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少女

「ライムくん。この村、テンペアーを助けるって、約束してくれる?」

 青い瞳の少女は真っ直ぐこちらを見つめながら言った。


 俺は頷く。


 すると少女は起伏のない声でこう言った。

 

「"ムニミード"」


 その瞬間、目の前が眩しくなって反射的に目を瞑った。



 ○●○


「ジェリカ〜?先いくよ」

 なんだか聞き馴染みがあるような、そんな声がして目を開ける。


「は〜い」

 先程の少女の声が頭に響いた。

 目の前には、先程の少女が映る鏡がある。


 ……ん?俺の顔じゃない?


(これは私の記憶。よく見て行って)

 そう、声が聞こえた。

 となると少女はジェリカというのだろう。


 綺麗な銀髪を器用に1本に編み込むと、ネックレスを首からかけたジェリカは鼻歌を歌いながら家を出た。


 村の人たちは笑顔で彼女に話しかける。ジュースを持たせてくれたおばさんもいた。

 どこに向かってるんだろうか。


「ジェリカ〜、おはよ!」

 ジェリカと同年代であろう、黒いメガネをかけた女の子が話しかけてきた。

 ジェリカは挨拶を返すと一緒に歩き出した。


 

「どっちがたくさん拾えるか、勝負ね!」

 そう言って少女が走り出したのに、ジェリカも続いた。

 川辺に置いてあるカゴを持つとそのままの勢いで川に入っていく。


 ジェリカたちの他にもたくさんの村人がカゴを持って川に入っている。

 ジェリカは透明な石を拾うとカゴに入れた。川底そこらじゅうに透明な石が落ちている。


(この透明のは魔石だよ。ライムくんも身につけているよね。……お昼休憩まで飛ばすね)

 ジェリカの声がしたと思うと、太陽が一気に真上に登った。

 

「ユラ、いま何個?」

 サンドイッチを食べている少女にジェリカが聞く。


「32個!そっちは?」

「28個。負けた〜」


 この人たちは魔石拾いの仕事をしているらしい。

 ジェリカたちのやり取りを見てほっこりしていると、大人たちがザワザワしていることに気がついた。

 

「どうしたんですか?」

 ジェリカも気付いたようで近くにいた男性に話しかけた。


「ミレィが居ないんだ、見ていないかい?」

 ミレィって誰だろうか。とりあえず行方不明らしい。

 

「朝、うちに来て先に川に行くって……」

 聞き馴染みのある声の主がミレィだったようだ。

 しかし、誰の声だったろう。すごく誰かに似ていた……


 そんなことを考えていると、またジェリカの声が聞こえてきた。

(午後の仕事をした後もミレィは見つからなかったの。夜、心配になって川を渡ってひとりでこっそり森に入ったんだ)


 ジェリカが言うと空がさぁぁと流れ、太陽は沈み、月と星が浮かんでいた。


 ジェリカの手にはランタンが握られているが森の中は暗い上に足場が悪い。


「うわぁ!」

 左の方からあの声が聞こえてジェリカが走り出す。



「ミレィ!だいじょ……えっ?!」


「ぅあぁ!」

 少し開けた場所に出た。そこの中心に立っている人物がいる。


 苦しそうに呻いているその人は……


 

 ……俺?


「ミレィっ!」


 ミレィと呼ばれているその少年は足の先が宝石のようになっていた。

 それはどんどんと侵食していっている。


 ジェリカは彼に駆け寄り、魔法を唱えた。


 

 いくつも、いくつも唱えた。


 

 しかし、ミレィの結晶化は止まらない。見つけた時は足首程までだったが、ついに口元まで結晶化しようとしていた。



「……ミレィ?ねぇ……!」

 そう言うジェリカの視界は涙で歪んでいる。


 さっきまで苦しそうに呻いていたミレィだが、気力が絶えたからか、口が塞がったからか、声が聞こえなくなってしまった。


 その時、別の聞いたことのある声がした。


 ……あの魔族だ。

 そう気付いた時にはジェリカの魔法がヤツの心臓を貫いていた。


 ヤツは血を吐くと不気味に笑って言った。


「キミは……ジェリカだね?とぉってもいい威力だ。そこのミレィとか言うやつより適任だなぁ」

 その瞬間、心臓をぐっと掴まれたような感覚がして体が宙に浮いた。

 

