書き換え
サンドイッチを食べながら、ラズリス姉さんが言う。
「あんた、髪伸ばしたんだ?」
「先生に伸ばせって言われたので……」
僕が曖昧に笑いながら答えると、姉さんは笑った。
「あの迷信ね?まだ信じてる人いたんだ」
先生に魔力を増やすために伸ばせと言われてボブくらいになっている僕の髪。
姉さんにはっきり迷信と言われてしまった。
下を向くと髪が落ちてくるから勉強する時とかは縛らないと集中できないし邪魔なんだよなぁ。
そろそろ切ってもいいだろうか。
その後は雑談しながら食べ進めた。
僕が最後のパンのかけらを口に入れると姉さんは立ち上がった。
「さぁて、帰ろうか。マギアータに」
「別にひとりで帰れますけど……」
「歩いて、ね!」
……えぇ、歩いて?!
「とりあえず試したいことがあるし、向かいながらやろうと思ってね。まぁ夕飯にはつくよ」
列車なんて便利なものがあるというのになんでわざわざ歩いて……
「はやくしないと、夕飯無くなっちゃうよ?」
少し遠くから声がした。
って、もうそんな遠くに?!
「あーもうわかりましたっ!」
△▼△
キラハの市境を超えて、1時間は歩いただろう。
小さな森を抜けて少し広いところに出た頃、姉さんが手を叩いた。
「この辺でいいか、よしっ、実験するよ!」
試したいことってもしかして……
「魔法、撃ってもらうよ」
「いやー、無理ですって。僕、魔力ほぼないんですよ?」
「あ、知らないのか。じゃあ座学からだね……」
全ての魔法はかきかえによって発現する。
と言うより、かきかえによって起こった事象を魔法と呼ぶ。
かきかえる方法の一つとして術式がある。
この世界の事物はすべて、術式に置き換えられると言われ、魔法で実用的な物質は術式化がされている。
物体や法則の術式を書き換えることで発現するのだ。
また、術式は"魔法言語"で構成されている。
ここまでは僕だって知っていた。常識である。
ちなみに"水鉄砲"や"炎球"のようなテンプレート的に術式が組まれた魔法の他にも、様々な魔法をうまく組み合わせれば術式を作ることもできるらしい。
兄ちゃんは中央に行った後、魔法研究の課題でオムライスを5秒で作る魔法を作っていた。
僕が作ったオムライスの方が「時間はかかるけど美味しい」って半泣きで言ってたけど。
「そして……1番大事なこと!」
そう言って手で1を作って間を置く姉さん。
姉さんの話口調に合わせ、生唾を飲む。
と、大きく息を吸ってから言った。
「魔導書の1ページ目の魔法、個性魔法は魔力消費なしで使える!」
「そういえばそうでしたね……」
僕の1ページ目の魔法はかきかえで、すべての魔法はかきかえによって発現するわけだから、つまり……?
「僕も魔法使えるってことですか?!」
姉さんは悪い顔をしながら親指を立てた。
姉さんの言っている理論だと、僕は全ての魔法を発現させる「かきかえ」に魔力を消費しない。
つまり魔力が無くても魔法が使えてしまうはずなのだ!
「かきかえがあの魔法のことなら話は別なんだけど……」
そう言って姉さんは手のひらサイズのミニ結界を作り出した。
「触れてみて」
そう言われ、指先を結界につける。
「じゃあ、"クラッフ"って言って?」
「"クラッフ"?」
僕がそういうと結界がパリンと音を立てて割れてしまった。
びっくりしていると姉さんはやるじゃん!と言ってこう続ける。
「今のは術式を"書き換える魔法"。通称「書き換え」!結界はどれも微妙なバランスで成り立っているから少しでも術式をいじると壊れるんだ。あ、何気にあんた今、人生二度目の魔法を使ったね」
「……あ!ほんとだ。……というか確かにあの時みたいに何かがなくなる感覚がないです」
あの時、あの授業の時は貧血に似た感覚がした。視界が暗くなって、足の力が抜けていった。
「とりあえず第一関門は突破!さぁて、最終確認!因縁のやつ行くよ!"炎球を操る魔法"を撃ってみよ!」
……よし。
右手を前に出して手のひらを上に向けた。
そして覚悟を決めた僕は術式を唱えた。
「"フォーガ"!」




