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33 北日本支部

 花琳と白雪が西日本支部に到着していた頃、翔太、深也、海奈の3人も北日本支部前に到着していた。


「あれは……!」


 3人は目を疑った。北日本支部が、青い炎に包まれて燃え盛っていたのだ。職員と思しき人々が建物を遠巻きに見ている。その中にマントを身につけた隊員の姿は無かった。


「あ!あなた達中央支部の!」


 人だかりの中から、ショートヘアの小柄な女性が駆け寄ってきた。


「北日本支部の方ですか?」


 翔太の問いかけに女性は頷いた。


「はい!私は山野雫。北日本支部のオペレーターです」


「状況は?」


「見ての通り……謎の人物の襲撃で建物が火事になってるわ。あなた達に犯人を捕まえるのを手伝って欲しかったんだけど……」


「この炎の中、入るのは厳しそうだね……」


 深也の呟きに、山野は俯く。


「どうしよう……中にはまだ隊員が……」


 山野の言葉に、3人は目を丸くした。


「中にいるんですか!?」


「ええ、おそらく……退避命令を出してから連絡が取れないの。外にも出てきてないみたいで……」


「……なら、やることは一つだ」


 翔太の言葉に、深也と海奈も頷いた。


「もしかしたら、中で戦ってるのかもしれない。俺達、中を見てきます」


「そ、そんな!危険よ!映像が無いからオペレーションもできないし……」


 慌てて止めようとする山野に、翔太は真剣な眼差しを向けた。


「……仲間が危険な目に遭ってるかもしれないのに、黙ってみていられない。それに、俺達は北日本支部を助けるために来たんだ」


「でも……」


「信じて下さい。俺達は必ず任務を遂行してみせます」


「……分かったわ」


 翔太の断固とした態度に、山野は覚悟を決めた表情で頷いた。


「但し、無茶はしないこと。自分達の安全を最優先に考えて」


「了解!」


 3人は燃え盛る建物の中に向かって駆けていった。


 建物の入り口は開いていたものの、崩れた瓦礫が燃え盛っており簡単に入れる様子ではなかった。


「こ、ここから入るのは厳しいんじゃ……」


 深也の言葉に、翔太も舌打ちをした。2人の様子を見た海奈が、一歩前に出る。


「待った!……俺に任せてくれ」


 海奈は手の平を入り口に向けた。


「『激流』!」


 激しい勢いで水が流れ、入り口付近の炎が水蒸気を上げながら消えていく。


「俺は届く範囲の火を消していく。2人は先に中へ!」


「分かった」


「む、無理しないでね」


 深也と翔太は頷き、建物の中へ入っていった。


* * *


 玄関ホールに火の気は無く、天井から水が降り注いでいた。


「雨……?」


「水のアビリティ……?海奈か?」


「海奈はまだ外にいるよ……」


「なら誰が……」


 その時。


ドーーーン!!


 上の階から爆発音が聞こえた。その衝撃で建物が揺れる。


「……時間が無い。今は隊員を助けるぞ」


「う、うん……でもどこにいるんだか……」


 深也は辺りを見渡した。建物中に雨が降っているお陰で、建物の中は外ほど酷く燃えてはない。ただ、外側のダメージを考えると、いつ崩れてもおかしくないだろう。


 冷静に、しかし早く……この状況に対処する必要がある。


 深也は心を落ち着けながら頭を働かせ、状況を整理した。


「オペレーターと会っていないということは司令室方面にはいないはず。……てことは、寮の方にいる可能性がある……?」


 深也の呟きに、翔太は頷いた。


「……確かに。そうかもしれない」


「行こう。翔太君」


 2人は駆け足で、隊員達の寮の方向に急いだ。


* * *


 逃げ遅れた隊員を探す2人が、寮の廊下に差しかかった、その時。


「なんだよ!大したことねぇな!」


「う……」


 2人の目に、背の高い赤髪の青年が、白いマントを身につけた少年を踏みつけている光景が飛び込んできた。青年は左目に眼帯を付けているものの、右目からだけでも恍惚とした感情は伝わってくる。


