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0 最悪な世界の片隅で

 息を切らしながら、同じ軍に所属する幼なじみと一緒に、荒れた故郷を走っていた。


 一年中、花の香りがしていた故郷の村。しかし、今香るのは血の匂いだけ。

 長く続く戦争を終わらせるために結成された、中央政府の軍隊が、戦争に関わった僕達を消そうと追ってきている。


 逃げなくては。逃げて、この子と、逃げて……いつか、戦争のない世界で、この子と一緒に暮らすって、約束したんだ。


 だから、逃げなくちゃ……!


「×××!危ない!!」


 気がついたら、僕は彼女に押しのけられていた。


パァン!と言う音と共に彼女の体を銃弾が貫く。


「えっ……?な、なんで……なんで!!」


 傷口から血が止まらない。彼女を抱いた腕から、命がこぼれ落ちていく。


「嫌だ!死なないで!!死なないでよ……!!」


 ああ、戦争は最悪だ。ごく一部の人間達の、金と、名声と、資源の奪い合いが、何の罪もない人間の命を奪うのだから。


 アビリティはもっと最悪だ。一人一人に与えられた個性なんて言えば聞こえが良い。でも実際はどうだ。


 みんなアビリティを自分のためにしか使わない。挙げ句の果てには戦争の材料になった。


 こんな力、始めから無ければ良かったのかもしれない。


「あと一人居るぞ!撃て!」


 呪ってやる。消してやる。負の感情が溢れて止まらない。


「あ……ああああ!!」


 僕は彼女を横たえて立ち上がった。──刹那、僕の体から溢れた闇が、まるで剣のように鋭い形を作り兵士達を1人残らず貫いた。


 そして、誰も居なくなった故郷でただ1人、立ち尽くす。


 こんな世界なんて嫌いだ。こんな未来にした、過去が嫌いだ。指をくわえてみていた自分が嫌いだ。


 血の海ができた向日葵畑を見下ろして、ふと思い立った。


 なら、変えればいい。世界を、変えればいいんだ。


 僕は彼女の髪から向日葵の髪飾りをするりと取ると、自分の服のポケットに入れた。彼女のことは絶対に忘れない。彼女が生きた証を胸に刻み、僕は村の入り口に向かって歩き出した。


 変えるんだ。アビリティで悲しむ人がいない世界に。

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