横浜で暮らす宇宙人
横浜そごうの屋上、「太陽の広場」にある「伏見稲荷神社」。
そこには、一人の宇宙人がひっそりと隠れて暮らしていた。
名をダーという。
ダーは、生まれ故郷の星が滅びてしまい、地球に逃れてきたのだ。
しかし地球の環境はダーにとって過酷なものだった。
体を押しつぶすような重力、目を焼く太陽の紫外線・・・。
ダーは少しでも重力の影響をさけるべく、地上から離れたデパートの屋上に身を隠していたのだ。
時折、姿を隠して広場で休んでいる地球人のスマフォ画面を覗き込み、地球の言葉や文化を学んでいた。
ある日、ダーはスマフォ画面に映ったブッコローのぬいぐるみに目が止まった。
「ほ・・・欲しい・・。」
この縫いぐるみを手に入れたい。しかし、どうやって手に入れれば・・・。
ダーは、地球人が居眠りをしている間に、スマフォを拝借して調べた。
どうやら有隣堂という店で扱っているらしい。
しかしその店は、横浜駅西口の地下街にある。
ダーが暮らしている東口そごうからは、約800mの距離。
しかも地下街は、ダーにとっては重力が大きく、体に負担が掛かってしまう。
危険なのだ・・・。
ダーは迷った。
ブッコローのぬいぐるみが欲しい。だが危険は冒せない。
だが・・このままここに潜み、ただ時を過ごすだけでよいのか?
何か行動をおこす、チャンスなのではないか?
「行ってみよう・・・」
決心をしたダーは、出発の準備を始めた。
・食料:大量の糖分を必要とするダーは、主食の喜最中をリュックに詰め込む。
・サングラス:紫外線はダーにとっては殺人光線に等しい。サングラスは必須アイテムなのだ。
・電磁波防止帽子:電磁波/磁力はダーの脳に障害を与えてしまう。これを防止する必要があるのだ。
よし、装備はできた。次はルートを決める。
ダーが潜んでいる横浜駅東口のそごうから、西口地下街の有隣堂までは約800m。
東口から西口へは地下の中央通路を通るのが一般的だが、体力を消耗するため地下移動は最小限に抑えたい。
ダーは地図を広げ、国道1号線の上に歩道橋があるのを見つけた
やや遠回りにはなるが、地下中央通路の移動距離を減らせる上、わずかだが地上から高い位置を移動できる。
ここで体力を温存し、地下中央通路へ入ったら喜最中で体力を補いながら、一気に有隣堂西口店を目指す・・。
よし、これでルートも決まった! いよいよ出発だ!
ついに800mのサバイバルが始まった。
ダーは地球人に変装すると、エレベーターに乗り込む。
地上に近づくにつれ、ダーの体に地球の重力がのし掛かる。
1階へ到達した頃には、ダーは凄まじい重力に耐えなければならなかった。
エレベーターから降りることさえ容易ではなかった。
ダーは、早くも1個目の喜最中を口にする。
予想より体力の消耗が早い・・・。
ダーは一息入れてから、ゆっくりと建物の外へ出た。
と、今度は太陽から強力な紫外線が降り注ぐ。
目がつぶれそうになり、慌ててサングラスを掛けるダー。
「まったく、なんという星だ・・・。」
ダーはゆっくりと、そして慎重に歩き出した。
ダーは、西口への地下中央通路を迂回し、1号線上の歩道橋を渡り始めた。
わずかだが、地上から離れると体が楽になる気がした。
よし、行ける!
と・・ダーは立ち止まった。
様子がおかしい。呼吸が・・苦しい? なにか異物が・・呼吸器官に入ってくる。
なんだ・・これは・・・?
