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対面

 ライムとトルビーが宿屋から出ると、2人の目の前に明らかに他の村人とは服装の違う人物がいた。



 僕はトルビーではなくシルバー・メレンだ。今はそういうことになっている。


 さて、この村の支配者が早速のお出ましだ。

 

「旅人さん。遠路はるばるいらっしゃぁい」

 クセのある口調だ。


 貴族のような豪勢な服や靴には魔石であろう装飾がくどいほど付いている。

 ついでに頭についている羊のように丸まった2本の大きなツノも、見た目にうるささを足している。


 こいつは魔界で政治家をしてるメイト家の次男だったはず。

 ただフルネームが分からない。とりあえずメイトと呼ぼう。


 真面目にちゃんと仕事をしてるこいつの母親には悪いけどね。


 

「歓迎、ありがとうございます」

 ライムはそう言うと隠し持っていたナイフでメイトに切りかかった。

 

「……っ?!」

 しかし軽く防がれ、ライムは驚いた顔をしたが、そのまま連続で攻撃を仕掛けている。


 ライムの攻撃を傷をひとつも作ることなく軽くあしらいながらメイトが言う。

「そうだねぇ、ボクちんはキミ達を歓迎しているよぉ。だってふたりとも、カワイイからっ」


「気持ちわるっ……"(リゴロス)"!」

 ルコール先生仕込みのライムの速攻は、メイトの腕に一筋の傷を作ったが・すぐに再生された。


「……チッ」

 舌打ちして僕の横まで飛び退いてきたライム。

 また走り出そうと低く構え、走り出したところでメイトが口を開いた。


「ライム・スフェン」

 まるで愛しい人を呼ぶような声色で噛み締めるように言うメイト。

 本当に気色悪いな。

 

 それと同時にライムが足を止め、ナイフを落とした。そして口を強く抑えながらその場にしゃがみ込んだ。


「うっ……おぇっ!」

「ライム?!大丈夫?!」

 ここまでは想定内だが心配したフリをしておく。

 まぁ実際吐いているわけだから心配だが。


 ライムはキラキラした粒状のものを吐いている。


 これは魔素だ。物質化した魔力と言える。ちなみに甘い。

 魔素を吐くというのは、重度の魔力酔いに見られる症状だ。


 僕がライムに近寄ろうとするとメイトの魔法に阻まれた。


 ……くっ、指先1つ動かせない。

 やはり、正面突破で挑まなくて正解だった。こいつは強い。



「魔力込めすぎたかなぁ……」

 メイトはあごに手を当てて不思議そうに首を傾げながら言うと、ライムが落としたナイフを拾って続けた。

 

「立てる?ライムちゃん」

 まだ湿っぽい咳をしているライムは立ち上がった。


「……」

「何か言ったかい?」

 メイトが妙に優しい、捉えようによっては気持ち悪い声で言った。


「……イえ、ゴ主人サマ」

 起伏なく答えたライムはメイトの方へ歩いていく。


 ……前も思ったけどやっぱり、演技上手いな。


「あっれれ〜?もうボクちんのこと、ご主人だと思ってくれてるの〜?従順でいいコだねぇ」

 語尾にハートでもついていそうな言い方をするとメイトは続けた。 

「このコはもらっていくねぇ」


 と、メイトが急に駆け寄ってきて僕の顎を人差し指でクイッと上げた。

「もしかしてキミ、吸血種のコ??」

「……」


 黙っていると、メイトは踵を返した。

「自分から言う気は無いんだね?ならライムちゃんに教えてもらわなきゃ!」


 そしてライムの頭を撫でると続けた。

「だぁかぁらっ、行こうね?ライムちゃん!」

 メイトはいい終えると、楽しげに歩いていった。


 ライムはそれに続いた。


 数歩歩くと、立ち止まってこちらを振り返ったライム。

 その目は赤く、こちらを強く睨んでいた。



 △▼△



 さぁて、予定通りに取り残された訳だがまずい事になってるかもしれない。


 この村、テンペアーの住人はみな一様に赤色の目をしている。

 ただ、これはこの村の人達の特徴ではなく、メイトの洗脳による反応と推測できる。


 さっき見た通り、ライムの目も村の人々と同じように赤色に染まっていた。ライムには、洗脳や使役系の魔法にある理由で耐性があると予想していたのだが、外れたのかもしれない。

