談笑
「2人とも、ストーップ!」
イオラさんがそう言うと同時にある意味衝撃的な光景が目に飛び込んできた。
「そうなんだよね……後は割とこっちの木材の方が杖にするのにはちょうど良くて……」
「へぇ、意外やな。クリスタルはやっぱ魔界のやつの方が親和性が高いん?」
トルビーとグルセルは切り株に腰かけて、なにやら談笑していた。
「「へ……?」」
困惑のあまり声が漏れる俺とイオラさん。
「あ〜イオラ。わざわざすまんな……そんで?」
また談笑に戻るグルセル。
2人の様子を見るに、トルビーはさっき負った怪我以外には増えていないようで、額から流れていた血も綺麗になっている。
グルセルに至ってはピンピンしている。
「いや、なん……」
「なんのために来たと思ってんのっ!」
ツッコミを入れようとした俺の声をかき消してイオラさんが言う。
「これにはふかぁいワケが……」
「「ねぇ〜」」
声を揃える2人に余計腹が立つが、そんなことよりイオラさん?
「心配して……損したぁぁっ!!」
イオラさんは右腕をトルビーたちに向けた。
すると、ごおぉ、という音と共に大量の水がグルセルたちを襲った。
「……ヘックショぃ!」
くしゃみをするグルセル。
ふとイオラさんの方を見るとだいぶ怒った顔をしていた。
「……バカ」
そう言ってぷいっとそっぽを向いた。
グルセルはそんなイオラさんに「ごめんなぁ」と言いながらびしょびしょの前髪をかきあげた。
「……あの〜、一応傷害事件っすよ?」
一緒に大量の水を被ったトルビーが言う。
頭を振り、水しぶきを飛ばすと額に手を触れた。
すると血が流れた。
「"治癒"したんじゃなかったの?」
俺が聞くとトルビーはイタズラに笑った。
「いや?訴えようと思って止血だけしたんだ」
「え待ってや、ワイらもうダチやろ?許してや?な?」
そう言ってトルビーの額の傷に手を当てるグルセルに答えたのはイオラさんだった。
「許さなくていい!トルビーくんもライムくんも魔対のメンバーだから!あんたが会議に来ないから共有できなかった!」
イオラさん、ついに感情マシマシだ。めちゃくちゃ怒ってる……
「……そうやったん?!てっきり茶髪くんを手懐けてなんか企んでるんかと思ったわ」
茶髪くん?俺のことか?
グルセルはすまんなぁとトルビーに謝りながら手を離した。
「まぁいいけど……」
曖昧に答えたトルビーの額の傷は癒えていた。
「というか2人は魔対メンバーなんか……はっ!もしかしてトルビー、代わりの魔具職人なんか?ワイ、ほんまに解雇なんか……?」
トルビーの肩を持ち、ゆさゆさと揺する。
トルビーはされるがままだ。
「違う!」
そのイオラさんの言葉にグルセルはポカンとした顔を見せた。
「魔対メンバーなんやったら"アレ"、見してくれたらよかったのに」
「「……"アレ"?」」
グルセルが右手を出すと、手のひらの上に学生証のようなものが現れた。
"魔界対策本部 グルセル・マドゥ"
などと書いてあり、顔写真がついていた。
「持ってるやろ?魔対メンバー証」
「なにそれ」
トルビーが聞く。
それにイタズラっぽく笑いながらグルセルが答えた。
「あ、もしかして渡されてへんの……?」
ふとイオラさんの方を見るとバツの悪そうな顔をしていた。
「ごめん、ほんとごめん……0.1%くらい私が悪いね……」
「いーや5割はイオラのせいや」
「あ・の・ねぇ!あんたが会議来てればこんなことぜっっったい無かったの!だいたい……」
なんだか漫才を見ているようだ。
あ、そういえば……
「グルセルさんって西の方の出身なんですか?」
グルセルの話し方は、マギアータの学校にいた、西方から来たという先生の話し方に似ている。
「お、せやで〜、やっぱ方言わかりやすいやんな?」