と・・とにかく、歩道を渡らなければ・・。
「うっ!」
ダーは膝をついた。明らかに毒性を感じる異物が呼吸器官に入ってくる。
ふと、歩道の真下を走る自動車を見下ろした。
乗用車、バス、トラック・・・無数の自動車が噴き出す灰色の煙・・・。
「これは・・排気ガス!?」
1号線は、横浜市で・・いや、全国でも有数の車と排気ガスが多い国道。
ダーは今、その真上に立っているのだ。大量の排気ガスがダーの周囲を覆っていた。
さらに呼吸が苦しくなっていく・・。
戻るか?いや、もはや出直す時間はない。
「このまま突っ走るしかない!」
ダーは排気ガスの中を走り出した。
必死で歩道を走るダー。
さらに呼吸が荒くなり、苦しさが増す。
歩道の階段を一気に駆け下りる。
中央通路の入口まで、あと少し・・・。
ダーの意識が朦朧とし、視力がかすんでいく。
「あと・・少し・・・。」
ダーは、転げ落ちるように中央通路の入口に飛び込んだ。
「ギリギリだったな・・・。」
激しく息を切らせながら、ダーは喜最中を口に入れる。
真夏の紫外線、排気ガス・・こんなにも生命体に厳しい星とは。
しばらく休憩し、呼吸が落ち着いてくる。
ダーはゆっくりと立ち上がると、再び歩き出した。
いよいよ中央通路・・地下道に入る。
慎重に階段を下りて行くダー。1段ごとに体が重くなるのを感じた。
中央通路に入ると、その感覚は2倍を超えた。汗が噴き出す。
「喜最中もある。慌てなければ大丈夫だ・・・。」
そう自分に言い聞かせ、中央通路をゆっくりと、確実に進んでいくダー。
と・・突然、ダーを激しい頭痛を襲った。
思わず両手で頭を押さえるダー。
あたりに響く、振動と轟音。それらが一斉にダーの頭の中に飛び込んでくる。
激しい痛みに、思考が乱される。
「い・・いったい、これは・・」
ダーを襲ったもの・・。
それは、列車が発生する振動と電磁波だった。
中央通路の真上は、横浜駅のホームが並んでいる。
東海道、京浜東北、京急・・何本もの列車が出入りし、パンタグラフからスパークが飛び、モーターが磁力を放出する。
電磁波防止帽子をかぶっていたが、防ぎきれないほど強力だった。
ダーは頭を抱えたまま立ち尽くした。
激しい頭痛と共に、体力が奪われていく。
エネルギーを補給しなくては・・。
ダーは喜最中を取り出した。
ドン!
何かにぶつかり、口に入れようとした喜最中を地面に落としてしまった。
歩きスマフォをしたまま立ち去っていく女性・・・。
呆然と地面に落ちた喜最中を見つめるダー。
地球の細菌に耐性がないダーにとって、地面に落ちたものは毒物に等しい。
3秒ルールは通じないのだ。
さらに数秒後、ダーは喜最中を袋ごと落としてしまったことに気が付いた。
地面に散乱する喜最中・・・。
体力が消耗し、意識が薄らぐ中、ダーは食料までも失ってしまった・・・。
このままではマズイ・・なにか食料を・・・。
ここは中央通路のど真ん中。西口も東口も遠い・・。
ポルタに入るか?それさえも体力が持たないように思えた。
ふとダーの目に、とある売店が見えた。
KIOSK・・たしかあそこには崎陽軒が・・横濱月餅がある・・上質な糖分が補給できるはずだ!
あそこまでたどりつければ・・・。
最後の力をふり絞り、歩き出すダー。
ドン!
またもや歩きスマフォの男性にぶつかった。
突き飛ばされたダーは、ふらふらと柱によりかかる。
電磁波で意識が遠のく・・体力も残っていない・・・。
柱によりかかったまま、もはやダーは動けなくなった。
力尽きたダーは、空を見上げようとした。しかし中央通路の天井が視界を遮る。
ひどい星・・ひどい地球人・・。
なぜこんな星が存在しているのだ・・・。
私の星は滅んでしまったというのに・・・。
「帰りたい・・」
もし死ぬなら、生まれ育った星で死にたかった・・。
ダーは地面に崩れ落ちた。
「ですか・・聞こえますか・・」
声がする・・体を揺すられている・・・。
「聞こえますか?」
ダーはうっすらと目を開けた。
「ごめんなさい・・本当にごめんなさい。」
「ちょっとぶつかっただけだと思って・・・。」
「なんとなく気になって振り返ったら、あなたが倒れていたので・・。」
さっきの・・スマフォの女性?
