水晶
「そういえば……」
警備隊本部へ向かう途中、先生が口を開いた。
「こんな時でなんだけど、ガイチョウ通ったから明日から課外ね」
ガイチョウとは校外調査許可の略称だ。
良かった、無事通ったようだ。第一関門突破だな。
と、テケン先生が足を止めた。
目の前には城のような建物。荘厳な雰囲気に固唾を飲んだ。
「ここが……ブライア警備隊本部」
「いや、そっちは王城跡地ね。こっち」
テケン先生に否定される。
あ、やっぱお城だった。こっちの建物ね。ひと安心ひと安心。
ということで俺はテケン先生に連れられ、警備局に来た。
先生に続いて建物に入る。受付の警備局員と先生が話している。対応待ちなのか、いくらか人が局内にいる。俺は法を犯したらしいのでなんだか肩身が狭い。
「お前、犯罪者だな」
唐突に後ろからそう声がしたと思うと、いつの間にか手足が魔法で縛られていた。
「あぁ!こらルベラ!その人は自首しに来たんだよっ」
受付にいる警備隊員が言う。
「ほぅら犯罪者じゃない」
声の主を見やるとラズベリー色の瞳と目が合った。
「ってキミ、ライム?!」
女の子、もといルベラがそう言うと手足の拘束がぎゅっと強くなった。
いてて……
「そう、ですけど……」
「学校でチョット人気者だからって調子に乗らないことね」
食い気味にそう言ったと思ったらぷいっとそっぽを向くルベラ。
人気者?調子に乗る?
お相手は俺のことを知っているようだがこちらは存じ上げない……ので聞くことにした。
「申し訳ないんだけど……キミは?」
「……ルベラ。ルベラ・ミワよ。ワタクシをご存知ない。はぁ……キミもまだまだね」
お嬢様のような話し方だが、甲冑を着ていていかにも警備隊員といった格好だ。長い金髪を高い位置で一つにまとめている。つやつやの髪や振る舞いから本当にいい所の出であろうと推測できる。
「このルベラ・ミワ!キミが中魔校イチの魔法使いだとしても、大海の果てまで追いかけて、牢にぶち込んでくれるわ!」
そう言って指をさしてくるルベラ。
「いやだから自首しに来たんだって」
「このルベラさまに口答え?!はぁ、いい度胸ねライム・スフェン!」
そう言って今度は剣の切っ先を向けてきた。
ルベラはかなりちまっとしていて……つまり小柄で、喋らなければマスコット的に可愛い。ただしそれは喋らなければの話だ。
割と温和な自負がある俺だが、流石にイライラしてきた。
と、ルベラが怪訝そうな顔をした。
「第一そんな可愛い顔で……」
「あ?可愛いって言ったなぁ?」
後で聞いた話だが、俺がそう言った瞬間、ルベラと、受付から俺たちを見ていた局員が萎縮したようだ。
目が怖かったよと、テケン先生に付け足された。いやいや、地雷を踏み抜いたルベラが悪い。
話を戻して。
どうしてくれようか。いやでもここ警備隊本部だし……第一手足拘束されてるしなぁ、などと思っていると、テケン先生が仲裁に入った。
「はいはい、ふたりともそこまで。成績下げちゃうぞ〜」
ルベラはやっと受付にいたのが先生だと気づいたようで、さささっと剣をしまい、敬礼した。それに伴ってか俺の手足の拘束が解けた。
「すみません。それだけは……」
そう言って頭を下げるルベラにテケン先生は「はいはい」と言って笑った。
「ライムも、ほどほどにね」
「すいません……」
先生に言われ少し居心地が悪くなって、ルベラたちから目線をそらした。
と、先生は咳払いをひとつすると、ルベラを手のひらを向けた。
「彼女は中央魔法学校の高3生、生徒会長で、警備隊員……」
「最・年・少・の!警備隊副長ですっ!」
ルベラが食い気味に言い直した。先生は終始苦笑いだ。
ルベラはそのままの勢いで続ける。
「ライム。編入早々、魔法科の定期テストで学年1位だったそうね。しかし見たところキミは犯罪者。これは編入許可はく奪でも優しい処罰ね」
ルベラの発言に呆気にとられていると、受付の男性が呆れたように言った。
「……はぁ、ごめんね?彼女、ちょっと変わってて。マギアータの子だよね。ちょっと待ってね、今試験用の水晶持ってくるから」
(ルベラに……いや待て、先輩なのか。ルベラさん……んーいや、やっぱこいつをさん付けしたくない!)
