青い魔力石
くっ……速い……!
ライムに言われた通り火花を追いかけているが、動きが読めないかつ、引火が速すぎる……!
私、ラズリスの本業は結界である。足の速さはそこそこでしかない。
しかし、体を張ってくれたライムからのお願いだ。そう簡単に諦めるわけにはいかない。
私は左手につけている魔力石のブレスレットを握った。
次の瞬間、手元にほうきが現れる。
私は風属性の魔法が苦手で、どうも上手く使えない。
そのうちの一つである"飛行"も例外ではない。
このほうきは魔道具の一つで"飛行"の術式が組み込んである。これは自分で唱えなくても飛べちゃうアイテムだ。
私はほうきにまたがると魔力を込めた。ほうきは宙に浮くとグンッと加速する。
よし!このスピードならついていける!
それにしても忘れてたなぁ……
ライムのこと心配してた自分がちょっとあほらしい。
ライムのお母さんはかつて近接最強とまでうたわれた警備隊員だ。
ライムはそのお母さんの子であり弟子であったのだ。
傷一つ付けずに助けるなんてそう簡単な事じゃない。でも本当にやってのけちゃったなぁ。
というか白狼じゃなくてただの犬だったなぁ……
そんなことを考えていると、人影が見えた。
「追いついた!」
それに手を伸ばした次の瞬間、どっかーんと言う大きな音と共に視界が白飛びした。
「ケホッ、ケホッ……」
目を開けると視界にはモヤがかかっていた。
というか、煙で前が全く見えなかった。
やっと煙が晴れたと思ったら、そこには誰も、何もいなかった。
「あちゃ〜、見失っちゃった」
……待った、私なにを、なんで追いかけてたんだっけ?
「はーあ、どんくらい離れたかな〜」
さっきの爆発の衝撃で左腕につけていた青いブレスレットが砕け散ってしまった。
ほうきはなぜか術式の書き込みがあったところが焦げて飛べなくなってしまい、お掃除用ほうき同然になってしまった。
飛ぶこともできず、トボトボ歩いてライムたちの元へ戻るのであった。
○●○
ライムは爆発音の後、ラズリスが心配になり、追いかけようとした。
しかし立ちくらみがひどいので大人しく帰りを待っていた。
「あ、そういえば、これ……」
僕は自分の魔導書を取り出して、リンさんに見せた。
「黒い魔導書……珍しいね」
魔導書って分かるのか……
黒い魔導書のことは学校でも習わないし、町の図書館の本のどれにも記述がなかったけど、黒い魔導書の存在は魔法を仕事にしている人の間では常識だったりするのかな。
そして僕は1ページ目を開く。
するとリンさんは目を丸くした。
「そういうことかぁ……!それ、あんまり人に見せない方がいいよ」
「え、なんで……?」
と、リンさんがイタズラな顔をした。
「命を狙われちゃうよ〜」
僕がびっくりして後ずさりするとリンさんはクスッと笑うと続けた。
「もちろん私は、コハクを助けてもらった借りもあるし、ライムくんの命を狙えるほどに強くない。ただ、命は狙われなくても、厄介ごとに巻き込まれる可能性があるから、気をつけてね」
にこやかにそう言うと思い出したようにパッと左腕の時計を見るリンさん。
「あっ!もうこんな時間!ごめん、関所が通れなくなるから帰るね!お礼がしたいので中央に来た時には、アンバー魔石店へお越しくださ〜い!」
そう言うとリンさんはコハクと一緒に走って行ってしまった。
もう日はすっかり落ちている。
△▼△
「ライムー!」
少し遠くから姉さんの声が聞こえた。
僕は自分で出した炎を頼りに小枝を集め、火を起こしておいた。
一年中過ごしやすい気候のキラハ周辺だが、季節的にも夜は冷える。
「姉さん!無事でよかったです……」
僕は苦笑いしながら言う。
姉さんは当たり前だ!と笑うとこう言った。
「ごめんね、人影までは見たんだけど、逃しちゃった」
「だいじょぶです!興味本位だったので」
「ところで、何に着火したの?」
僕は、夕飯の準備をしながらさっきのワンちゃんとのバトルで考えていたことを話した。
ちなみに魔力の糸に着火したのだが、多分あの糸の持ち主の魔力に引火して爆発を起こしてしまった。
まぁ多分、相手は人じゃないし、大丈夫だっただろうなぁ。
「……結論、あのワンちゃん、コハクは、吸血種に操られていたんだと思います」
「吸血種?」
この国では、街に出れば体感5人に1人、僕らとは違う見た目をした人がいる。ネコのような耳の人や馬みたいなしっぽがある人、羽根が生えている人など様々である。
彼らは魔族と呼ばれることがある人達だ。
魔界と呼ばれる場所にルーツがあるらしい。
そして彼らとは敵対して……
なんてことは無い。ヒトとの違いは見た目と、魔法を無詠唱で使えることくらいだ。
先程姉さんを襲ったのは、その魔族が魔力糸で操っていた犬。
やつはきっと魔族のなかで吸血種と呼ばれる者だろう。彼らは日光に弱く、決まって赤い目をしているらしい。
目が赤くなっていた時のコハクは、血に興味を示していた。かつ、日が落ちるまで木陰から出てこようとしなかった。
それにコハクに噛まれたとき、血の気が引く感覚があった。
多分この時に"吸血"を食らった。
「……そっか、魔族のね。ライムの言うことは筋が通ってる。ってかライム!あんたなんでそんなに魔力探知上手いの!?」
「もしかしなくても、姉さん、苦手ですよね?」
姉さんは図星といった顔をしている。
「……やっぱり。これは僕の勝手な考察なんですけど……」
僕は魔力が少ない。というかほとんどない。
そのためすぐに魔力に酔うのだが、良く言えば魔力に敏感ってことだ。
みんなの魔力が見えるとまではいかないけれどわかるし、大きさの違いもある程度の差があればわかる。
さっき姉さんとリンさんを比べたら、姉さんの方が圧倒的に魔力量が多かった。
姉さんが魔力探知を苦手とするのは自分の魔力が多いからだ。大体の人は姉さんより魔力量が少ないのだろう。だから姉さんは周囲の魔力の変化に気がつかない。
「……そういうことだったのか。ありがとライム。ちょっと鈍感すぎて気にしてたんだよね」
お役に立てたならよかった。
それはそうと……
「リンさん……あ、さっきの女の子。アンバー魔石店ってとこの娘さんらしいです。お礼がしたいので来てくれって言ってました」
「あぁ、あの店の子だったのか。今日はもう中央には戻れないし、今度行こうか。私も魔力石のブレスレットが壊れちゃったんだ」
あっけらかんと言った姉さん。
魔力石……あ、そういえば!
「姉さん、これ、ルコール先生からです。もしラズリスに会ったら渡せって言われたんですけど……」
僕はバッグにつけていた水色にほのかに光を発している石を姉さんに渡した。
いつだったか担任の先生にラズリスに渡せと頼まれたのだ。
あ、これ何年越しだ……?
姉さんは首を傾げながら受け取るとなるほど、と頷いた。
そしてぎゅっと石を握り込むと目を閉じた。
しばしそうしていた姉さんはゆっくり目を開けた。
「……ルコール先生、ライムはそんなもんじゃないよ」
そう呟いた姉さんはなんだか悲しい笑みを浮かべていた。
僕は何が起きたかは見当もつかなかったがなんとなく聞かないことにした。
そのあとはキラハを出る前に姉さんがこっそり買っていた食材でシチューを作って食べた。姉さんとずっと話していたのだが、気付くと朝になっていた。
いつの間にか寝ていたようだ。




