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人工魔力

 扉の方からトン、キィと音がした。


 そして……

「ぶちょー!人工魔力が盗まれてるです!」

 そう、舌っ足らずな声が響いた。


 トッ、トッ、と不思議な足音がしたと思えば、茶色のぶち模様のあるうさぎが会議室の机に乗っていた。


 あぁ、魔界対策本部の扉にペットドアがついてるのはイニーさんのためだったのか、なるほど。

 

 ……って

「「イニーさん?!」」

 俺とトルビーの声が重なる。

 

「おぉ、やっぱりライムとトルっちですね?ってぇ、そんなこと言ってる場合じゃないです!」


「人工魔力が盗まれたとな?」

 本部長が問う。


 こちらを向いていたイニーさんが本部長の方を見て答えた。 

「です!再現度99.8%の、今のところ最高値の魔力が無くなってたです」


「まぁ、また作ればええやん」

 あっけらかんとそう言ったグルセルにイニーさんは食い気味に返す。


「グルっちが酔ってる時に適当にいじって作った魔力だから再現性皆無なんです!」

 酔ってる時って……グルセル、成人済みだったんだ?若見えするなぁ。


「いや、ワイそんな事したん?!」

「ほぅら本人でさえ覚えてないですっ!」


 グルセル、どこまでもお騒がせな人なんだな……てかイニーさん、グルセルのことグルっちって呼んでるんだ。かわいいな。


 と、イニーさんは咳払いして続ける。

「まぁ研究所のみんなが優秀だから研究は順調。だからそっちはあんまり問題じゃないです」

「何がダメなの?」

 イオラさんが聞く。


「……代わりに、リエルの魔力が置いてあったです」


「……え?」

 俺は思わず声が漏れた。兄ちゃんの魔力……?


「魔界はここよりも数十倍魔力濃度が濃いです。だから対策無しでヒト族が行くと酷い魔力酔いを起こすです。最悪死に至るほどの……。それを防ぐ為に、リエルは、たぶん……それを飲んで……」

「まじでっ?!」

 反応したのはトルビーだった。


 コンコンコンと、トルビーの言葉を遮るように、扉を3回ノックする音がした。

 本部長が入るように促すと扉がガチャりと開いた。


「皆さんお疲れ様です。イニーさん、それは無いから大丈夫です」

 そう言って入ってきたのはラズリス姉さんだった。


「どうして確信があるです?」

 姉さんは食い気味にそう言ったイニーさんをまぁまぁ、となだめると説明を始めた。


「研究員の1人がその魔力が入った瓶を割ったと報告してきました。彼女はイニーさんとリエルが、魔力の類似性について話しているのを聞いたことがあるらしく、割ったことがバレないようにリエルの魔力を瓶詰めして置いといたらしいです。あと、リエルは特殊体質だから魔力酔いしないって、イニーさん自分で本人に言ってましたよね?」


 イニーさんは後ろ足で立っていた体勢からごめん寝のようになって言った。

「そうだった……うわぁ、ほんとにやられたです。リエルの魔力はボクでも間違えるほど魔族のものと似てるです。そんなことされたら研究員の皆さんには到底わからんです」


「よく気付いたな、イニー」

 本部長が感心したように言う。

「たまたま、ほんとにたまたま、ライムと契約したから今日、通りすがりにリエルの魔力を感じ取れたんです」


「俺ですか?」

「そうです。リエルとライムは魔力が似てるです。契約したらリエルの魔力の特徴が何となくわかったです。でもなんでそんなに似てるんですかね……」

 俺をまじまじと見ながら不思議がるイニーさん。


 俺が口を開きかけると、トルビーが親指の先を向けてきた。

「あの〜、こいつ一応そのリエルさんの弟なんで……」


 イニーさんは顔を上げて目を丸くした。

「知らなかったですっ!兄弟揃って魔対メンバーなんです?すごいですねぇ……!」



「その研究員はどうした?」

 本部長がそう言うと、なんだか急に空気が重くなった。


「それが……」

 姉さんは白い封筒を取りだし、本部長に渡した。


 

