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第4話② ライムと白い犬

 ラズリスが襲われる少し前……


 魔法ってこんなに面白いのか!


 まぁ使えなくたってあんなに楽しかったんだ。使えちゃったらもう楽しいに決まってる!

 いつの間にか魔法に夢中になっていた。


 あの日から火の球を出したあの日から、僕はマギアータの図書館に通い詰めていた。


 魔導書を授かった日に来たことをきっかけに中央図書館まで足を伸ばすようになった。


 推理小説はオマケ。本命は魔術書だ。


 魔導書を授かるあの日だって、心の隅っこでは魔法が使えるようになる魔法をくれないかなぁなんて思っていた。

 でもそんなの叶わないとも思っていた。実際叶わなかったのだと思っていた。


 それでも、魔法の勉強はやめなかった。

 いや、やめられなかった。


 やっと、やっとだ。

 やっと、魔法が使えるようになった。



 今まで溜めこんだ魔法の知識を具現化させていく。

 ただそうしているだけで楽しすぎた。


 夢中になりすぎて、ラズリス姉さんの魔力が離れていってないことも、そこに近づく魔力があったことも大した問題ではなかった。



 ……いや嘘だ、大問題!

 

 我に帰った頃には姉さんのほっぺからは血がツーッと流れていた。


 

「姉さん!……って、犬?!」


 姉さんのほっぺを切り裂いたのは何やら様子のおかしい真っ白なワンちゃんだった。


 姉さんはふぅと大きく息をつくと右手をワンちゃんに向け、攻撃魔法を構えた。


「待って!」


 ……このワンちゃんの目、ルビーみたいにきれいな赤色だなぁ。


 そんなことよりこの子、心ここに在らずといった様子だ。

 それになんか、細い糸が首元とつながっているような。

 

 その糸に触れようするとすり抜けてしまった。なんだろうこれ。


 あ、もしかして……



 それにしても、この子、姉さんよりも僕が近くにいるのに姉さんしか見ていない。


 しかも森から出て来ようとしない。


 てことは……!



「姉さん」

 僕は姉さんの右手を掴みながら言った。

「ちょっと僕に任せてくれませんか」


 しばしの沈黙。ちょ、早くしないと。ずっと唸ってるよあの子!また襲いかかって来るかもよ!?


 ……あーもういい!



「……何も言わないってことはいいってことですね?」

「あ、ちょ、んまぁ、危なくなったら……」


「……ひとりで平気です」

 やばい、焦りすぎてめっちゃ自信あるやつみたいなこと言っちゃった……


 さっき気づいたことも不確定だし、あってても本当に作戦通り行くかわかんないのに……!


 でも!この作戦じゃ、姉さんのお助けは邪魔になる……だから!



「自信がある訳じゃないけど、作戦があるので!」

 僕は精いっぱい笑顔を取り繕って犬の方に向き直った。


 引きつってたよ?絶対!

 だって不安でしかないもん!



 足元に落ちていた太めの枝を拾ってわんちゃんの方へ歩いていく。


 が、未だわんちゃんは姉さんを見つめている。



 ……やっぱり当たりかも。


 って、姉さん泣いてる?


 あの魔導士様が怯えるほどの相手なのか……?


 まぁ、このワンちゃんを助けるためには僕がやるしかない。



 僕は覚悟を決めて左腕を前に出した。

 そして、魔法を唱える。


「|"風の刃"《リピーカ》!」


 ……いってぇ。


 自分の左腕目掛けて風の刃を放ったのだ。

 僕の腕から血がぽたぽた垂れている。


 姉さんたちは僕がまさか自傷したとは思っていないようだ。


 いつの間にかいた金髪の女の子は、僕がワンちゃんに攻撃されたんだと思ってかなり腰が引けている。


 いや、ワンチャン、僕が唐突に自傷したことに引いているのかもしれない。


 それはとりあえずいい。

 やっとワンちゃんが僕の方を向いてガルルルとうなりだした。


 予想は当たりのようだ。僕はそのまま立っていた。


 ……もう日が傾く頃だ。


 僕たちの周りに影が落ちる。

 するとワンちゃんは僕に向かって駆け出した。


「「危ない!」」

 姉さんと女の子の声が重なる。


 僕は前足での攻撃をかわして走る。


 出来ればこの枝を噛ませたい……


 が、なかなか思うようにいかない。



 傷つけないように戦うのって難しいんだな。

 防戦一方の僕に姉さんたちは不安げな顔をしている。



 ……パチン!


「うっ……!」

 とうとう枝をはじかれてしまった。

 僕だって鍛えてるのに、相当なパワーだ。


 ついでに僕も吹っ飛ばされ、尻もちをついてしまった。



「ライム!」

 姉さんが叫んだのと同時に犬が飛びかかってくる。

 咄嗟に左腕で防御したが、その腕に犬が噛み付いていた。


 噛む力が強すぎる……腕が折れそうだ。



 肘を伝って血が流れる。

 それに何かを吸われているような……



 いや待った、これは好機!


 僕は左腕を噛まれたまま右手を犬の首に回し、首元に書かれた術式を"書き換え"る。

 するとピンと張っていた魔力糸が宙に舞った。


 僕はついでにその糸に"着火"しておいた。


 数秒後、噛む力がふっと抜け、ワンちゃんはパタリと倒れた。


「コハク!」


 女の子が駆け寄ってくる。

 ワンちゃんは気を失っているだけで無事だ。


 それより!


「姉さん、"あの火花を追って"!」


 そこまで言って僕は地面にへたり込んだ。

 さっき、ワンちゃんに血を吸われた。一瞬だったのに、重い貧血のような症状が現れた。


「大丈夫ですか!?今治癒を……」


「だ、だいじょぶです。自分で……"治癒(パナーキア)"」


 便利だなぁ……魔法。これだけで傷が治っちゃうんだもんな。


 

 あ、これミスったな……

 自分でつけた方の傷は跡が残ってしまった。


「……あの!助けていただき、本当にありがとうございました」


 気付くとワンちゃん、いやコハクが目を覚ましていた。

 女の子と一緒にお辞儀している。

 かわいい。


「……いえいえ。攻撃しかけちゃってすいませんでした」


 あれ?コハクの目、きれいな黄色になってる……?


「そんなそんな!コハク、全く怪我してなくて、本当に感謝しかないです」

「よかったです。僕たちは大丈夫なんで気にしないでください!」

 とは言ったものの、姉さん大丈夫かな……


「あ、申し遅れました、私、リンって言います。中央の魔道具屋の娘です」

「魔道具屋……あ、僕、ライムです」


「そういえば、どうやって魔法を出したんですか?え、なんでって?あの、あなたから全く魔力を感じないので……」


 僕は苦笑いしながら答える。

「えっと、実は僕……」



 森を歩いている間、僕は姉さんに、こんなことを言われていた。


「魔法にかかわる仕事をしている人になら、その魔導書、見せていいよ。多分みんなびっくりするだろうけど、細かく話す手間が省けるから」


 リンさん、魔道具屋の娘ってことは見せていいってことだよね?


 僕が魔導書を取り出しかけたところで……



 どっかーん!と森の方から大きな爆発音がした。


 やばい、僕、やらかしてるかも……!

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