定期テスト
テスト1日目は筆記試験だ。
内容は「魔法の術式化」。先生が出した魔法をその場で術式化するのだ。
魔法科の先生が実技室にいて、俺ら生徒は教室にいる。遠隔で、実技室の様子が黒板に映し出されているのだ。
チャイムと同時に黒板の中の先生が魔法を出した。先生の周りに7色の花吹雪が舞う
「今回はこの魔法を術式化してください。時間は100分。それでは、始め!」
見本の魔法は一度だけ、しかも術式を試すのも禁止だ。
難易度が高すぎる!
……なぁんてね。
もしあれがバラの花吹雪なら、一度やったことがある魔法だ。しかも魔法が使えるようになって初日に……
俺はスラスラと術式を書き上げた。解答用紙を半分以上残した簡潔な術式。ちょっと不安になるが、やったことあるし大丈夫だろう。
……あ、ついでに香りもつけておこうかな。
「やめ」
先生の声がしてカタカタと鉛筆を置く音が鳴る。俺はその音で目を覚ました。
最近遅くまで勉強していたから寝不足だったし許してほしい。
……失格とかならないよね?
魔法科は他教科とはテストのタイミングが異なるようで今日は魔法科の筆記のみ。
明日実技をやって今回のテストは終了だ。
と、トルビーと教室を出ようとしていたら先生に呼び止められた。
俺はトルビーに先に帰ってるように言って先生の元へ行った。
20分ほど経っただろうか、先生と別れ帰路につこうとした。
「あれ?帰ってなかったの?」
校門前でうろうろしているトルビーを見つけ、声をかける。
「ライム以外に実技の練習相手がいなくて……」
「そういうことか。じゃあやって帰ろ」
△▼△
その日の夜、俺たちは糖分補給にプリンを食べていた。
「ある条件下ってなんだろうね」
トルビーにそう話しかけると、顎に手を当てて首を傾げた。
「うーん、手足を縛られたままとか?」
「それでどう攻撃を避けるんだよ」
「だって"7色のバラの花吹雪"なんてお題出すような学校だよ?」
そう言って机をダンッと叩くトルビー。
「もしかして、書けなかった?」
「無理だよあんなの〜!」
トルビーはちょっと涙目だ。
魔法科でトルビーに勝てる日が来るなんてなぁ……
自慢してやりたくて右手に持ったスプーンで弧を描く。
「"クラッフ アズト エ ロドンイーリス シグマ ミロディア"」
7色の花びらがスプーンの軌道を追うように現れ、ひらひらと舞い落ちた。
「すご……ってか香り付き?」
トルビーの言う通り、宿の部屋はほのかなバラの香りに包まれている。
「やっぱり大成功!我ながら上出来〜」
「そんなに詠唱短いの?僕、用紙2枚使っても書ききれなかったよ?」
苦い顔をして言うトルビー。
「普通にやればそうなるんだよ〜」
「普通に?」
「うん。どうやったかは秘密〜」
トルビーはなんだよと拗ねていた。
「てか、ほんとに条件なんだろうね……明日大丈夫そう?」
「……まぁ、なんとかするよ」
トルビーはそうは言ったものの、どこか不安げな顔をしていた。
そんな中、2日目がやってきた。
1人ずつ実技場でテストするそうだ。
「ある条件下で人型の模型を壊す」というテスト、壊せるかどうか、そして壊すまでのタイムで順位を決めるらしい。
「ある条件」というのは入ってから伝えられるようだ。
俺は1番最後だった。
俺の前にトルビーが入って行く。
少ししてから爆発音が響いた。
好タイムじゃないかと思ったが、なかなかトルビーが戻ってこない。
何かあったのか?