「……お、お前は……クレイザ……?」

 ジェリカはかすれ声で言う。

 

「そうだよぉ、ジェリカ。キミは今からボクちんのプリンセスだ」

 語尾にハートでもついてそうだ。赤らんだ顔も相まって気色悪い。


「……るもんかっ……!」

「ん?」


「なるもんかぁ!"水槍(ドリィネ)"っ!」

 ジェリカが放った水の槍はやつに届かずに形を失い、地面を濡らした。

 

「元気のいい子だねぇ。"ジェリカ・ワールズ"。大人しくしてねぇ?」


 そう言われた瞬間、力強くやつに向けていた両手から力が抜け、視界にモヤがかかり始めた。


 本当に洗脳されるとこうなるんだなあ……


 そう、それでいいの、と言いながら近づいてきて、頭を撫でてくる魔族野郎。


 やつが指をパチンと鳴らすとジェリカが身につけていた着古されたワンピースが純白のドレスに変わった。


「さぁ、プリンセス。村のまんなかへ行こう。あなたはこの村の象徴になるんだ」


「…ハ……い、ゴ……しゅじ、ん様……っ!喜ンデ」


 村に帰ろうと後ろを向く前にジェリカの視界にかろうじて映ったのは、結晶化が解けて、こちらに手を伸ばすミレィだった。



 ○●○


「……はっ!」

「おかえり」

 ジェリカにそう言われる。

 

「あいつ、あの魔族の名前はクレイザ・メイト。名前を呼ぶと相手を洗脳できる魔法を使うの」


 俺も何度か名前を呼ばれたが、洗脳魔法の特性上、俺はかからない。


 なぜか?


 魔力の容量が常にパンパンだからだ。


 洗脳するための術式が書き込まれた魔力が相手から送られてきても体内に入らないか、魔力酔いの症状として、入ってもスルーで出ていくのだ。

 本来はペンダントで魔力を吸収しているが、無力化しているため無理やり入り込まれて魔力酔いした。


 うぅ、思い出すだけで吐き気がする……



 ジェリカは悲しげに、それでいて力強くこちらを見つめている。

「あいつは村のみんなを洗脳して好き勝手やってる……ライム、あいつを倒して」


「……わかった。俺たちはそのために来たんだし」

 俺が笑いかけると、ジェリカが続けた。

「それじゃあ……」


 もったいぶるジェリカ。



「どうし……」

 聞きかけたところで抱きしめられた。


 手のやり場に困っていると、ジェリカの俺を抱きしめる力がぎゅっと強くなった。

「うぅっ……うわ〜ん!」


 声を上げて泣きだしたジェリカに、俺は背中をさすることしか出来なかった。

 


 しばらくして、ジェリカは胸に顔をうずめたまま、時々しゃくりあげながら、ぽつりぽつりと話し出した。

「怖かったの……ずっと、ずうっとひとりだったの。村の人たちも旅人さんも洗脳されて……!それをひとりで見せられていたのっ……」


 俺がもし同い年で同じことを経験していたら狂っていたかもしれない。辛いの一言で片付けてはいけない事がこの村で起きたのだ。


 と、ジェリカは手を下ろし後ろに一歩下がった。

「ライムくんは、私の好きだった人に似てるの。良心につけこんでぎゅーするなんて……ずるいよね」

 目に涙を溜めたまま強がったように笑うその顔に、なんだか心臓が跳ねた気がした。



 と、ジェリカは後ろを向いて続けた。

「ここはキミの夢の中だよ、さぁ、起きて、キミの相棒のところに戻って……」


 彼女の言葉を最後まで聞けずに意識が遠のいた。

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