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4 初任務

 商店街に着くと、先に到着していた2人が待っていた。


「遅いぞ新入り」


「ああ……ごめん」


 少年にきつい眼差しを向けられ、聖夜は頭を下げる。


「新入りを置いて先に行っちゃったくせに……」


「や、やめろよ柊」


 聖夜は、ぼそりと悪態をつく柊を止めた。それに少しため息をついて、柊は辺りを見渡す。


 すると、商店街の中心に人だかりができているのが目に入った。その中にはスマホで撮影をする者もいれば、怯えて動けなくなっている者もいる。その人だかりの中央にいるのは、二足歩行の魚。その魚は凶暴そうな顔で人々を睨みつけている。


「居たね」


 白雪は頷くと、仲間を振り返った。


「全員揃ったね。……あまり悠長なことは言っていられない。始めるよ」


 白雪はそう言うと、琴森に指示を仰いだ。


「琴森さん、状況は?」


 すると、腕時計から琴森の声が聞こえた。


『今は比較的落ち着いているようだけど、いつ暴れ出すか分からないわね。速やかに退治して』


「了解」


 白雪は頷いて、指先を魚人に向けた。


「凍れ……!」


 白雪がそう言うと、魚人の足先が凍りついた。


「ヴヴ……!?」


 魚人は足を動かそうとするが、一歩も動けなくて困惑しているようだった。


 人々の視線が白雪に集まる。


「高次元生物を退治に来ました。早くこの場をはなれてください!」


 白雪の言葉に人々は事態を飲み込んだのか、慌ててその場から立ち去りはじめた。


「ヴー!!」


 魚人は口から泡を吐き出した。多くの泡が商店街の道にふわふわと漂い始める。


『あの泡に触れないように。見た目は泡でも、強いエネルギーの塊だからね。当たれば、骨折は免れないわ』


 琴森の声に聖夜は頷いた。


「分かりました!」


 聖夜が返事をしたのを確認し、白雪が指示を出す。


「聖夜君と柊さんは人々の避難を補助してくれ。翔太は泡を始末して。僕は高次元生物を倒す」


「はい!俺が北側の避難を手伝う。柊は南側の人を助けてやって」


「うん!」


 聖夜と柊は、それぞれ逃げ惑う人たちのもとへ駆け出した。


* * *


「こっちです!落ち着いて!泡には触らないで!」


 商店街北口で、聖夜は大きな声で人々を誘導する。


「怖いよぉ……」


「大丈夫だからね……早く行こう」


 女の子と母親が逃げようとしている背後に、大きな泡が迫っていた。聖夜はそれに気づき、素早く二人の後ろに回り込む。


「危ない!」


 泡が、聖夜に迫る。泡に当たれば、骨折は免れないと琴森は言っていた。しかし、守りたかったのだ。自分を盾にしてでも、聖夜はこの母子を守りたかった。


 大怪我をする覚悟を決めて、聖夜が目を瞑ったその時。


「伏せろ!」


「っ……!」


 少年の大きな声が聞こえて、聖夜は慌てて親子を巻き込みながら伏せた。


「『竜巻』!」


 少年の声と共に竜巻が吹き荒れ、辺りを漂っていた泡が一掃された。それを確認した聖夜が立ち上がると、少年が母子のもとへ駆け寄って来るところだった。


「大丈夫ですか?」


 少年が声を掛けると、女の子は泣きながらしゃがみ込んでしまう。


「うう~……やだあ、怖いよぉ……!」


 その様子を見た少年は、先ほどの柊とのやり取りからは想像できない行動に出る。


「大丈夫だ。……兄さんが守ってやる」


 少年は女の子の目線に合わせてしゃがみ込むと、優しく頭を撫でたのだ。


「え……?守って、くれるの?」


「ああ。俺が、君を守るために戦ってやる。だから、君も母さんを守ってやれ。手を繋いで、一緒に逃げるんだ。できるな?」


「っ……、うん!」


 女の子はしっかりと頷き、母親の手を握った。


「お母さん、行こ!」


「うん。……ありがとうございます、特部のお兄さん方」


 母親は2人に向かって会釈をすると、娘と共に走り去っていった。


「あの……ありがとな!」


 聖夜が慌てて礼を言うと、少年は聖夜を軽く睨む。


「泡に触れたら骨折は免れない。お前は守る側なんだ。自分が犠牲になるなんて甘いこと考えるな。今、お前がここで倒れたら、救える人も救えなくなるんだぞ」


「う……ご、ごめん」


「……こっちは大方逃げたな。お前の妹の手伝いに行こう。向こう側だ」


「わ、分かった!」


 2人は商店街の反対側へ向かった。


* * *


 白雪は1人、商店街の中央で魚人と対峙していた。


「ヴヴヴ……!」


 魚人は泡を吹き、あっという間に白雪は泡に囲まれてしまう。


「ヴー!」


 しかし、ニヤニヤと笑う魚人に対して、白雪は微笑みを崩さなかった。初めて聖夜達と出会ったときに見せた、氷のように冷たい微笑み。それを、ただ静かに敵に向ける。


「随分、なめられているようだね」


 白雪は右手を高らかに上げた。


「凍てつけ」


 白雪が指を鳴らすと、泡と魚人を巻き込んで周囲が凍りついた。春の商店街に、美しい氷の彫像が生まれる。白雪は、何が起きたか知る間もなく凍りついた魚人に歩み寄り、その氷に触れた。


