EX6.聖女降臨
「さて、やって来たは良いけど、ぽこぽこ様や。これからどうすべきかしら?」
「まずはこの部屋に簡易的な結界を施そう。部屋の四方に塩を盛ってくれ」
私達は言われた通り、持ってきた塩の入った袋からいくらか塩をつかみ、部屋の四方に盛っていく。
部屋の隅にはドレスだろうか?服がくしゃくしゃになって落ちている。乾いた血の様な赤茶色で不気味な雰囲気だ。
「…………す」
「?」
相変わらず、床が軋み不気味な音を立てて、人の話し声に聞こえる。一応、私は二人に確認してみる。
「何か聞こえなかった?」
「……聞こえた気がする」
「なんて?」
「殺す……って聞こえた様な」
「物騒ね。さっさと儀式を終わらせないと」
私達が四方に手早く塩を盛り終わると、ポコポコさまはお手製のお札を床の中央に貼る。
「…………!!」
そのままポコポコさまは、何語か分からない独特な言語で呪文の様なものを唱えた。封印の呪文だろうか。
「!!」
すると不思議な事に、部屋の中央に魔法陣が現れた。幾何学模様で描かれたそれは、部屋の床一面に広がる。
「……リリー、俺の後ろに」
エリオット様は私をかばう形で前に出た。右手には、愛用の短銃。左手にはナイフを持ち、小柄ながらその姿は勇ましく、惚れ直してしまう。
うっとりしつつ、この光景を眺めていると、やがて、驚いた事に魔法陣から無数の人魂が浮かび上がった。人魂達はそのまま浮遊すると、天井を突き抜けて、空に飛んでいってしまった。
「…………」
その光景は妙に美しく、色とりどりの人魂が水面に漂う海月の様にフラフラと飛んでいくので、思わず見とれてしまった。
「神様、ありゃ、なんだい?」
呆けていたのはエリオット様も同じだったが、彼は私より早く正気に戻り、ポコポコさまに尋ねた。
「この塔に縛りついていた怨霊達じゃな。あれの怨念のせいで聖女……いや、元聖女の大妖怪の力が増している。浄化出来るやつは浄化しないとな」
「今ので浄化出来たの?」
「ああ。迷わずあの世まで行ってくれるじゃろ」
サラッと言っているが、とんでもない事をしたものだ。簡単に祓えないから怨霊なんだろうに。
「……それより、前菜を消費したからのぅ。もうすぐ、メインディッシュが出てくるぞ」
ポコポコさまは、視線を先程見つけた、ボロボロの赤茶色のドレスに移した。釣られて私達もそれを見ると、またしても驚くべき事が起こった。
赤茶色のドレスは、触れてもいないのに、ひとりでに丸まっていく。本当に布地かと思うくらいに圧縮されている。
「やはりあれが依代か」
意味ありげな事を言ったポコポコさまは、私達の前に立つと、またしても呪文を唱えた。
「正体をあらわせ!」
すると、そのドレスはボロボロと崩れていく。ドレスが崩れると共に、まばゆい光が塔の中を覆った。
光が収まった時、それまでドレスがあった所には、うめき声をあげる一人のガリガリの女性の姿があった。
長い金髪であっただろう髪はボロボロで白髪のよう。目は憎しみに染まりきって、らんらんと輝き、ボロボロの赤茶色のドレスを身に纏っていた。
「さ、元凶様の降臨じゃ」
「明らかに友好的には見えないんだけど」
「もしかして、こいつが聖女、メリー・スピットファイアさん?」
エリオット様の言葉に、ポコポコさまは頷いた。
「いかにも。聖女の成れの果てじゃ。何もかも失った哀れなおなごよ……。浄化は出来ぬとも簡易的な再封印は出来よう。手伝ってくれ」
「……逃げられる雰囲気じゃ、なさそうだね」
「ちょっと、即ラスボス降臨とか聞いてないんだけど!?」
「いや、今なら怨霊浄化で弱体化させて一気にいけるかと判断してのぅ」
思わず戦闘パートに入ってしまった。怖くない、と言えば嘘になるが、この闇落ち聖女様をなんとかしなければ、逃げる事も弟を救う事も叶わないだろう。私は、刺突短剣を握る手に力を込めた。