「雨を降らせたのは頭が良かったが、それも1階だけ……しかも、そのせいで力を使いすぎてヘロヘロ!馬鹿な奴だな!」


 青年が手を握りしめると、拳が炎に包まれる。青年は踏んづけていた少年の胸倉を掴むと拳を振り上げた。


「これで終わりだ!」


「させるか!『突風』!」


 強い風が吹き荒れ、青年が思わず手を離す。


「……!誰だ!?」


「特部中央支部だ。お前の方こそ何者だ!?」


 翔太に問われ、青年はニヤリと笑う。


「俺が何者かって?そんなもの名乗る必要はないね!『火炎弾』!」


 青年の手から青い炎が放たれる。翔太はそれを躱し反撃の構えを取った。


「『かまいたち』!」


 翔太の掌から、風の刃が青年に向けて飛んでゆく。しかし青年はそれを難なく躱すと豪快に笑った。


「ははっ!ここに来た勇気は認めるが、お前1人で何ができる!」


「……確かに俺1人ではお前を倒せないかもしれない。だが、俺は1人じゃない」


「は?何を言って──」


 次の瞬間、青年の背後に深也が現れた。


「……油断してくれて助かったよ」


「何っ!?」


 青年が振り返る間もなく、深也は背後から青年の腕を締め上げた。青年は身動きが取れず、苦しそうに深也を見る。


「ぐっ……!」


「降参したら?今なら僕らも手荒な真似はしない」


 深也は青年に向かって冷静に話す。しかし、青年は不敵に笑った。


「……ははっ!何だよ。お前らやるじゃねぇか」


「……君、今の状況分かってる?」


「分かってないのはお前の方だ!」


 青年がそう言った瞬間、深也と青年の周辺に青い炎の渦が発生した。


「……!ばかな……」


 深也は突然の出来事に驚き、青年から手を離した。


「はは!形勢逆転だ」


 自身も渦の中にいるというのに、青年は余裕たっぷりの表情を深也に向けている。


(何でこいつは焦らないんだ……いや、そんなことより早く脱出しないと……)


「ほらほら、考えろ!焼き焦げちまうぞ?」


 青年に煽られるものの名案が思いつかず、深也は舌打ちした。炎の熱が、じわじわと深也に迫ってくる。


 しかし、次の瞬間。


「『渦潮』!」


 炎の渦を、水の渦がかき消したのだ。


「海奈!」


「深也、大丈夫か!?」


「う、うん……!」


 深也は次の攻撃に備え、青年から距離を取り、仲間達の元へ下がった。


 敵のアビリティの強さと、戦い慣れている様子を目の当たりにし、闇雲に近づくのは危険だと判断したのだ。


「俺様の炎を消すとは……なかなかやるな」


 青年が、ニヤリと笑って海奈を見る。海奈はそれを睨み返して尋ねた。


「……お前がこの騒ぎを起こしたのか?」

 

「そうだ。特部を潰さなきゃならないんでな」


「……てことはお前、高次元生物を生み出した敵だな!」


 海奈にそう言われ、青年は豪快に笑った。


「その通り!お前達は俺を楽しませてくれそうだから教えてやる。俺の名はイグニ!お前達を倒す男だ!」


 イグニはそう言うと、右腕を大きく振るい、大きな青い炎の弾を放つ。


「『激流』!」


 海奈は激しい水流でそれを相殺しようとするが、炎の熱で水が蒸発していく。


「何……!?」


「海奈!」


 深也が海奈を突き飛ばした。翔太が辛うじて海奈のことを受け止めたが、深也の左腕に炎が炸裂する。


「うっ……!」


「深也!」


 深也の制服は袖が焼き切れ、左腕が爛れていた。深也あまりの痛さに左腕を押さえる。

 

「くっ……」


 その様子を見て、イグニは高らかに笑った。


「ははっ!仲間思いとは泣けるな!だがな、ここは戦場だ!そういう奴から命を落とす!」


 イグニは、更に火炎弾を深也に向けて放った。


「深也、避けろ!」


 翔太は叫んだが、深也は痛みで反応が遅れる。


(駄目だ……当たる!)