 演技ではなく、本当に洗脳された可能性があるのだ。


「だとしても、僕は僕の仕事をしないと」

 ライムはきっと大丈夫ということにして次のステップに進むことにした。



 ◆◇◆


 

「紅茶を淹れてくれるかい?」

「ハイ、ヨろこンで」

 

 はぁ、作戦って上手くいかないもんだよな。とりあえずこいつに洗脳された演技は続けよう。

 

 シルは血液から様々な情報を得る魔法が得意らしい。俺の役目はこの魔族野郎の血液の採取だった。

 当初の予定では洗脳魔法をかけられた後、まだ意識が残っているふりをしてもう一度切りかかったタイミングでヤツの血を採る手筈だった。

 

 しかし魔力酔いによる吐き気で思った以上に体力を奪われたこと、頭が働かなくなったことで実行できなかった。


 1度ナイフで傷を負わせたため、それに付いた血を渡せばと思ったが、残念ながらやつが俺の目の前でそのナイフを磨いている。



 俺が紅茶を淹れるとやつはありがとうと言って続けた。

「それにしてもライムちゃん。キミとっても可愛いねぇ」

「……」

 おっと、反射的に一瞬睨んでしまった。

 作戦がおじゃんになるのはさすがにまずいので今は感情を殺しておく。


 と、ヤツは意に介さずに続けた。

「ライムちゃん、キミは魔力酔いってのが酷いタイプみたいだねぇ。ボクの"調教(ハンドラー)"はそんなに魔力使わないのに酔っちゃって。ねぇ、もっかい名前呼んでい〜い?」

 いいと言ってもダメと言っても俺に不利益が出そうだが……



「……ライム・スフェン」

 そう言われた瞬間目の前がぐるぐるして座り込んでしまった。


 やばい、ぼーっとする……気持ち悪い。

「魔力酔いってぼーっとするんだ……初めて知ったぁ」


 そう言いながら俺のそばに来て頭を撫で始めた。

 

 こいつ、なんなんだ?あんまり頭揺らされるとまた吐いちゃうってば。


「へぇ……?洗脳されてても心の中はこんなに自由なんだ、これもはじめて知ったぁ」


 さっき俺が吐いたあの液体。 

 シルによると、物質化した魔力らしい。


 というかさっきから、吐き気が治まるどころか強くなっている。 

 あ、こいつ、もしかしてずっと"送魔"してる?うわぁ、心理的にも気持ち悪い。



「シル、じゃなくてフルネームを考えてくれないかなぁ……あと、ボクのことは「こいつ」じゃなくてご主人様って呼ぶんだぁよ?ラ・イ・ム」

 語尾にハートが付いたような話し方しやがって……!

 

 ……ってあれ?俺心読まれてる?


「ぅあっ!」 

 強く頭を打ったような激痛が走り、俺はずっと曖昧だった意識を手放した。



 △▼△


「……ムくん、ライムくん!」

「はっ!」

 目が覚めたみたいだねと話しかけてきたのはサファイヤのような透き通った青い瞳の少女だった。

 年は7、8才と言ったところだろうか。

 

 起き上がると桃色の布団が目に入った。

 辺りを見回すと、ここはパステルピンクで統一された部屋の中だった。この少女の部屋なのかもしれない。


「平気?たくさん吐いてたみたいだけど……」

 少女は透明な液体の入ったコップを差し出してきた。

 果たして安全な飲み物なのかと一瞬疑ったが、吐いた覚えは無いのにほの甘い、口の中の不快感に負けてそれを含んだ。


「ライムくんに伝えなきゃいけないことがあるの。聞いて、あいつの事だよ」

「でも話してることがバレたら……」

「ここ、音が外に漏れないの。だから安心して」

 そう言うと見た目の割に大人っぽい口調で少女は語り出した。

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