6.鵺の語る真相
流石、汚れ仕事専門部隊を率いる男。すでに情報は入っていたのか。すでに兄の声色は舞台俳優のものから、トラツグミを思わせる高めの恐ろしいものになっている。悪い顔になっている時は、こういう声になるのが兄の癖だ。
「公は元々、父上と敵対して討たれた叔父上の側近だ。自身も王家の血が流れているのもあって、内戦後に助命はされたものの、それ以来、不遇を囲っていてな。大方、それに対する不満が動機だろう。それに奴は以前から対外拡張を積極的に主張していてな。内治優先の方針の陛下とはそりが合わなかった」
「よく調べておいでで……」
「実を言うと、前々から彼は何か怪しい動きをしていてな。スパイを送り込んで潜入捜査をさせていたのだ。しばらく泳がせていたが、そろそろ退場かな……」
兄はそうサラッと言って、軽く笑みを浮かべた。笑っているのに酷く恐ろしい顔で、思わずゾクリとしてしまった。ただの狸が、鵺に太刀打ち出来る訳がない。
「……兄上、お願いがあります。エリオット様の助命を嘆願いたします」
狸なりに勇気を振り絞って、私は言った。いくらエリオット様が武辺者と言っても、この鵺の手にかかれば、簡単に消されてしまうだろう。
そして、この兄は裏切り者には極めて苛烈な事も知っていた。以前に反乱を起こそうとして、蜂起前にあっさりと兄によって逮捕された貴族は、詳細は伏せるが、口に出すのもおぞましい方法で処刑された。あまりの残虐さに処刑を見に来た見物人が、何人か失神したという。なんなら一緒に立ち会った父上もドン引きしていた。
彼の命だけは……それが無理なら、せめて、出来るだけ楽に死なせてくれれば……。
そんな私の命乞いを見て、兄は愉快そうに笑った。
「ほほう、普通は国家反逆罪は死刑しか無いのだがな」
「まだ蜂起は起こってはおりません。……私が、説き伏せて翻意させてみせます」
「……」
しばらく、この好色なれど恐ろしき兄は黙っていたが、やがて口を開いた。
「その必要はない」
「......! 助命は、しない。と?」
私は絶望的な顔で兄を見る。だが、不思議な事に兄は、不敵な笑みを浮かべていた。
「いや、彼はそもそも、裏切ってすらいないのだよ」
「……? それはどういう事でしょう?」
「単刀直入に言うと、先程話にも出たスパイ。それが彼という事だ」
「!!」
「助命も何も、彼は我々の味方だ」
そう言うと、兄はヒヒヒと相変わらずトラツグミの様な不気味な声色のまま楽しそうに笑った。
「極秘任務ゆえ、他言無用だが。まあ、せいぜい、彼に優しくしてやってやれ。色々と疲れているだろうからね」
「……ははっ」
……なるほど、そういう事か。心配して損した。
それにしても、潜入捜査とは。我が許婚は中々、腹芸が上手い様だ。
私は一安心したらどっと疲れが押し寄せてきた。そういえば、昨日から色々あったせいで一睡も出来ていない。今日の予定は体調不良という事でキャンセルして、少し身体を休めよう。仮病はあまり褒められた事では無いが、こちらは婚約者の浮気疑惑、そして裏切り疑惑を探っていたのだ。1日くらい良いだろう。
私はそう決めると、一礼して兄の部屋から出た。
陛下は陛下で財政を圧迫する軍事費と属国の維持費に頭を悩ませておられるのです。よって領土の拡張にはあんまり興味無し。更に言えば平和主義者ではあるけど、それはそれとして、平穏の為なら力も振るうし、汚い事もするよ、くらいのスタンス。