21 衝撃
翌日、中央支部隊員は全員が総隊長室に集められていた。
「集まってもらってすまない。今日は君達に伝えなければならないことがある」
千秋のただごとではない様子に、隊員は全員固唾を呑む。
部屋の中に緊張感が走る。千秋は、隊員全員の顔を見渡して、ゆっくりと口を開いた。
「……高次元生物は人為的に生み出されている」
「え……!?」
聖夜は驚いて声を上げた。他の隊員達も、目を見開いて驚きを隠せない様子だ。
千秋はそんな隊員達に対して、落ち着いた様子で話を進める。
「驚くのも無理はないが……この資料を見て欲しい。琴森、頼む」
「分かりました」
琴森は千秋に頷き、隊員に5枚綴りの紙の資料を配った。
その資料には、高次元生物が出現した場所を詳しく分析したデータが載っていた。
隊員達は、各々資料に目を通す。
白雪や深也がその資料を素早く読み進めている一方で、聖夜と柊は見慣れないデータを前にして、あまりピンと来ていない様子だ。
「高次元生物が出現したポイントに残っている残滓が、ワープパネルを使用したときに残るものと一致した」
千秋がそう言うと、聖夜が首を傾げる。
「残滓……?」
理解が追いついていない様子の聖夜に対して、琴森が分かりやすく付け加える。
「あなた達が任務に使うワープパネルは、『転移』のアビリティを応用したものなの。そして、アビリティとはエネルギーを変化させたり、利用したりすることで特殊な効果を発揮させるもの。だから、利用した後には必ずエネルギーの残滓が残る」
「じゃあ、その残滓がワープパネルのものと一致したってことは……」
聖夜がそう言うと、琴森は頷いた。
「そう。何者かが高次元生物を各地へ送り出しているということ」
「でも……一体誰が」
誰も聖夜の言葉に答えることができず、部屋が静まり返る。
その沈黙を破るように、花琳が手を挙げた。
「心当たりがあります」
花琳の申し出を聞き、千秋は彼女を真っ直ぐと見据える。
「話を聞かせてくれ」
千秋に促されて、花琳は静かに頷き、自分の意見を話し始める。
「はい。……先日、蜘蛛型の高次元生物を従えていたエリスという少女に会いました。彼女は高次元生物を自分の物だと言っていたんです」
「つまり、エリスという少女が高次元生物を送り出していると?」
「はい……でも、他にも気になることがあって……」
「教えてくれ」
「はい。……エリスは特部を潰すように頼まれたと言っていました。だから、他にも仲間がいると思うんです」
「なるほどな……有益な情報をありがとう」
千秋は真剣な顔で頷いた。
高次元生物を送り出している敵が何者か、手掛かりが無い状態からみれば、この情報を得られたことは大きな一歩だ。
しかし、まだまだ不明な点は多々ある。
「じゃあ、そいつらを倒せば高次元生物は生まれなくなるのか?」
海奈の疑問に対して、千秋は首を横に振った。
「そう簡単にはいかないだろう」
「どうして?」
「高次元生物を生み出している施設を攻撃しない限り、敵を倒したとしても高次元生物は生み出される可能性があるからだ」
千秋の言葉を聞いて、海奈は納得した様子で頷く。
「なら、施設を探して叩けばいいんだな」
「ああ……これからの敵は高次元生物だけではない。高次元生物を生み出している人物と施設を探し出し、これ以上の惨劇を止めるんだ」
「はい!」
隊員全員が真剣な顔で返事をしたその時だった。
「大変です!」
総隊長室の扉が勢いよく開き、真崎が慌てて中に入ってきた。
「東日本支部より応援要請が入りました!」
焦っている様子の真崎に、千秋はしっかりと頷く。
「……分かった。翔太、柊、東日本支部へ向かってくれ」
「分かりました」
「了解!」
柊は元気よく返事をし、真崎と共に部屋を走り出ていく。
一方の翔太は、部屋を出る前に、聖夜にラッピングされた小さな贈り物を手渡した。
「聖夜、これ……」
「え、俺に?」
突然プレゼントを渡されて、戸惑いを隠せない聖夜に対して、翔太は首を横に振る。
「違う。燕にだ。今日は誕生日なんだが……渡せそうにないからな」
「あー、なるほど。代わりに渡せばいいんだな」
「ああ。頼む」
それだけ言うと翔太は部屋を出て行った。
それを見送って、千秋は残りの隊員達を見渡して指示を出す。
「……話は以上だ。残りのメンバーは待機、またはパトロールにあたってくれ」
「了解!」