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1 時の力を持つ双子

「何だ、あのアビリティ……見たことない」


「あれが例の『時』の能力者か……」


 天ヶ原町警察署アビリティ課、入隊試験会場がざわめいてる。人々の視線は戦闘試験が行われている体育館の中央に集中していた。


「よっと!『加速』!!」


「速くて当たらない……!」


 瞳と同じ空色の光に包まれながら、黒髪の少年が、絶え間なく放たれる雷を素早く走ってかわしていたのだ。雷光が空気を裂くバリバリという音と、少年が床を蹴る軽やかな音が、体育館にこだまする。


「遅いぞ!」


 攻撃に集中していた相手の隙をついて、少年が背後を取った。


「なっ……!」


 相手が振り返るより、早く。少年は相手の背中を軽くパンチした。


「3本目!3対0で勝者、宵月聖夜!」


「よっしゃー!」


 宵月聖夜と呼ばれた少年は元気に拳を突き上げた。


「聖夜、おつかれさま」


 控え室に戻ろうとする聖夜に、タオルを持った少女が声をかけた。肩まで伸びた黒髪に、聖夜と同じ空色の瞳をしている。キリリとしたツリ目の聖夜と異なり、可愛らしい大きな瞳をしていたが、雰囲気自体は彼によく似ていた。


