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EX3.ホラー映画に出てくる類の幽霊

 

「……エリオット様、あの子、どこがとは言わないけど、所謂、可哀想なお友達ってやつかしらね?」


「いや、今話題の霊感商法ってやつかもしれん……悪霊の仕業で不幸が起きてるって脅かしてお金をむしる。救済から金儲けが目的になった三流宗教がよくやるやつさ」


「……なんかすっごい失礼な事を言っておらぬか?」


 ヒソヒソと話す私達を前に不満そうにしつつも、自称ポコポコ様を名乗る少女は大して気にしてない様に微笑んだ。


「いやのぅ、お主らがここに来るのは久しぶりじゃから、懐かしくて眺めていたら、何やらだいぶ困っているようじゃったから、つい声をかけてしまってな」


「本当にここに祀られている女神様みたいな事言うじゃない……」


「じゃから女神の化身なんじゃって……そうじゃな、昔話をしよう」


 そう、不服そうに狸耳の少女は言うと語り始める。


「12年程前、お主らはよくここに来ておった。リリー・スピットファイア、お主は王族にも関わらず、しょっちゅう城を抜け出して、幼馴染のそこのエリオット・マートレットと遊びに来ていた」


「?!……私達の名前を……?」


 二人とも、名乗ってはいない事を思い出す。何故、名前を知っている?


「リリーの方はよく木登りをしていたのう。それをエリオットは毎回不安そうに下で眺めておった」


 ……確かに、よくここには二人で遊びにきていた。二人で遊ぶ事が多かったから、どんな遊びをしていたかまでは、知っている人はいないはずなのに。……もしかして、本当にここに祀られている女神様だとでも言うのか?


「あと、リリーはよくスカートをはいていたにも関わらず、木登りが好きだったからのう……エリオットはこれ幸いとばかりによく下着を覗いていた」


「……エリオット様?」


「…………」


 気まずそうに目線を逸らすエリオット様。図星か、このむっつりエロオット様め……。いや、何度も身体を重ねている現状、パンツ見られていたくらい今更別に良いけどさ。なんなら、彼が私の下着が欲しいとか言ったら、今ここで脱いでプレゼントしても良い位だけど。


 これ以外にも、彼女は私達しか知りえない情報を沢山持っていた。自身はここに祀られている女神の化身である、と言われたら納得せざるをえない。とりあえず、信用してみる事にする。


「それで、ポコポコ様。その、うちの愚弟が北東の塔の悪霊に取り憑かれているというのは?」


「うむ。城の北東の塔の幽霊は、その筋では有名じゃからな。正直、心当たりしかない」


 そう言うと、ポコポコさまは北東の塔の幽霊の話を語り始める。


「あそこには、色々と曰くがあっての」


「知ってる。様々な王族が幽閉された曰く付きの場所だって」


「そこまで知っているなら話が早い。あそこには、そこで亡くなった人間達の怨念が渦巻いている。古くは私……正確には私の信仰の元になった、一匹の雌狸がこの地に連れてこられた頃には、あそこは曰く付きの場所になっておったわい。あの時点で、大量の悪霊が集まっておった」


 懐かしそうに、さも見てきたかのように語る自称ポコポコ様。彼女は話を続けた。


「それからしばらく経って、ある1人の王女が塔へ幽閉される事になった。名はメリー・スピットファイア。彼女は所謂、聖女の気質を持っていてな、人々を魔法でもって癒すのが得意なおなごじゃったわい。彼女には侯爵家の許婚の令息がおってな。こいつが大層な女好きで……まぁ、そこからはよくある話で、令息が身分の低い女に浮気して、メリーの存在を疎んだ上、さらに、その身分低き女に誑かされた兄の馬鹿王子により、彼女は冤罪を着せられ、塔に幽閉される事になった」


「なんだか、最近の恋愛小説にありがちな展開ね」


「小説ではここで颯爽とヒーローが現れて、メリー王女を救うのがお約束じゃが、彼女の元にヒーローは現れなかった。幽閉先の塔にて、碌な食事も与えられずに、衰弱死してしまった」


「……空腹なのに食べ物が無いというのは、辛いからな。気の毒な」


 エリオット様はそう言うと手を合わせ、冥福を祈った。彼自身のかつての飢餓の記憶が蘇ったのだろう。


 彼の身長は小柄な私と同じくらい。イケメンだが、こう言ってはなんだが、同年代の男性と比べてかなりのチビである。そしてその原因は間違いなく、家を追い出された後の慢性的な栄養失調にある。メリー王女に同情的なのは仕方ない。