 その時。


「『召喚』……壁!」


 深也達とイグニの間に、突如として大きなコンクリートの壁が現れた。炎は遮られ、深也に届かない。


「な、何だ……!?」


 翔太が驚き目を丸くしていると、前線から下がってきていた、栗色のボブヘアーの、北日本支部の少年が口を開いた。


「おらの『召喚』で、2階で無事だった壁を呼び出したんだ」


「召喚……ってことは、この雨も?」


「うん。雨が降っているところから呼び出した。力不足で1階にしか降らせられなかったけど……」


「……いや、十分だ。ところで君は……」


「おらは仲村実。北日本支部のリーダーだ」


 実はそう言って翔太に笑顔を向けた。


「北日本支部……確か他に2人居たよな?」


「セナとノアは他の任務で留守だったんだ。だから、おらが北日本支部を守らねばまいね。なのに……全然歯が立たなかった」


 落ち込む実に、深也が慌てて声をかける。


「あ、あいつ強いから……1人で戦うのは厳しいよ。雨降ってる中であの威力の炎を飛ばしてくるんだから……」

 

 深也の言葉に、翔太も頷いた。


「ああ。アビリティは総隊長と同じだが、俺達を本気で倒そうとしてきている分あいつの方が強い」


「一体どうしたらいいんだ。俺達……」


 海奈の呟きに、その場にいた全員が黙り込んでしまった。


(……海奈の『水』も効かなかった。多分あれがあいつの本気なんだ。なら、僕達に……僕にできることは何だ?)


 深也は考えを巡らせる。腕は痛むが、頭は妙に冴え渡っていた。


「……僕達が僕達の力だけで完全勝利をするのは難しい。でも、ここにある全てのものを使ったとしたら?」


「何か思いついたのか?」


 翔太の言葉に、深也は力強く頷いた。


「……うん」


「俺達はどうしたらいい?」


「空間をフルに使って、大きく戦って欲しい。敵の攻撃は躱して……」


 その時。


ドーン!!


 コンクリートの壁が、炎の熱によって爆発した。


「俺に隠れて内緒話か?ははっ!無駄なことを!」


 翔太達が見ると、崩れた壁の向こう側でイグニが不敵な笑みを見せていた。雨が降っているにも関わらず、イグニの周辺は青い炎が燃え盛っている。


 それを睨みつけながら、特部隊員達は立ち上がった。


「みんな!深也が言ったことを実践するぞ!」


 翔太の声に全員が頷いた。


「俺から行く!『渦潮』!」


 海奈の声に合わせて、イグニの周辺に巨大な水の渦が発生する。


「無駄だ!『火炎』!」


 しかし、イグニの放った炎が渦となり、渦潮を干上がらせた。炎の渦は天井付近まで燃え上がり、建物を破壊し始める。


「はは!作戦会議した割には大したことねえじゃねぇか!」


「海奈だけが相手じゃない!『かまいたち』!」


 翔太はイグニの背後に回り風の刃を繰り出した。が、イグニはそれを易々と躱すと、拳に炎を灯らせた。


「『火炎拳』!」


 青い炎を纏った拳が、翔太に迫る。翔太がギリギリでそれを躱すと、拳は近くの柱に炸裂した。


 柱はミシミシと音を立てて、崩壊を始める。それを見た翔太は素早く下がった。


 柱が壊れ、建物の倒壊が始まる。天井から瓦礫が降ってくる。


「崩れるぞ!みんな脱出しろ!」


 翔太の声に、海奈と実は頷いた。


「チッ……この戦い、終わらせる訳にはいかねぇってのに!」


 イグニは舌打ちをして、翔太達を追って出口の方へ走り出そうとしたが、何者かによって押し倒された。


「……逃がしはしない!」


 その声と共に、『透明』になっていた深也が、イグニの上に姿を現した。深也は腕の痛みを必死に堪えながらイグニを押さえ込んだ。


「……!こいつ……」


「お前は、瓦礫の下敷きになるんだ!」

 

