表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/19

父の帰還(5)

 この島を囲む海のあおが、私は好きだ。

 TVや雑誌で見かけるリゾートビーチとかの、真っ青な海の色とは少し違う。島に根を下ろした豊かな樹々の緑の影を、そっくりまるまる映したような、深いブルーグリーンの海の色。

 生まれ育ったこの島が、この海が、私は好き。この島でこの海を眺めながらゆっくり年を重ねていくのも、悪くない。全然悪くない人生だ。


 学校からの帰り道、海沿いの道を自転車で走りながら、私はつくづくそう思う。


 少し前まで、この道を走る時は大抵、隣に聡史がいた。一緒にいれば何だかんだ喋りながら走るから、余計なことはあまり考えない。でもここしばらくは一人でいるから、思考が四方八方へ広がる。


 この島でゆっくり年を重ねる、その過程と行末には、一体何があるんだろう。


 例えば来年、聡史と同じ大学に行って一緒に通って。それで?数年後、聡史は実家の会社に入る。聡史は幼い頃から自分が将来的に家業を継いで守っていかなければいけないことを理解していたし、そのことに彼なりの意欲や誇りを持っているようにも見えた。

 同じ大学に来いとは言うものの、聡史がそれより将来さきの話をすることはない。けど聡史が描く将来図の中には、当たり前みたいに私も一緒に描かれている。何となくだけれど、そんな気がした。聡史のお母さんは夫の会社で総務の仕事を手伝っている。それなら、私も?そうなることを、聡史は望んでいるのかもしれない。

 

 日中とはいえまだ肌寒い季節だったけれど、自転車を漕いでいると、首筋にじわりと汗が滲んでくる。肌や服が潮風を吸ってべたついて、体が重たく感じられる。ペダルを漕ぐのにも、少しへこたれてきた。そういえば聡史と帰っている時は、よく寄り道してたっけ。通学経路の道はなだらかな勾配があって、行きは下りで帰りは上り。帰り道の方が疲れるから、途中の海辺で一休みしてから帰ってた。

 まっしぐらに帰るのは諦めようと、路肩に自転車を停める。海岸に降りて少し涼もうと数歩進んだところで、ふと見覚えのある人影を見つけた。

 猫背気味の丸いシルエットが、堤防の端っこで釣糸を垂らしている。


 父だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