「勝負する相手は、間違えないようにしないとね」


 白雪が再び指を鳴らすと、氷が全てバラバラに崩れ落ちた。


「……寒い」


 白雪はその場に座り込み、胸を押さえて小刻みに震える。


「……げほっげほっ」


 深呼吸をして、白雪は溜息をついた。


「……僕には、時間が無いんだ。早く、早く姉さんに追いつかないと……」


* * *


 一方、商店街南口付近では、柊が逃げる人々を庇うように立ちふさがり、泡に対処していた。


「遅れろ……!」


 柊の声に合わせて、空色に包まれた泡がスローモーションになる。柊は泡を食い止めながら、人々に向かって声を張り上げていた。


「早く逃げて!」


 柊の声を聞き、人々は慌てて避難をする。


(この量の泡を止めるのは……きつい)


 柊はその場から動けなかった。アビリティをかける対象が多ければ多いほど、術者の負担も大きくなる。柊自身も泡から離れなければならないのに、足が震えてまともに動けない。


(集中して……1秒でも避難する時間を稼げ!)


 泡が徐々に、柊に近づく。柊の意識も、だんだんと薄れていく。


(駄目だ……もう意識が……)


「おい、あれは……」


 少年が指さした方向に、倒れた柊と柊に迫るいくつもの泡があった。ここから攻撃すると妹も巻き込んでしまう……どうするればいい?少年が頭を悩ませるのを余所に、聖夜は呟くように言った。


「先行く……!」


「は……?」


「『加速』!!」


「おい!待て!」


 翔太の制止を無視し、聖夜は加速した。聖夜の身体を包む空色の光が、流星のように尾を引く。光が置いて行かれるほど、聖夜は速かった。


「柊!!」


 ぎりぎりの所で聖夜は柊を救い出し、泡から逃れた。


「今だ!」


 聖夜は、避難した路地から少年に向かって叫んだ。


「分かってる……!『竜巻』!!」


 少年の竜巻が泡を一つ残らず破壊する。泡を破壊してすぐ、少年は2人のもとへ駆け寄った。


「大丈夫か!?」


 少年が2人に駆け寄ると、聖夜はふにゃりと笑って言った。


「なんとか……柊も無事だし……」


「……そうか」


 少年は頷いて、そして言った。


「妹が大事なんだな」


 妹が大事……そう言う少年の、聖夜を見る目は明らかに優しいものへと変わっていた。それに気づかないまま、聖夜は少年に頷く。


「ああ。……訳あって今両親が居なくてさ。血の繋がった、唯一の家族みたいなところがあるから、すごく大事だって思ってる」


 聖夜は気を失った柊を見つめて話し続けた。


「君が俺を助けてくれなかったら、今柊を助けることもできなかったんだよな。ありがとう。えーっと……」


「風見翔太だ。……お前らの人を助けようとする気持ち、認める」


「……!」


「でも、自己犠牲は必ずしも正しくはない。第一に自分を犠牲にする癖、早く治せよ」


「うん!」


「……んん。聖夜……?」


 柊が目を覚ましたようだった。ゆっくりと瞳を開けた柊を、2人は心配そうに見つめる。


「柊!」


「大丈夫か?」


「……うん」


 2人の問いかけに、柊は体を起こして頷いた。


「助けてくれたんだね……ありがとう。君が強いの、ほんとだったんだね」


 柊の言葉に対して、翔太は目をそらす。その頬は、少しばかり赤かった。


「風見翔太だ。……さっきは悪かったな」


「私も……ごめん。……はい」


 そう言うと柊は手を差し伸べた。


「仲直りの握手」


「は?」


 翔太はきょとんとした顔をした。まるで柊が何を言っているか分からない……といった様子の翔太を、柊と聖夜は不思議そうに見つめる。


「え、仲直りしたら握手じゃない?」


「翔太はしないのか?」


「し、しないが……」


 たじろぐ翔太の手を、柊は無理矢理掴んだ。


「はい、仲直り!」


「お、おお……」


 顔を赤くした翔太を見て2人は笑った。


「みんな、ここにいたんだ」


 白雪が3人を見つけて笑った。手がかじかんでいるのか、白雪は両手を擦りながら3人に歩み寄ってくる。


「仲直りできたみたいだね」


「白雪さん、これは……」


 慌てる翔太に白雪は微笑んだ。


「高次元生物は始末した。後は警察の方で処理してくれる」


『みんなおつかれさま。車を回したから、帰還して』


「了解。さあ、みんな帰ろう」


 白雪の言葉に3人は頷いた。

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