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45 未来へ繋ぐ声(後日談①)

45話以降は、本編終了後の聖夜達の後日談です。過去に別サイトに掲載していた後日談とは異なります。こちらの後日談は、本編を改訂するにあたって作り直したものです。ご了承ください。

 未来人による高次元生物騒動から、1日後。千秋は、天ヶ原町の隣町にあたる学園都市、白波市にある、演説会用にセットされた大学のドームの中の控え室から観客席を覗いていた。


 都内でも有数の大きさを誇る白波大学スポーツドーム。その観客席には人々が隙間無く座っている。


 その人数の多さに少し緊張して息をつきながら、千秋は部屋の隅にあるベンチに座っている聖夜に小声で話し掛けた。


「聖夜、大丈夫か?」


 すると、聖夜は体をびくりとさせて、勢いよく千秋の方を向いた。


「えっ!?あ、はい!!だ、大丈夫です!!」


 言葉とは裏腹に聖夜の表情は固く、冷や汗をかいている。どこからどう見ても緊張しているようだった。


 千秋はその様子を見て、聖夜の肩をポンポンと叩いて微笑む。


「大丈夫だ。落ち着いて、君の言葉で話せばいい。自分の口から、伝えたいことがあるのだろう?」


「……はい!」


 聖夜は顔を引き締めて頷く。


「では、これより演説会を始めさせていただきます」


 外から、琴森の声が聞こえる。


「……よし、時間だ。聖夜、行こう」


 千秋は聖夜を連れて控え室を出て、ドームの中心にある演説台に登った。


 それを確認した琴森が、司会を進行する。


「始めに、特殊戦闘部隊総隊長、志野千秋から、今回の事件についてお話しさせていただきます」


 千秋は頷き、観客達のことを真っ直ぐに見つめて口を開く。


「この数十年間、私達、特殊戦闘部隊は、高次元生物と戦い続けてきました。そして先日、高次元生物を生み出した黒幕である5人の未来人と戦闘し、彼らを説得する形で和解しました」


 千秋はそこまで言うと、一呼吸置いて、続けた。


「今後、高次元生物が生み出され、人間を襲うことはありません」


 千秋の言葉を聞いた途端、ドームの中が歓声に包まれる。


 大喜びで指笛を吹く者、満面の笑みで拍手する者、中には感激で涙ぐむ者もいた。


 千秋はそれを見て微笑み、更に続ける。


「今後も特殊戦闘部隊は、皆さんの平和な毎日をお守りするべく、活動を続けていきます」


 そこまで言うと、千秋は少し間を置いて真剣な顔になり、口を開いた。


「……私達が活動を続けること、それが何を意味するかお分かりでしょうか。……そう、この国は、この世界は、まだ完全に平和だとは言い切れないのです。アビリティによる犯罪は増加し、人を傷つけることを厭わない人間が増えてきている。……このままではいけない」


 千秋は、観客席を真っ直ぐに見つめながら、言い放つ。


「私達は、変わらなければなりません」


 ドームの中が静まり返る。先程までの祝賀ムードが、一瞬で消え去った。


 観客達の戸惑いを肌に感じながら、千秋は傍らの聖夜を見た。聖夜が小さく頷いたのを確認して、千秋はマイクに向かって告げる。


「このことに関して、中央支部の隊員からお話があります。聞いて下さい」


 千秋はそう言うと、マイクの前を聖夜に代わった。


 聖夜は深呼吸して、ドームを埋め尽くした観客達を見る。


(やっぱり……すごい人数だ。でも怖じ気づいていられない。約束したんだ。俺達が未来を守るって)


 聖夜は別れ際のノエルの笑顔を思い出し、覚悟を決めて口を開く。


「俺達はっ……!未来の人達から、平和な未来を創ることを託されました!今回の騒動を起こした未来人達は、俺達の時代から200年後の、戦争で滅んでいく世界から、過去を変えて未来を救うためにこの時代にやってきて、高次元生物を作った……」


 緊張で声が震える。しかし、話を止める訳にはいかなかった。


「彼らのことは許せない人が殆どだと思います。でも、彼らも、アビリティによる戦争の火種を作った俺達のことが、許せなかったんです。……だから、アビリティを人を傷つけるために使い始めた、俺達の時代を支配しようとしたんだ」


 聖夜の脳裏に、闇の中で見たノエルの過去が蘇り、目に涙が浮かぶ。戦争で大切な人を失った彼の悲しみが、この戦いの中で旭を亡くした彼には痛いほど分かった。


 旭を失った過去はもう変えられない。しかし、ノエルが大切な人を亡くす未来は変えられる。


「……この戦いで、大切な人を失った人達も大勢いると思います。悲しくて、辛くて……前を向くことが苦しい人も、未来人達が許せない人もきっといる。でも……変えられない過去に縛られて、誰かを憎んでも、何も変わらない!」


 聖夜は真っ直ぐ前を向き、言い放った。


「過去は変えられなくても、今を変えれば未来は変えられる……!」


──未来は今の積み重ねなんだから。


 かつて、母が教えてくれた言葉。自分が救われた言葉。そして、これから多くの人を救うのであろう言葉……それを、聖夜は必死に紡ぐ。


 この言葉が、ノエルの時代まで届くと信じて。


「俺は、この時代の人達の今も、未来の人達の今も、両方諦めたくない!だから、皆さんにとって……それから、遠い未来の彼らにとって、平和な時代を創るために……力を、貸してくれませんか……?」


 震える声で話し終えた聖夜は、観客達の反応を、拳を握り締めながら待つ。


 この時代を壊そうとした、未来人のために行動しろと言っているような内容の演説だ。野次が飛んでくることも、批判されることも覚悟はしていた。


 ……しかし。


 ドームの中に、1人。拍手する観客がいた。


 パラパラとまばらだった拍手は、やがて大きくなり、ドーム全体を包む。


 聖夜がその音に目を丸くして固まっていると、傍らの千秋が微笑みながら聖夜の肩に手を乗せる。


「頑張ったな」


 千秋は小さな声でそう言うと、ドームを見渡しながら聖夜に告げる。


「君が変えたんだ。ここにいる人達の、今を」


「総隊長……」


 聖夜は、僅かに潤んだ目元を擦り、彼に向かって笑顔を見せた。


「……はい!」


 聖夜は拍手の音が鳴り響くドームを見渡して、吹き抜けた天井から青空を見て微笑んだ。


──きっと、変えてみせる。ノエル達の悲しい未来、俺達が変えてみせるから。だから……未来で待っててくれ。


 青空の中を白い鳥の群れが飛んでいく。それはまるで、新しい時代の幕開けを告げているかのようだった。

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