「という訳で王女は怨霊と化してしまった。その後、王子や元婚約者、そして元凶の身分低き女、次々とその事件に関わっていた者達が不審な死を遂げたのじゃ。死に方ときたら、まさに先程話していた通り、全身の皮膚がひび割れて血が滲み、高熱が出て幻覚を見る。まさにそんな症状じゃ。メリー王女がニタニタしながら顔を覗き込んできて、「飢えよ、飢えよ」と囁いてきたという。最終的に食べ物もろくに口に出来なくなり、餓死していった」


 低い声を出して、手をだらりと下げて、幽霊のマネをしながら脅かす様に言うポコポコさま。見た目のせいで、大して怖くないが。


「まあ、祟っても良いと思うわ、それは。ざまあみろ」


「強力過ぎる怨念はそこらの神官では祓えず、むしろ、野良の幽霊を集め、吸収し、より凶悪になる始末。もはや誰でも良いとばかりに、他の無関係な王族貴族にまで祟りが及び、人々は恐怖のどん底に陥った」


「無関係な人間を巻き込むのは感心出来ないわね……」


 聖女は本来、神聖な存在。それが憎悪に染まりきったら、強力な怨霊になるのはある意味必然かもしれない。


「そういう訳で、本格的な封印が施される事になった。城の塔を囲む形で、5つ新たに神殿を作り、星形の結界を作り、有能な神官を何人も集め、封印の儀式を行った。この神殿もその時に建てられたものでな。当時、このあたりでは珍しい(ラクーンドッグ)である私の人気が信仰レベルにまでなっていたので、晴れて私は神になったのじゃ!」


 ドヤ顔で語る自称ポコポコ様。なるほど、彼女の生い立ち(?)は大体分かった。


 人間や生き物や妖怪が信仰を集め、神格化される事はよくある。現実世界でいうと古くは菅原道真や平将門や崇徳上皇。最近だとマイナー妖怪から一躍病避けの守り神と化したアマビエとか。イメージ的にはあんな感じか。


 現実(画面の前の)世界の話はこれくらいにして、話の続きだ。


「それで? そこまでしたんだから、封印出来たの? その聖女様改め大妖怪は」


「ああ。無事に封印出来た。それで、万事問題無いはずじゃった。本来なら」


「……だが、アール様に、何故かそのメリー王女の呪いが振りかかってきた。今になって」


「そこじゃ。分からぬのは。何故、今になって封印が解けかけているのか……」


 ポコポコさまは、狸色の髪をいじりつつ困った様な顔をしている。


「……お主ら、王族じゃろう?城に住んでいるなら、私も連れて行ってくれぬか? 一度、現場を見てみたい」


 そんな事を言い出すポコポコさま。……突然そんな事言われても困るんだが。


「部外者を城に入れる訳にはいかない。例え神様であっても。セキュリティというものがあるからな」


 そう言って、エリオット様も彼女を連れて行くのは拒否した。状況証拠的には、目の前の少女がポコポコさまだと信じてみても良いが、だからといって今知り合ったばかりの人物を信用しすぎるのも怖い、そういう感情が見える。


「つれないのぉ……。人間の姿がまずいというなら、この姿ならどうじゃ?」


 ポコポコさまは、そう言うと、頭に葉っぱを乗せて、器用にその場でバク転した。


「!!」


「ほほぅ……」


 するとどうした事だろう。それまでの少女は姿を消し、代わりに目の前にいるのは一匹の(ラクーンドッグ)だった。(ラクーンドッグ)は、先程の少女の声のまま、話しかけてきた。


「この姿なら、問題無かろう。こう、怪我した野生の(ラクーンドッグ)を保護したとでも言えば何とかなるじゃろ」


 (ラクーンドッグ)が化けるという噂は、どうやら本当らしい。


 お誂えむきに、彼女(?)は足に傷がついていた。これが本当についた傷なのか、そういう形に変化させているのかは分からないが。


 私とエリオット様は顔を見合わせる。


「……どうする?」


「連れて行って良いんじゃないか? 神様なら、あんまり邪険にすると神罰が下りそうだし」


「…………神様相手でも浮気はダメよ?」


「そこまで俺も恐れ知らずじゃないよ」


 かくして、私達のパーティに女神様(狸)が加わった。

恐らく異世界恋愛ものでまず出てこないであろう単語第一位、日本三大怨霊。

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