「さっきは標準語でしたよね?」
「この方言やと砕けた雰囲気になるかなぁ思てな。真面目に行こうかなぁと……」
「圧をかけたつもりは無いらしいよ?」
トルビーが言う。ということはトルビーも圧を感じていたんだろう。
「すまんなぁ、標準語なかなか慣れんくて……ちと怖かったか?」
ちょっと……いやだいぶ高圧的だった。
「あ、せや、自己紹介してへんな……ワイはグルセルや。魔具の開発をやっとる。実はワイ、凄いんやで??アニキって呼んでくれてかまへんで」
「自分からアニキって……」
そう言ってイオラさんが苦笑いしている。
「えっと、ライムです。俺らは……」
自分の肩書きに迷い、言い淀むとグルセルがえぇっ?!と驚いた声を上げた。
「ライムってお前か?!リエルのやつ、長髪の男の子言うたから分からんかったわ。自分めっちゃかわ……」
「ストップ。それ以上言わない方がいいよ、たぶん」
トルビーがグルセルの言葉を止めた。
もしかして無意識に睨んでたかな……
「と、とりあえずよろしくな〜」
「うん。よろしく」
俺が返すと、グルセルに「敬語抜けた?!」と突っ込まれた。
「ってかなんで和解したの?」
俺が聞くとトルビーはウインクして
「秘密ってことでいい?」
と言った。
気になるが、こういう時のトルビーは詰めたとしても話してくれない。いつか聞こうと思いつつ、魔界対策本部を目指して歩き出した。
「これ。本当にごめん」
4人で魔界対策本部に戻り、俺らはイオラさんから魔対メンバー証の術式をもらった。
現在地は会議室だ。
「それにしてもトルビー、魔道具に精通しているとは」
本部長が言う。
「別に言うつもり無かったんですけど。ねぇ?」
そう言ってグルセルを睨むトルビー。
魔対に着くや否やトルビーの凄さを熱弁しだしたグルセル。
初めは困惑しながらもどこか満更でもなさそうなトルビーだったが、グルセルが「アレ見してや!」と言ったところで指をパチンと鳴らした。
グルセルは声が出なくなったようで驚きを全力で表情に出していた。
「まぁ、グルセルの魔道具の開発を手伝ってやってくれ」
「わかりました」
「グルセルは……次は無いと思いなさい」
げぇと苦い顔をした後、閃いたようにぽんと手を打つとグルセルは口を開いた。
「でも、機密事項をたっくさん持っとるワイを追い出したら何しでかすかわからんで」
どうだ解雇できないだろとでも言いたげに言ってのけた。
「記憶を消し飛ばすくらいここにいる全員できるでしょ」
トルビーが言う。
本部長はその通りだと同調している。
改めて怖いなここ。
……あ、俺も例外なくそうか。
「キミの技術は買っているんだから、もう少し魔道具以外にも興味を持ってほしいんだがね」
「はいはい、努力しますよっと」
グルセルがどんな経緯で魔対に入ったのか気になってきたなぁ……
「あ、イオラさん」
思い出したようにトルビーが言う。
「な、なぁに……?」
「あのレベル100の水鉄砲みたいな魔法、なんですか?」
気まずそうなイオラさんとは対称的に目をきらきらさせながら言ったトルビー。
一瞬ぽかんとしたイオラさんだったが、あれ実は消火用の魔法なんだ〜、と説明を始めた。
その様子を見てグルセルが大きくため息をつくと口を開いた。
「なんやトル。イオラのキャラ変のことやないんか〜」
「なんか文句あるっ?!」
イオラさんは威勢よくそう言うと慌てた様子でパッと口に手を当てた。
グルセルが悪い笑みを浮かべていたのは言うまでもない。
そんなやり取りをしていると、トン、キィと聞きなれない音が部屋に響いた。
そして……
「ぶちょー!研究中の人工魔力が盗まれてるです!」
そう、舌っ足らずな声が響いた。




