46 あの恋の行方(後日談②)
聖夜達の演説会が終わって、1ヶ月が経とうとしている。事件の収束後、慌ただしかった特部の周りもようやく落ち着き始めた。
あの後、聖夜の言葉が功を奏したのか、中央支部の管轄内では凶悪な犯罪は起きていない。それを見た真崎の提案で、中央支部全員で、事件解決の祝賀会を開こうということになった。
職員と隊員が全員が入れるように、中央支部の中でも広い部屋である共同キッチンを祝賀会仕様にすることになり、談話室や用具室の備品を集め、全員が楽しく準備を進めている。
海奈と深也もまた、談話室にある菓子やお茶類をキッチンに運ぶために、お盆にそれらを乗せている所だった。
「祝賀会、楽しみだな!」
「うん……なんていうか、本当に戦いが終わったんだなって実感するよね」
深也はそう言うと、海奈に向かって微笑む。
「僕がここに来てから、もう2年、か……。戦ってた時は考えもしなかったけど、なんだかあっという間だったな……」
「ああ、そうだな」
深也の言葉を聞き、海奈はこれまでのことを思い返す。
姉の花琳と共に家出をして中央支部に来て、隊員として戦うようになったこと。仲間達と出会ったこと。そして……深也のお陰で、前に進むことができたこと。
海奈はチラリと深也の方を見た。すると、彼の穏やかな微笑みが目に入る。その笑顔で、かつて深也が自分に告白してくれたことが呼び起こされる。
そして、その深也の言葉が本当に嬉しかったことも、深也と一緒にいることが、誰といるより落ち着くことも呼び起こされた。
──戦いが終わったこれからも、深也と一緒にいたいな。
そう思ったとき、海奈は自然と口を開いていた。
「あのさ、深也」
「ん……何?」
「俺、深也のこと好きだ」
「えっ」
深也の手から、菓子類の乗ったお盆が音を立てて落ちる。
「な、な、な……何、急に……」
顔を赤くしながら口をパクパクとさせる深也を真っ直ぐに見つめながら、海奈は言葉を紡いでいく。
「俺さ、深也が俺のことずっと好きだって言ってくれた時、本当に嬉しかったんだ。その時は、それは誰かに認めて貰ったのが初めてだったからだって思ってた。……でも、違った」
海奈はそこまで言うと、深也に向かって明るく笑う。
「それ絶対、深也のことが好きだからだ」
深也の目が丸くなる。深也は頬を染めて俯くと、か細い声で尋ねた。
「か、勘違いとかじゃ、ないの……?」
「勘違いじゃないよ。深也が俺の隣で楽しそうにしてくれるのも、俺のこと気遣ってくれるのも、すごく心地良いんだ。これからもずっと、そうやって深也と一緒にいたい。他の誰かじゃなくて、深也と一緒がいい」
海奈はそこまで言うと、深也の手を力強く握って微笑む。
「これが、俺が出した答えだよ」
「海奈……」
ずっと俯いていた深也だったが、海奈の言葉を聞き、赤い顔を上げた。
「僕も……ずっと、海奈と一緒がいい、です……」
深也はたどたどしくそう言うと、精いっぱいの笑顔で告げる。
「ありがとう。僕のために……答え、出してくれて……」
その可愛らしく困り眉になった笑顔を見て、海奈は嬉しそうに笑う。
2人が笑い合っていると、不意に談話室のドアが開いた。
「……おい」
見ると、恥ずかしそうに顔を赤くした翔太と、目を輝かせた柊が入り口に立っていたのだ。
「と、とりあえず菓子を拾って持ってこい……み、みんな待ってる。とにかく急げよ!!」
翔太は早口でそう言うと、駆け足で談話室を出て行ってしまった。
柊はそれを見てクスリと笑って、2人に向かって楽しそうな笑顔を見せる。
「2人ともおめでとう!後で話聞かせてね!」
柊はそう言うと、鼻歌交じりに談話室を出て行った。
真っ赤な顔で固まる深也を見て、海奈は照れ臭そうに笑う。
「……ごめん、見られちゃったな」
「う、うん……ちょっと、恥ずかしすぎて消えたいかも……」
「おいおい!せっかく両想いになれたのに消えないでくれよ!」
海奈はそう頼み込むと、深也が落とした菓子を拾ってお盆に乗せた。
「ほら、これ持って早くみんなの所に行こうぜ。きっとみんな待ってるよ」
明るい笑顔でお盆を手渡す海奈を見て、深也はぼそりと呟く。
「や、やっぱり海奈には敵わないな……」
深也は少し息を吐いて、お盆を受け取って笑顔を見せる。
「……行こっか」
海奈もそれに笑顔で頷き、2人で並んで談話室を後にした。