 封筒には「退職願」と、そう書かれていた。


「昨日報告を受けた時にはすでに研究機関の人事部が受理していたようで、その後の動向は……」

 姉さんは首を横に振って続ける。


「3年間、魔力のビンを割ったことを誰にも話さなかったらしいです。だから誰も気づいてない……」

 その言葉にイニーさんがあぁー!と声を上げた。


「……だからか、だからです!グルっちが作った魔力を参考にしても再現率があがらなかったんです!3年前からリエルの魔力だったなら、その頃から急に伸び率が低迷したこともうなずけるです」

 なんだか専門的な話になってきてよく分からないが……


「ライム、トルビー。校外調査許可が降りたらその研究員の捜索も頼む。後で詳細を送る」

 本部長にそう言われた。もう退職されちゃったんだから、3年前の過失は咎めてもしょうがないのでは……?


「なに、長いこと研究に従事してくれた人だから、お礼を渡そうと思ってね」

「そういう事ですか。わかりました」



「てかアレやな、リエル以外のメンツは揃ったんとちゃう?久々やなぁ」

 グルセルがなんとなく重かった空気を断ち切った。


「あんただろ、いつもいないの」

 そうイオラさんがツッこみ、さっきまでのほんわか〜な空気が戻ってきた。


「さぁて、会議を……」

「あ、すいません、ちょっと……」

 本部長の言葉を姉さんが遮る。


「……はい、えっ?!はぁ……わ、かりました……すぐ行かせます。はい……」

 姉さんは"念話"で誰かと話しているようだ。



「……はい、失礼します」

 姉さんはそう言うと、俺の方を向き、間髪入れずに呆れた声色で、あんた、何してんの……と言った。


「え、なんの事ですか?」

「呼び出し。しかも警備隊から!」


 えぇぇ??なんでだ?


「いや、俺盗みも殺しもやってない……」

「やってるやつみたいなこと言うなやっ!」

 グルセルからツッコミが飛んでくる。


「まぁとりあえず、学校でテケン先生に会って」

「……はい」



 ということで中央魔法学校へ戻った。


 トルビーが着いて来てくれようとしたが、イニーさんと本部長、グルセルに止められていた。つまり1人である。



 あーあ、怒られるのかなぁ……

 いや、捕まる……?!どうしよう、心当たりが無さすぎる。



 俺は不安を抱えたまま職員室の扉をノックした。


「失礼します。1年B組のライム・スフェンです。テケン先生いらっしゃいますか」

 俺の問いかけにテケン先生が作業の手を止めてこちらを向いた。

「あぁ、ライム」

 先生は苦い顔をしている。



 廊下に出てくるや否や先生は頭を下げた。

「……申し訳ない!」

 へ……?

「完全にこちらの不手際だ……すまない」 

「あちょ……何がです……?」


 先生は頭を上げて続ける。

「街中での"飛行"は魔検がいるんだよ」

「マケン?」

 俺が首を傾げると先生が続けた。


「あぁ。魔法能力検定の5級を持ってないとだめなんだ。ライム、今日街中で"飛行"使わなかったか?」

 そういえばトルビーに急かされ中央図書館に向かった時……


 ────


 あ、飛んだ方が速いな。

「"飛行(フィーダ)"」

 そう唱えて中央図書館を目指した。


 ────


「使いました……」

「それを見つかったみたいだ。ブライヤ警備隊にな」

 そう言って頭を抱える先生。

 

「要するに俺、法……犯しちゃったんですよね?」

「あ、まぁそういうこと……今から警備隊本部に向かう。今回はちゃんと事情を話せばお咎めなしだと思う」

 ついでに免許取ってこようと言って先生は歩き出す。

 

 とりあえず、捕まりはしないようだ。一安心だな。俺は先生について歩き出した。

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