「それがお前の作戦か……!」


「そうだ……!お前に建物を破壊させて、その下敷きにさせる。使えるもの全てを使って、僕達はお前を倒す!」


「……そのためなら自分も犠牲にするってか。馬鹿な奴だ!」


 イグニは不敵に笑った。するとイグニの服のポケットが光り出す。


「残念だがお前の負けだ!俺はまだ死なねぇ!」


 あまりの眩しさに深也は目を瞑る。再び目を開けたときには、そこにイグニの姿は無かった。


「……くそ!」


 深也は悔しさのあまり床を殴りつけた。


「深也!早く!」


 まだ廊下の真ん中にいた深也に気づいた海奈が叫んだ。


(……今は助かることが先決だ)


 深也が出口へ向かって走り出そうとしたその時。


 瓦礫が落ちてきて、廊下を完全に塞いだ。


「……そんな」


 燃え盛る炎の中、深也は絶望して膝をついた。


(閉じ込められた……終わりだ……)


 深夜の頭上から、天井が落ちてくる。瓦礫の中に飲み込まれて、深也は意識を失った。


* * *


(……ここは?)


 深也は目を覚ますと、中央支部の談話室にいた。  


(夢か……走馬灯か?)


 壁に掛かったカレンダーは、2年前の5月29日のものだった。


(……僕が初めて特部に来た日だ)


 深也はその日のことを思い返す。


(確かこの日は……)


 深也が記憶を手繰り寄せていると、談話室の扉が開いてポニーテールの少女が入ってきた。


 当時の海奈だった。


「だーかーら!あたしは深也と仲良くなりたいんだって!」


 海奈に手を引かれ、前髪の長い、背中を丸めた少年が談話室に連れ込まれる。


(僕だ……)  


 深也は、中学生だった頃の自分と、海奈の様子を窺った。


「……でも、僕といても良いことないし」


 中学生の深也はそう言って俯いた。しかし、海奈は屈託のない笑顔を向ける。


「良いことがあるから一緒にいるんじゃないよ!折角仲間になったから話したいんだよ」


「で、でも……」


「でも、は禁止!なんでそんなに自信ないんだ?」


「……僕、根暗だから。色んな人から嫌われてるし……そんな自分も嫌いだし……」


 そう言って、更に体を縮こめる深也に対して、海奈は溜息をつく。しかし、その後すぐに、力強く深也の肩を掴んで、明るく笑った。


「あたしは深也を嫌わない!それに、自分が嫌いなら変わればいいんだ!」


「変わる……?」


「そう!自分の好きな自分に変わる!そんで、嫌いだって言ってきた奴を見返す!あたしも応援するからさ」


「……でも、できるかどうか……」


「できるさ。あたし、信じてるから!」


 そう言って笑顔を向ける海奈に、中学生の深也は顔を赤くして俯いた。


(……そういえば、この時だったな。海奈のことが好きになったの)


 深也の脳裏に、海奈の笑顔がよぎった。


(海奈が信じてくれたから、少しだけど、変われた気がする。特部の仲間とも出会えて、少しだけ自分が好きになれた)


 深也の胸が熱くなる。


(……生きたい。もう一度海奈に……皆に会いたい!)


 深也の視界が、白くぼやけ始めた。


(夢なら……覚めろ!)


* * *


「はっ……!?」


 目を覚ますと、瓦礫の中にいた。深也の全身が痛む。……が、幸いにも生きている。落ちてきた瓦礫が重なり合い、偶然にも深也の体が横たわれるだけの空間を作っていたようだった。


(……運が良かった)


 深也は体を動かそうと試みたが、足が瓦礫に挟まっているのか、思うように動けない。


(ここから出られなかったら……死んでしまう)


 深也は何とか足を動かそうとするが、足の瓦礫はどけられない。


(まずい……どうする)


 その時、微かに聞き慣れた声が聞こえた。


「……也……深也!」


「どこにいる!?いたら返事しろ!」


(海奈と翔太君だ……!)