「救急車呼びますか?」
首を振るダー。地球の医療では対応できない。
ダーはKIOSKを指した。
「げ・・ぺ・・。」
「げっぺ・・月餅ですか?崎陽軒の横浜月餅!?」
うなずくダー。
「待っていてください、すぐ買ってきます!」
彼女は走り出した。
ぼんやりとした意識の中で、ダーは月餅を口にした。
上品な甘さが口に広がる・・ダーの意識が徐々に回復し始めた。
と、夢中で月餅をほおばるダー。
2個目は黒ごま、3個目は宇治抹茶、そして栗・・ダーはあっというまに平らげた。
「よかった・・」
彼女はほっとしたように笑った。
「あ・・ありがとうございます・・。」
「いえこちらこそ、本当にごめんなさい。」
彼女はまだ笑っている。
「えっと・・。」
「だって、今にも死にそうな顔をしていたのに、月餅が食べたいなんて・・。」
「あ・・。」
「空腹で倒れた人を見たのは初めてです。」
彼女はもう一度笑った。
いや、本当に死にそうだったのだが・・。
だが、助けてくれた恩人。笑いごとにされてもよしとしよう。
「どちらまでいかれます?」
「いえ、あとは自分で歩けますので・・。」
彼女の顔が、少し心配そうになる。だが・・。
「わかりました。お気をつけて。」
彼女は軽く手を振り、去っていった。
「わざわざ戻ってきてくれたんだな・・・。」
ダーはゆっくりと立ち上がった。
崎陽軒で月餅をさらに10個調達し、柱沿いに歩き始めた。
なおも頭上から、列車の電磁波と磁力が襲い掛かる。
だが柱ごとに寄り掛かり、無理せずゆっくりと進んでいった。
そして、ついにダーは中央連絡口を通り抜けた。
いよいよダイヤモンド地下街だ。
有隣堂西口店までもうすぐ・・。
だが、売り場案内図を見たダーは足を止めた。
有隣堂が3つある!?
地下街の左側に一般書籍、その奥がコミック、地下街の右奥が文房具と語学。
ブッコロー縫いぐるみはどこだ?
体力を消耗したダーには、3か所全てを回る自信はなかった。
メイン売り場である一般書籍売り場か。
いや、縫いぐるみだから児童書売り場ということも?
文房具売り場にはないだろう。
だが、カバンなどのグッズは文房具売り場・・・?
考えれば考えるほど混乱していくダー。
その時、ダーの頭に一つの言葉が浮かんだ。
「本ではないので文房具です。」
本ではないので文房具・・・。
なんだろう・・どこかで聞いた気がするが記憶がない。
だが、確かに聞いた。
本ではないので文房具です・・(エコー x 3回)
今のダーにとって、この言葉は神の声に等しかった。
「よし決まった。目指すは文房具売り場だ!」
文房具売り場は一番遠い。だが最終目的地が見えたことは心強い。
ダーは月餅を2個補充すると、ゆっくりと、かつ慎重に歩き始めた。
体力に余裕はないが、少しは慣れてきたようにも思える。
月餅を補充するタイミングもつかめてきた。
あともう少し・・あともう少しだ・・・。
案内図に従って歩いていくと、周囲から店舗がなくなり、壁に囲まれた通路になった。
「この方向であっているのだろうか・・。」
頭に不安がよぎるダー・・。
と・・文具店らしい店が見えた。ここか・・?
柱に「有隣堂」の文字・・・。
やった!ついにたどり着いた!!