ルベラにあーだこーだと言われながら受付の局員を待った。
△▼△
「じゃあこれに手を置いて」
俺は机に置かれた水晶に、言われるがまま手を添えた。
……なんだかいやな予感がする。
「あの〜、割っちゃいそうなんですけど」
俺がそう言うと男性は少し驚きながら割っていいよと答えた。
そのまま手を添えていると水晶はバリン!と大きな音を立てて粉々に砕けてしまった。
やっぱりか……
アンバー魔石店で魔倍石を割ってしまった時と同じような感覚がしたのだ。
「あちゃちゃ……不合格かな」
そう言って水晶の破片を小ぼうきで集めだした。
え、割っていいんじゃなかったの?
俺が困惑している間に彼は水晶の残骸を袋に詰め終えたようだ。
「10級に満たないとなると本格的に君は犯罪者ってことに……」
「1級用の水晶を持ってきなさい!」
受付の彼の話に割って入ったのはルベラだ。ルベラは不服そうな彼を押し切り、また水晶を用意させた。
「さぁ、手を置きなさい」
ルベラに言われるまま再度水晶に手を置く。
すると水晶は緑の光を発した。
「……ふむふむ、仕方ない。合格だね。じゃあ術式を……あれ、手元に2級用の術式表がないな。少々お待ちを」
そう言うと彼は水晶を持ち上げた。
すると砂をまいたような音を立てて、砕けて水晶球の欠片が地面に落ちた。
はっ!俺また割ったのか……?!
彼は困惑顔で顎を撫でた。
「うーん、水晶球、劣化してるのかな……とりあえず手続きしよう。待っててね」
そう言うと欠片はそのままにして奥へ行った。
ルベラが局員を目で追いながら何か言い始めた。
「(2級用の水晶を持ってきた?あいつ……ワタクシの事舐めてやがるのね。絶対……そんなもんじゃないのに!この通りまた割れてるしっ!)」
しかし周りにいた人たちがざわざわしていて何を言っているかまでは分からなかった。
と、先生が俺の肩にぽんと手を置いた。
「2回目割れたのはライムのせいじゃないっぽいね。いやー、よく割らなかったよライム。割ったら不合格なんだよ。意地悪だよね〜、条件も言わずにさ」
いや割っちゃダメなんかい!
……って、もしかしてルベラ、助けてくれたのかな。
「……ありがとう?」
俺がルベラに言うと、なんのこと?とそっぽを向かれた。
……案外嫌な人じゃないのかもしれない。
△▼△
「じゃあ手続きはおしまいね」
そう、隊員に言われ警備局を後にした。
検定で2級を貰えたことも嬉しいが、なにより「魔法使用法」違反を取り消しにしてもらえて助かった。
「……なんで着いてくるの?」
一定間隔をあけて、ルベラが着いてきていた。まるで尾行されているようだ。
「き、キミがまた魔法を使わないか見てるのよ!」
「今度は使っても捕まらないでしょうが!」
つい釣られてテンションが上がる。
「ワタクシが助けてあげたからでしょうがっ!だいたいねぇ……」
学校に着くまでずぅっとぐちぐち言われた。ほとんど感謝しろという内容だったが、少しだけタメになったこともある。
ルベラのおかげで魔法能力検定、通称魔検を取ることができたのだが、これは10から1級まである。
ちなみに俺は2級だ。あと1つ上が1級でそれ以上と認められたものが特級魔法使い、俗に言う魔導師だ。
そう、ラズリス姉さんはこの魔導師である。
ちなみにあの試験用水晶は特殊で、魔法の実力が満たないと砕ける。初めに渡された水晶は最低位10級用。次のは2級用だった。
……あれ?10級は割って2級は割らなかったのなんでだ?
というかあの水晶、どういう原理で能力を測っているんだ?
△▼△
「おかえり〜、散々だったね」
トルビーのその声でふと現実に戻ってきた。
中魔校でテケン先生と別れたあと、姉さんから"念話"で会議終了の報告を受け、真っ直ぐ寮に戻ったのだ。
「ただいま〜、ホントだよ……!」
ルベラの愚痴を言いながら、トルビーと食堂へ向かった。




