春の窓辺で、恋をした
笑い声が弾ける教室の中で、私は窓の外を見つめていた。
春の風がカーテンを揺らして、どこか遠くに行きたくなる。
その声が聞こえるたびに、胸の奥がきゅっと縮こまる。
――あの人が笑ってるのは、いつも親友と一緒のとき。
特別になりたかった。
でも私は、ただのクラスメイトのひとり。親友の“ついで”に話しかけられる存在。
そんなの、わかってる。
放課後、私は一人で図書館に向かった。誰にも見られずにいられる場所。
静かな空気に包まれると、少しだけ自分を保てる気がする。
けれどその日、そこにいたのは――彼だった。
「……驚いた。君もここ、好きなんだ?」
湊の笑顔は、夕暮れに溶け込むようにやわらかくて。
私は、胸の奥がほんの少し温かくなるのを感じた。
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図書館の窓から見える空は、少しだけ赤く染まりはじめていた。
「……ここで、ひとりで本を読むのが好きなんだよね」
私がそう言うと、湊は「うん」とうなずいて、少し笑った。
「わかる。僕も同じ。誰にも邪魔されないし、静かで、自分だけになれる感じ」
その言葉に、少し心が近づいた気がした。
まさか、彼とこんなふうに並んで座る日が来るなんて思ってなかった。
何かが、少しずつ変わりはじめている。
「……ねえ、実は君のこと、前から気になってた」
湊のその言葉に、私は思わず顔を上げた。
「親友のことが好きなんじゃ……?」
「そう思ってた時期もあった。でも、なんていうか、違ったんだ。にぎやかな彼女と話してると楽しかったけど、君と話してるほうが、ずっと落ち着く。……本当の意味で、一緒にいたいのは君だって、気づいた」
鼓動が速くなる。
信じたい。でも怖い。
それでも――。
「……だったら、私も、少しずつ君を知っていきたい」
そう言うと、湊はふわっと笑って、私の肩に優しく触れた。
図書館を出ると、世界は少しだけ輝いて見えた。
いつもと同じ景色なのに、彼と並んで歩くそれは、特別だった。
――私は、ここにいていいんだ。
そう思える日が、ようやく来た