が失敗する可能性だってあるじゃん」
「お前に限ってそれはねえさ。俺を蘇らせた時だって完璧だったろうが」
五年前、アーサーは強大な魔獣との戦いで死亡した。
そこに通りがかったロイムの手でアンデッドとなり、助けてもらった恩から彼に同行している。
休憩が済んだ二人は移動を再開した。
ロイムは息を切らしながらも自力で歩いている。
先導するアーサーが前方の岩山を指差した。
「ほら、目的地までもうすぐだ。気合入れてけよ」
「魔獣退治だよね……名前は何だっけ」
「剛岩竜ムヴォルアだよ。竜と言っても飛べない種類だがな。鈍重で知能も低いし、数年単位で休眠する間抜けな奴だ」
「でも強いって噂だよね」
「ああ、とにかく頑丈で生半可な攻撃は通らん。ブレスも強力だろう。数千の軍隊を返り討ちにしたって逸話もある。別名は"生きた要塞"らしいぜ」
アーサーの説明を聞いたロイムは憂鬱そうに下を向く。
彼は猫背になって小声でぼやいた。
「不安だ……勝てる気がしない……」
「俺達なら大丈夫だろ。まあ、いつも通り気楽にいこうや」
「アーサーは前向きだね……」
「ロイムが暗すぎるんだよ」
会話の途中、前方の岩山が蠢いた。
岩山が地鳴りを立てて起き上がり、黄色い瞳をぎょろりと二人に向ける。
直後に爆発のような咆哮が辺り一帯を響き渡った。
ロイムは耳を押さえて蹲り、アーサーは大剣を抜いて身構える。
動き出した剛岩竜を見て、アーサーは不敵な笑みを覗かせた。
「ほう、想像よりデカいな。ぶった斬れるかな」
「えっ……どうしよう。諦めて帰る?」
「何言ってんだ! ぶち殺して酒飲みに行くぞォッ!」
アーサーは雄叫びを上げて駆け出した。