「はい、タオル」


「ありがとうな、柊!……柊はどうだった?」


「楽勝だよ。相手の動きを遅くしている間に3発みぞおちに……」


「容赦ないな!?」


「聖夜が優しすぎるんじゃない?聖夜の相手だって容赦なく『雷』を当てにきてたじゃない。相手の人も、悔しかったと思うよ?本気を出してない相手に負けたの」


「あー……そうかな。じゃあ、午後からは本気出す!」


「本気も何も、午後は面接じゃん」


「う……め、面接も頑張る!」


「はいはい」


 2人が会話しながら歩いていると、曲がり角で小柄な少年がぶつかってきた。


「うわっ!?」


「あ、悪い……大丈夫か?」


「ご、ごめんなさい……次戦闘試験なんですけど会場が分からなくて」


「そこを曲がって右だよ」


 聖夜は廊下の突き当たりを指さして言った。


「ありがとうございます!あ、僕、蓮見司って言うんです。よろしくお願いします!」


 司が、くるんとしたアホ毛を揺らしながら勢いよくお辞儀をする。


「俺は宵月聖夜。ほら、早く会場に行った方が良いぞ」


「あ、はい!!ほんとに、ありがとうございました!」


 司は礼を言いながらパタパタと廊下を走っていった。その、慌ただしくしながらも礼儀正しい様子を見て、柊は苦笑いする。


「変わった子だね。ライバルに対しても、あんなに丁寧なんてさ。今日、結構バチバチしてる人多いのに」


「そうだな……。でも、きっと良いやつだよ」


「そうかもしれないけど……。あ、待って」


 柊は立ち止まり、柱に掛かっている時計を確認した。時刻は午後12時10分。丁度お昼時だ。


「もうお昼だし、控え室の荷物取ったら食堂に行かない?午後も面接だし」


「あ、そうだな。そうしようか」


 2人は早足で控え室に戻り、荷物を取って食堂へと向かった。


* * *


 食堂は戦闘試験を勝ち抜いた者達で混み合っていた。


「ほんとに半分減ったんだよね……?」


「それだけ沢山受けてたってことだな」


 警察アビリティ課は、義務教育を終えていれば訓練生として入隊が許可されることもあり、非常に倍率が高い。訓練生は警察内の学校に通いながら、任務に同行することになる。


 職務内容は、アビリティ関連の事件の処理である。近年、アビリティによる凶悪犯罪が増えつつあり、アビリティ課の出番も大きく増えた。


「まあ、警察の花形部署だもんね。アビリティ関連の事件は大抵アビ課が処理してるみたいだし」


「あの!」


 2人が声をかけられて振り返ると、司がお盆を持って立っていた。


「よろしければ、ご飯一緒にどうですか!!」


顔を赤くしながら、大きな声で尋ねる司を見て、2人は顔を見合せて微笑んだ。


「俺はいいよ」


「私も!一緒に食べよ」


2人の明るい表情を見て、司は顔を綻ばせた。


「ありがとうございます!」


* * *


 司も加わり、聖夜達は3人でテーブルに座った。聖夜と柊のお盆の上にはカレーライスが、司のお盆の上には生姜焼き定食が乗っている。


 聖夜は口に運んだカレーライスを飲み込んで、司の顔を見た。優しそうなタレ目が印象的なその顔立ちは、アビリティ課のような戦闘が日常となる職業と結びつかない。


「司はなんでアビ課に志願したんだ?」


 不思議に思った聖夜は、司に尋ねた。


「僕は、自分のアビリティが世の中のために役に立てば良いなと思って志願したんです。高校に進学するか迷ったけど、早く強くなりたくて……」


 司は、少し遠慮がちに答える。それを聞いた柊が、会話の中に入ってきた。


「じゃあ私達と同い年だね。ところで、何のアビリティ?」


「『カウンター』です。……相手の攻撃エネルギーを自分の体に溜めて、倍返しするんです」


「へー!格好いいね。ね、聖夜?」


「うん!すごく強そうだな」


「えへへ……ありがとうございます」


 司は照れ笑いした。頭のアホ毛も照れくさそうに揺れる。


「そういえば、2人はどういう関係で……」


 緊張がほぐれてきた司は、2人に対してずっと疑問だったことを尋ねた。戸惑いながら聞く司に、聖夜と柊は可笑しそうに笑う。


「そういえば、私は自己紹介してなかったね。宵月柊です。聖夜の双子の妹だよ」


「あんまり顔つきが似てないから、よく勘違いされるよな」


「私は勘弁して欲しいんだけどね~」


「えぇ……そんなこと言うなよ。傷つく……」


「はいはい」


 2人は双子で、おまけに仲が良いらしい。司は2人のやり取りに笑みを零し、更に尋ねた。


「2人はなんでアビリティ課に?」


「あ~……」


 聖夜と柊は、気まずそうに顔を見合わせた。


「話せば長くなるんだけど、俺達、両親が居なくてさ」


「え!?」


「お父さんは行方不明で、お母さんは病気で……」


「そ、そんな……ごめんなさい。変なこと聞いて……」


「いや、気にするなよ。俺らが勝手に話してるだけだし」


 申し訳なさそうな顔をする司を優しい笑顔で安心させつつ、聖夜は話を続けた。


「子どもの時に2人で料理しようとしたら火事を起こしちゃって、そこをアビ課の人に助け出されたんだ。その後、隣の家の人に引き取られて……それ以来アビ課に憧れててさ」


「亡くなったお母さんも、誰かのために頑張れる人になりなさいって言っていたから、アビ課に志願したの」


「そんなことが……」


「でも、それだけじゃないんだ」


「え?」


「こうして世の中のために働いて、有名になったらさ、父さんの耳に入るかもしれないだろ。そしたら、父さん安心してくれるだろうから」


「聖夜君……ぐすっ」


「え、司大丈夫か!?」


 司は涙を拭って首を振った。


「大丈夫です……!二人の話を聞いてたら涙が出てきて……」


『面接試験まであと5分です。試験を受ける方は準備して下さい』


 3人はアナウンスにはっとした。いつの間にか、そんな時間になっていたらしい。司は慌てて立ち上がると、2人に向かって勢いよく礼をした。


「聖夜君、柊さん、お昼一緒に食べてくれてありがとうございました!1人で上京してきて緊張してたけど、少し和らぎました!」


「同い年なんだから、そんなにかしこまらなくてもいいよ。な、柊?」


「うん。司君、一緒に頑張ろ!」


 2人の様子に、司は少し照れながら拳を突き出した。


「……一緒に頑張ろうね。聖夜、柊」


「おお……」


「や……やっぱり変かな!?」


 赤くなって慌てる司を見て、2人は笑った。


「うん。頑張ろうな、司」


「またね、司君」


「……うん!」


 聖夜と柊は司とグータッチして、食堂を後にした。

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