5.鵺の様な兄
私は今、とある部屋の前でウロウロしている。
部屋の主はフランク・スピットファイア。この国の第一王子で我が兄である。時間は朝の6時。帰ってきて、まっすぐここまで来たが、いざ部屋の前に来たら躊躇ってしまう。
兄は助兵衛だが、同時にとても恐ろしい人でもある。国内外のあらゆる情報に精通し、特に貴族連中の弱みは全て握っているとか。
更には我が国の『秘密警察』の指揮権は彼が握っていて、実際、いくつか黒い噂も……例えば急死した某侯爵や某伯爵は彼とその部隊によって暗殺されたのではないか、という疑惑もある。
そんな兄に今回の事をチクれば…………。エリオット様の運命が暗い事は言うまでもない。必然、躊躇いというものが浮かぶ。
「妹様」
「ひっ?!」
突然、後ろから声をかけられ、思わず声をあげる。果たして、そこにいたのは少し前まで共にいたアンジェ様であった。
「アンジェ様か……」
「酷いじゃないですか。私を置いて単騎駆けするなんて。追いかけたけど見失って、しばらく探したんですからね」
「ごめんなさい。つい、頭に血が上ってしまって……」
「ま、無事でしたし、良かったですけど。我が夫に何かご用ですか?」
アンジェ様は合鍵を使って躊躇い無く、兄の部屋の鍵を開けて部屋に入る。
「フランク殿下。妹様が何かご用みたいです」
「あっ、ちょっと」
まだ心の準備が……。私の葛藤など気にせず、アンジェ様は私の手を引いて部屋に招き入れた。
果たして、兄はベッドに横になっていた。脇では何人か裸の義姉上達が寝息をたてていて……相変わらずのプレイボーイっぷりである。
「アンジェと……リリーか。珍しいな。リリーが俺の所に来るなんて」
兄は起き上がり、半裸でこちらを珍しそうに眺めている。兄とは仲は悪くないし、むしろ良い方だが、別にべったりという訳でもない。私が彼の部屋まで来るのは珍しい事である。
血のように赤い髪と、暗闇の様な黒い瞳が特徴的で、身内の贔屓目を入れても美形である。声は舞台俳優の様に凛々しく、それに名状しがたいカリスマがにじみ出ていて、彼に迫られたら、大体の女性はなびいてしまうだろうという説得力がある。
虎の様な恐ろしさ、蛇の様な狡猾さ、それから猿の様な性欲を持つ、キメラみたいな男である。まんま東洋の怪物、鵺の様だ。顔だけならレッサーパンダみたいな可愛い系なんだが。
そんな鵺系男子の兄は珍しそうにこちらを眺めてる。私はそんな兄に対して臆せずに口を開く。
「兄上、重要なお話が」
「何だ?」
「お耳を拝借したい」
私はベッドに腰かけている兄に耳打ちし、昨日見た事を正直に話した。クーデターを起こそうとしている不届きものがいる事、それに、私の恋人も関わっている事。
もちろん、この事を話せば、エリオット様の運命が暗い事は分かっている。だが、私は彼の婚約者であると同時に、王族なのである。クーデターが起きて、国が混乱すれば沢山の民達に悪い影響がある。
それに、混乱が長引けばその隙をついて、周辺国が攻めてくる可能性すらある。大体隣国同士は仲が悪いものだが、我が国も例に漏れず、周りの国々とは領土問題や、経済的なあれこれ、文化や宗教の違いが原因で、お世辞にも仲良しこよしとは言い難い。ただでさえ、我が国は軍事大国として、色々な所から恨みを買っているし……。
話を聞いた兄は、意外な程冷静に口を開く。
「クーデター計画か。話は聞いていた。結構、話が進んでいる様だな。レーモ公爵とその一派だろう」
「ご存知でしたか……」
この兄は、私が思った以上に動きが早かった。
鬼◯郎しかり東◯Projectしかり、鵺は大体強キャラと相場が決まってるのだ。