第4話① ラズリスと白狼
「"フォーガ"!」
僕がそう唱えると手のひらサイズの火の玉が現れた。
「わぁ〜!」
あの授業の時、僕は自分が炎を出したのはみていなかった。先生が、みんなが、優しい嘘をついてくれたのだと思っていた。
それを裏付けるように、あの実技の後、先生や友達がいくらアドバイスをくれても、魔法を出せたことは無かった。
なのに……
本当に、本当に魔法を出せたのだ。
僕はしばらく、右手の上で小さくゆらめいている炎を見つめていた。
「いや、どんだけ長持ちなの?!」
ラズリス姉さんが急に大きな声を出した。
僕はびっくりして術式を解いてしまった。
「え?2回目なんでしょ?」
「へ?」
僕が困惑していると姉さんは咳払いしてこう言った。
「……と言うかやっぱり、あんたの個性魔法は「かきかえ」だったね!ちょっと遊んでなよ。今日中にはあっちに着きそうにないから今日はこの辺で休も」
「やっぱり無謀だったんじゃないですか!」
姉さんは手を合わせて続ける。
「ごめんって。まあいいじゃん、魔法使えること分かったんだからさぁ」
そう言いながら姉さんは森の中へ入っていってしまった。
「……2年越しで野宿かよぉ」
僕はそう独りごちたが、内心、魔法を使えたことが嬉しくてうずうずしていた。
「ライム、想像を片足ジャンプで超えてきやがった」
私、ラズリスはライムを1人にしてみたかったのだ。
まず、初授業で魔法を使えてしまう子はそういない。早い子でも実技授業4、5回はかかる。
それにあの学校の教育方針が変わっていないのなら、初めは手本を見せられて「はい、やってみて」という超投げやりスタイルのはずだ。
それだけで本当に魔法を発現させたならとんでもない才能の持ち主だ。
こんなことを考えている間にも、ライムは楽しそうにいろいろな魔法を出している。
さっきなんか花吹雪を舞わせていた。しかも7色の。
一体どこでそんな術式覚えたんだか……
……ふっ、あの笑顔、リエルによく似てるなぁ。
懐かしいなぁ。
私は初めての実技授業で学校の中庭を水でいっぱいにした。
その時たまたま教室にいた男の子と目があった。
後でわかったことだが、その人がライムのお兄ちゃんのリエルだった。
あの時、あの状況で、リエルは目を輝かせていた。
やった本人が言うのもなんだが、変わってると思った。
だって先生たちすら慌てていたって言うのにただ1人、目を輝かせてこっちを見つめていたのだ。
そう考えたら、その後一緒に仕事をすることになるのも当たり前だったのかもなぁ……
「……ん?!」
思い出に浸っていると突然背後から強い魔力を感じた。
ハッと振り返ると真っ白な狼が前足を振りかぶっていた。
ギリギリのところで後ろに飛び退いたが爪がほっぺにかすり、血がツーッと流れた。
「姉さん?!……って、犬?!」
ライムがこっちを向いてそう言った。
観察していたのがバレたっぽいが仕方ない。
初心者の魔法に気を取られて命を落とす魔導士なんてカッコ悪すぎる。
……まぁ危ないとこだったけど。
とにかく、奇襲じゃなければこっちの方が強い!
私は白狼に手のひらを向け、攻撃魔法を構える。
「「待って!」」
驚いて構えを解いて振り向くと、ライムともう1人、息を切らした女の子がいた。
「……そ、その子、私の家族なんです……っ!」
家族なら何だって人を襲うんだ。
しかもプライドの高い白狼を手懐けた?そんなんあの子にできるかよ……
ライムはライムで、何もないところに手をかざして首を傾げてるし!
そんなに近づいたら危ないんじゃ……
「今さっき……急にこの子の、目の色が変わって、気づいた時には見失っていたんです……!」
どういうことだ?使役魔法か……?
「とりあえず、襲ってきたのはそっちだ。あんたが大人しくさせられないならこっちが深傷を負うことになる。悪いけど……」
「姉さん」
ライムは私の言葉に被せるようにそう言っていつの間にか私の右手を掴んでいた。
「ちょっと僕に任せてくれませんか」
うわー、どうしよう。
さっきライムの魔法がすごいことはわかったけど、さっき使い始めたばっかの魔法を魔獣相手にしてちゃんと使えるだろうか。
「……何も言わないってことはいいってことですね?」
「あ、ちょ、んまぁ、危なくなったら……」
「……ひとりで平気です」
……え?こんな短時間であんな自信芽生えるか?浮かれちゃってる?
これ死亡フラグだよ……
どうしよう、リエルに顔向けできんぞ。
とりあえず危なくなったら……!
「自信がある訳じゃないけど、作戦があるので!」
そういうとライムはニコッと笑って白狼に向き直った。
あぁ、君はやっぱり、あの人の弟なんだね……
ラズリスの頬には一筋の涙が流れていた。