いや、よろこぶのはまだ早い。在庫があるとは限らないのだ・・。
ダーは近くにいた店員に尋ねる。
「あの、ブッコローの縫いぐるみはどこですか?」
眼鏡をかけた50代ぐらいの男性店員は答えた。
「えーと、こちらの売り場にはありませんね。」
ダーは頭が真っ白になった。
ない・・? どういうことだ? 売り切れ?
いや、そもそも売っていないということか?
混乱するダーは、しばらく店員の声が聞こえなかった。
「・・さま・・お客様、大丈夫ですか?」
「ああ・・すみません。少しぼぉっとして・・」
「もう一度ご案内しますと、そちらの道を右に行くと広い通りに出ます。
その通りの向こう側に書籍売り場がありまして、そこで扱っております。
ただ、残りがあるかは、売り場に行ってみないとわかりません・・・。」
丁寧な説明を受けた。
しかしダーには礼を述べる余裕がなかった。
本ではないので文房具・・・。
あの神の声は嘘だったのか。ようやくたどり着いたと思ったのに・・・。
ダーはふらふらと来た道を戻り始めた。
月餅はあと1個。帰りの分を調達しないと・・・。
いや、まずはブッコローの縫いぐるみを・・・。
いや、その前に・・・。
ダーの思考は混乱し始めた。
たどりついたと思ったがために、ショックが大きかった。
メイン通りはどっちだ・・・。
方向感覚を失い始めたダーは、フラフラと裏道へ入ってしまった。
と・・・。
ダーの目に、ショーケースに飾られたショートケーキが映った。
「こ・・これは!」
初めて見る食べ物・・だが直感が働いた。
これは良質な糖分が摂取できる食料に違いない!
ラ・セゾ・・・。
レストランだろうか?
ダーは吸い寄せられるように店に入った。
「あの、入り口の横にある・・モンブランという食べ物を・・・。」
皿にのせられたモンブランは、冷たい食料だった。
周囲の客をまねて、フォークですくう。
口に入れ・・・。
「!!」
ダーは絶句した。
なんという濃厚な味、なんという上質な糖分!
こんな食料が地球にあったとは!!
あっという間に1個目を食べ終わったダーは、2個目を注文した。
「うちのケーキ、濃厚でおいしいでしょ?」
コック帽子をかぶった年配の女性が声をかけてきた。
この店の責任者だろうか。
「材料にこだわって、うちで作った手作りなんですよ。気に入ってもらってうれしいわ。」
食べることに夢中でしゃべれないダーは、うなずいて答えた。
「ごゆっくりどうぞ。」
そう言いながら水を注いでくれた。
濃厚な味のせいか、見た目以上に腹が満たされる。
みるみる体力が回復していくように思えた。思考も・・
よし行ける!
「おいしかったです!」
ダーは、店長にそう告げて店を出た。
有隣堂の書籍売り場まで、もう一息。
元気が出たせいだろうか、人混みを歩くにも慣れてきた気がする。
混雑する中央通路が、嘘のようにスムーズに進める。
そして、目の前に現れた有隣堂西口店書籍売り場!
間髪をいれず店員に尋ねる。
「こちらです」
案内された棚に、ブッコローの縫いぐるみがおかれていた。
「あ・・最後の一つですね。お客様、ラッキーです。」
ブッコローの縫いぐるみを手にするダー。
やっと・・やっと・・手に入れたんだ・・・。
手が震える・・目に涙が浮かんだ・・・。
ダーはレジに向かおうとした。
と、ダーの耳に声が聞こえた。
「ママー、ブッコローが無い・・。」
ダーは足を止めた。
振り向き・・いや、振り向きたくなかった。
残念そうな子供の声・・・。
振り向かなくても、状況が理解できてしまった。
無いと言ったのは、ブッコローの縫いぐるみがここにあったことを知っていたのだろうか?
店に来たのは2回目?
前回は何かの事情で買えず、もう一度買いに来たのか?