 深也は意を決して大きく息を吸った。そして、可能な限り大きな声を出す。


「僕は……僕はここだ!」


 しかし、2人からの応答はない。


(気づいてないのか……!?)


 深也の心に焦りが生まれた。深也の頭に、見つけてもらえず、瓦礫の中で息絶える未来が頭をよぎる。しかし、深也はその恐れをなんとか振り払った。


(……いや、2人なら見つけてくれる。仲間を信じるんだ)


 深也は再び息を吸った。先程よりも大きな声で助けを呼ぶ。


「僕はここにいる!助けて!」


 次の瞬間。


「ここです!ここから声が聞こえた!」


 翔太の声がして、頭上の瓦礫がどけられた。外の光が入ってきて、深也は眩しさのあまり目を瞑る。


「負傷者発見!……君、大丈夫か?今助けるからな!」


 目を開けると、オレンジ色の服を着たレスキュー隊員と目が合った。深也の体の上にある瓦礫が数人がかりでどかされていき、深也はレスキュー隊員によって助け出された。



「……助かった?」


 救出された安堵感と共に全身の打撲が痛んで、深也はその場に座り込む。


「ああ。君の声に気付いてくれた仲間に感謝しないとな」


 レスキュー隊員はそう言って笑顔を見せた。


(……仲間、か)


 レスキュー隊員の後ろを見ると、翔太と海奈が不安そうにこちらを見ていた。


「ほら、立てるか?立てるなら、行ってやれ」


「は……はい」


 レスキュー隊員に促されて、深也はフラフラ立ち上がり、2人に歩み寄った。


「……翔太君、海奈、助けてくれてありがとう」


 そう言って、深也は精いっぱい笑顔を作った。しかし、翔太はそれを鋭く睨む。


「……おい」  


「ひぃっ……!?な、何、翔太君……」


 あまりの剣幕に、深也はビクリと体をすくめた。


「始めから自分を犠牲にするつもりだったな?」


 図星をつかれ、深也は思わず目を逸らした。


「……で、でも、一応脱出しようとはしたんだよ?」


「関係ない。俺はお前が自分を大事にしなかったことに怒っている」


 深也がチラリと窺うと、翔太の表情は声色とは裏腹に、とても心配そうな顔だった。


「翔太君……」


「もっと俺達を頼れ。無茶はするな。……仲間だろう」


「も、もしかして、めっちゃ心配してくれてる?」


 深也の言葉に翔太は溜息をつき、厳しく深也を睨みつけた。


「……反省しろ」


「は……はい」


「はぁ……オペレーターに報告に行ってくる」


 翔太はそう言って山野の元へ走って行った。


「翔太なりに心配してるんだよ」


 海奈が苦笑いしながら、深也に言った。


「大丈夫。……十分伝わってるから」


 深也はそう言って、海奈に笑いかけた。


「海奈もありがとね。探してくれて……」


「当然だよ!深也は大事な仲間だからな!」


 海奈はそう言うと屈託なく笑った。その明るい笑顔を目の当たりにして、深也は嬉しさのあまり胸を押さえて微笑む。


(また見れた。海奈の笑顔。海奈や、翔太君……仲間に、また生きて会えたんだ、僕は……)


 深也はふと、夢の中の出来事を思い出した。


(海奈が昔言ってくれた通りだった。僕、いつの間にか仲間を信じられるようになって、一緒に戦えて……今の自分、結構好きだな)


