7.お見舞い
……どれくらい眠っていただろうか。私はまぶたをこすりながら、ベッドから起き上がった。壁にかかった時計を見ると、ちょうど午後2時頃。朝からぐっすり寝た様だ。部屋の花瓶に飾られた色とりどりの百合の花が時計の次に目に入る。『リリー』という名前だからって、部屋に百合まで飾らなくとも、と思う。私の部屋の装飾を担当するメイドは、洒落好きな女性なのである。
ちなみに、この世界は雰囲気は中世的なものの、技術的には近代並、一部の技術や価値観倫理観は現代並という、よくある都合良い異世界の設定である。
ああん? リアルな中世を書け? 嫌だよ。
読者さん達も嫌でしょ? 現代と比べたら物凄く不潔で定期的にヤバい伝染病が流行して、騎士団の兄ちゃん達は皆頭が鎌倉武士仕様で、趣味が敵地での略奪と強姦と放火。異教徒の捕虜なんているかよ!が合言葉とか。いろんな意味で全年齢版に載せられない。
そんなメタフィクション的な事を思っていると、部屋の扉が叩かれた。その、洒落好きなメイドだ。
「リリー様。お体の具合はいかがでしょう。エリオット様がお見舞いにおいでです」
メイドの言葉に、私は自分が今日仮病を使った事を思い出す。
「……元気はある。通して」
「ははっ」
しばらくすると部屋の扉が開かれ、エリオット様が入ってきた。
「リリー、大丈夫かい? 突然具合が悪くなったと聞いたが」
「エリオット様。騎士団の仕事は良いの?」
「今日はそこまで面倒な業務や任務も無かったからな。愛しの婚約者殿が身体を壊したと聞いて、早抜けしてきた」
「そりゃ、ありがたいわね」
エリオット様は少し焦った様にベッドに近づいてきた。相変わらずの美丈夫っぷりでドキドキしてしまう。
「大丈夫よ。ただの過労。少し、疲れが出たみたい。1日寝たらもう、だいぶ楽になったわ」
過労自体はしているので、嘘は言ってない。
「それにしては顔が赤い気がする。どれ、熱は無いか?」
エリオット様は、そう言って、私の首元に手をやった。顔に似合わないゴツゴツとした戦士の手だ。ワァ、顔が近い。
「…………心なしか、熱がある気がする」
「あなたの顔が近いから、緊張してるのよ……」
「なんだ、照れているのかい? 可愛いところがあるじゃないか」
彼はそう言ってクスリと笑うと、鞄から瓶入りの回復薬を出した。
「道すがら買ってきた。飲めるかい? 」
「飲めないから、口移しで飲ませてほしいわ~」
少し意地悪がしたくなって、私は少し彼をからかってみる。案の定、彼は困った顔をした。
「……おいおい。衛生的にどうなんだ」
「良くは無いわね。ま、あなたもそこまで不衛生な人じゃないし、大丈夫でしょ」
「……リリー、君、本当に具合悪いの? ここぞとばかりにイチャイチャしようとしてない?」
「ご想像にお任せします」
エリオット様は困りつつも、覚悟を決めたのか回復薬を口に含み、私に唇を重ねた。苦い薬の味が広がるが、不思議と苦みは感じない。
私は彼に抱きつくと、そのままベッドに引き込む。完全に奇襲だった事もあり、エリオット様はベッドに倒れ込んだ。
「えっ、ちょ?!」
「フフ、子供みたいな声出して、可愛い」
「……リリー、本当に具合悪いんだよな?」
「兵は詭道なり。まあ、そういう事よ」
「悪い女だ」
そう言うとエリオット様もスイッチが入ったのか、ベッドに私を押し倒すと、唇に深いキスを落として来た。
中世は補給は現地調達(意味深)が基本ゆえ、騎士達が蛮族化するのはやむなし。スピットファイア連邦王国の騎士兄貴達は脳筋だけど倫理観はしっかりしてるので、敵地での狼藉はしない……はず。多分。