それから少しして、やっとトルビーが戻ってきた。
俺と目が合うとウインクしてきた。うまく行ったのだろう。
そして俺の番だ。名前が呼ばれ、実技場に入る。
そこにいたのは担任の、フェネックのような大きな耳を持つテケン先生と、「テケン先生」だった。
「ライムだね。じゃあこれをつけて」
俺は渡されたペンダントを身につけた。
「今回の条件は「攻撃魔法禁止で私の模型を倒す」だ。それは攻撃魔法を使えなくする魔法石。あと、今ライムにかかっている術式を全て解くぞ」
そういうと先生は俺の手に触れた。
なぜそんなことをするんだろうと思っていると、先生はそれを察したのか口を開いた。
「先に術式を仕込んでくる子がいるんだ。例えば"爆発"の術式発動をウインクに変えてきたり。……ライムは何もしてなかったんだな」
「思いつきませんでした。あと、筆記に必死だったので……」
事実だ。正直実技はあまり対策していない。トルビーの練習に付き合ったくらいだ。
「そっか。ま、とりあえず始めようか」
「はい!」
「では……始め!」
その声とほぼ同時に「先生」は魔法を放ってくる。
とりあえず避けつつ作戦を立てよう。
おそらくあの「先生」は"操縦"によって操られた人形だ。
それにしても髪の一本一本まで精巧に作られた人形だ。本物の先生なんじゃないかと思うほどだ。
……攻撃魔法禁止か。
そんな条件、考えてもみなかった。
どうしようかな……
考えているうちにも火球や木の葉や光の槍やらいろんなものが飛んでくる。
ついでにテケン先生の怒号も飛んできた。
「……なんでそんなに動かないで避けるんだよっ?!」
「いや……そう言われましても、あんまり動くと考えられないじゃないですか」
と、先生と「先生」の額に血管が浮いた。
……へぇ〜、表情までリンクするのか。凄いな。
「って、わぁ〜?!」
攻撃の手数増えすぎだ!
さっきの倍、いや3倍には増えている。
「避けきれないですよぉ〜!」
「じゃあもっと動けっ!」
喚きながら走り回る。
「どうやって壊せばいいんですかっ……って、ん?」
壊せばいいんだよな?
俺、なんで忘れてたんだろ。
俺は「先生」の方を向き、"颯"で間合いを一気に詰めた。
そして……
「"具現化"!」
ザンっと何かを斬る手応えがして、目の前の「先生」は胴で真っ二つになっていた。
土でできた人形だったようだ。
崩れて小さな土の山になっていた。
「……30秒」
先生がそう言って試験は終了した。
「ライム、その斧、どこから出した?」
先生が聞いてくる。
「"具現化"で出しました。何かまずかったですか?」
先生は目を見開いている。俺は手元の斧を見る。
初めて作ったけど、ほとんど俺の斧と変わらないな。
「え……?そういえば、ライム・スフェン……どこかで……って、あ!」
俺は手に持っていた斧の術式を解いた。
斧が霧散していく。
「まさか君、ネリアさんとこの子!?」
「母を知ってるんですか。そうです」
ネリア・スフェンは斧術の達人だ。
兄ちゃんができるまでは警備隊員として活躍していた、母であり俺の師匠だ。
俺は小さい頃から母さんに斧の使い方を叩き込まれていた。母さん曰く「お前は強くなっておいた方がいい」らしい。
今日のためだったのか……?んなわけないか。
「(斧まで具現化させてしまうイメージ力……いや、斧への異常なほどの理解なのか……?)」
先生何か言いながらずっと困惑している。
確かに、斧は術式化されていないもので、木の葉や炎のようにホイホイ出せるものじゃない。
母さんによると色々な物質でできていて、さらに加工されているため斧など加工品の術式化はほとんど困難らしい。
しかし"具現化"なら別。
ちゃんと対象を理解していれば空気中の魔力を一時的に対象に変えることが出来る。
斧なら小さい頃からずっと振り回してたし多分行けるかなぁと思ってやってみたが大成功のようだ。
って、そういえば!
「先生、一位の秒数って……」
俺は恐る恐る先生に聞いた。
先生はニコニコしながら答える。
「……明日のお楽しみだっ」
やばい、やばい!
もしかしたらトルビーより早いんじゃ……
あぁ、今日は心配で寝られないかもしれない……
俺はトボトボ実技室を出るのだった。