 そう思ったら、胸が暖かくなり……深也の顔が、自然と笑顔になっていた。


「深也?何ニヤけてるんだ?」


「えっ……ぼ、僕、ニヤニヤしてた?」


「してたしてた!どうしたんだよ?」


「そ、それは……決してやましいことではなく……」


 深也がどう弁解しようか目を回していると、向こうから翔太が走ってきていた。


「お、おい!助けてくれ!」


「え、どうしたの翔太君……」


「後ろ……!」


 翔太に促されて後ろを見ると、実と共に、特部の白いマントを身につけたブロンドヘアの男女が駆け寄ってきている所だった。


 男子の方は長い髪を頭の後ろで一纏めにしており、女子の方は高い位置でツインテールにしている。


 2人は翔太に追いつくなり、それぞれ翔太の腕を掴んで、彼を見下ろしながらニッコリと笑う。


「逃げるなんて酷いよ!」


「そうそう!ボクと姉さんの話を聞いてよ!」


「くっ…………」


 背の高い2人に捕まり、翔太は心底悔しそうな顔をする。それを見ていた深也は、慌てて2人に尋ねた。


「ち、ちょっと待って。君達、誰?」


 深也が尋ねると、2人はよくぞ聞いてくれました!と言わんばかりに顔を輝かせた。


「まずは私ね!……天使の歌声で、あなたのハートを癒します!浜茄子ノアです!」


 ブロンドヘアをツインテールにした、少女の方……ノアはそう言うと、突然歌い出した。


『ラ~ラララ~♪』


 すると、深也の火傷がみるみるうちに治っていく。


「何これすごい……」


「私のアビリティ、『歌』だよ!傷を癒す力があるの!」


 ノアはそう言って深也にウインクした。


「はいはい!姉さんの次はボクね!」


 今度は、少年の方が元気よく手を挙げた。


「天使の瞳で君のハートを射貫いてみせます!浜茄子セナです!」


 セナはそう言うと深也に向かってウインクした。


「どう?『魅了』された?」


「どうって言われても……」


 深也の様子に、特に異常はない。するとセナは溜息をついた。


「ボクのアビリティは『魅了』。ウインクした相手の心を魅了するんだけど……好きな人がいる人には効かないんだよね」


「す!?すすす……好きな人!?」


「そう。君にはすでに天使がいるんだね……」


「あ、あんまり恥ずかしいこと言わないでくれる!?」


 深也は助けを求めて翔太を見た。しかし、翔太はやれやれと首を横に振って言った。


「……俺が逃げてきた意味が分かったか」


「はい……十分に……」


「あ、あんまりそう言わねぇでくれ。2人ともおらの大事な仲間なんだ」


 実が慌ててフォローする。それを聞いた深也達は力無く笑った。


 それを見ていた海奈は、眉を下げて複雑そうな顔をしていた。ノアはそれに気が付き、翔太の腕を離して彼女の傍に寄る。


「ねぇ、どうしたの?」


「え?な、何が……」


「顔、曇ってるよ」


 ノアに指摘され、海奈は慌てて笑顔を作った。


「大丈夫だよ!ちょっと考え事してただけ」


 そう言って深也がいる方を見つめる海奈を見て、ノアは目を輝かせながら耳打ちした。


「もしかして、彼があなたの王子様?」


「え?」


「私、応援しちゃう!頑張ってね!」


「お、おい……俺は、そういう話は……」


 海奈はノアの言葉を否定しようとしたが、上手く言葉が出てこない。それだけではなく、否定するのが、なんとなく苦しかった。


(こんな気持ちになるなんて、俺、どうしたんだ……?)


 海奈が胸に手を当てて考え込んでいると北日本支部の建物の方から山野の声が聞こえた。


「中央支部の皆さーん!」


 声の方を見ると、山野がこちらへ駆け寄ってくるところだった。


「ワープパネル、復活しました!」


「ありがとうございます。……総隊長の作戦もある。戻ろう」


 翔太の言葉に、海奈と深也は頷いた。


「今日はありがとう!また任務があったら来てけれ」


 実がそう言うと、セナとノアも微笑んだ。


「実を助けてくれてありがとう!」


「今度はゆっくりお話ししましょうね!」


「……ああ。またな」


 翔太達は3人に頷き、ワープパネルへ向かった。

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