ところが「無い」・・と。
なにをグズグズしていたのだ。
あと数秒早くレジに向かっていれば、その声を聞かなくて済んだのに・・・。
ダーの手はまだ震えていた・・・。
やっと・・やっとここまでたどり着いたんだ・・
異常な重力、目がつぶれそうな紫外線、毒のような排気ガス、列車が発する電磁波、振動、体当たりしてくる地球人・・・。
もう少しで死にそうにまで・・・。
ようやく・・ようやく手に入れたんだ・・・。
なのに、子供に譲るなど・・・。
だが・・助けてももらった・・・。
スマフォの女性は、わざわざ戻ってきてくれた。
理由も聞かず、月餅を買ってきてくれた・・・。
丁寧に道順を教えてくれた店員。
そして、モンブランという料理。
地球人は、あんなにもすばらしい料理を作れるのだ。
そう・・地球は・・悪い星ではない・・・。
「売り切れなら仕方ないわ。また今度ね。」
「うん・・・」
子供は素直だった。駄々をこねることもなく、母親に連れられ、帰ろうとした。
「あ、あの・・・。」
まだ迷いは残っていた。それでも・・・。
「よかったら、これを・・・。」
ダーはブッコローの縫いぐるみを差し出した。
「え? えーと・・よろしいんですか?」
「気まぐれで手に取っただけなので・・・。」
子供は黙っている。
母親は迷いながらも、好意を断る方が悪いと思ったらしい。
「ありがとうございます。」
「ほら、ゆずってくれたのよ。お礼を言いなさい。」
「ありがとう!」
子供の笑顔は素直だった。
レジに向かう親子を見送るダー。
いったい何をしているんだ・・・。
これだけ大変な思いをして・・・。
最後の1個を手にできた幸運までも・・・。
「本当に馬鹿だな・・・。」
そうだ・・帰らなければいけない・・帰らなければ・・。
命がけで来た道を、もう一度戻らなければならないのだ・・。
だが、ダーは気力を失っていた。
方向もわからぬまま、フラフラと歩き出す・・・。
と・・・。
「お客様、お待ちください!」
ダーは、その声が自分に向けられたものと認識するのに、数秒を要した。
「先ほどは、お子様連れのお客様にブッコローを譲っていただき、ありがとうございます。
在庫が足りないばかりにご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありません。
あの・・もしよろしければこちらをお持ち帰りください。」
店員が差し出したのは、ブッコローの縫いぐるみだった。
「実はこれ、私物でして・・・。
商品の方は入荷に1か月ほど掛かりそうなんです。
新品ではなく申し訳ないのですが、もしよろしければ差し上げます。」
ダーは、店員の意図が理解できない・・・。
「先ほどは他のお客様にお気遣いをいただき、本当にありがとうございます。
せめてものお礼としてお受け取り下さい。」
ダーの表情は、まだ呆然としていた。さらに数秒・・・。
「私物をいただくわけには・・・。」
「いえ、私はまたいつでも買えます。是非お持ちください。」
店員は、ダーのただならぬ様子に気づいていたようだ。
ダーはどう返事をするべきかわからず、黙ったままブッコローを見つめた。
故郷の星は太陽にのまれた。
脱出用の宇宙船は1家族1人分のみ。自分を乗せると、両親は残った・・・。
たとえ脱出できても、生存可能な星にたどり着けなかった船もあっただろう。
自分は・・地球にたどり着いた・・・。
しかし重力と紫外線にやられ、一人、また一人、命を落としていった・・・
なんとか重力が弱まるビルの屋上にたどり着いたダー。
見知らぬ星に、たった一人・・・。
そして、まだ生きている・・・。
生きていることが、どれほど幸運なことか。
馴染めない星に来てしまったと思っていた・・・。
自分は不幸だと思っていた・・・。
しかし、それは間違いだ。
いかに自分が幸運だったか・・ダーは悟った。
助けられた命・・・。
助からなかった両親や仲間のためにも、自分には頑張って生き続ける義務がある。
ダーはようやく顔を上げた。
「ありがとうごさいます。大切にします・・・。」
ダーは、再びブッコローを見つめた。
少し・・誰かに似ている気がした・・・。
故郷の星の誰かに・・・。
【完】