1-1
町から離れた開拓村に、小さな飛行船が降りてくる。
それは村の広場へゆっくりと着地すると、飛行船に乗っていた操縦士は回転するプロペラを止め、エンジンの蒸気圧を逃がすと周りに居た村人達が集まってくる。
「リリー!頼んでいた物は持ってきてくれたかい?」
「はい!塩と砂糖、小物類に出稼ぎの人達からの荷物もあります!」
リリーと呼ばれた飛行船の操縦士は、荷をほどいて集まった人達へ頼まれていた物を渡していく。そこへ、背の高い老執事を従えた恰幅の良い男性が歩み寄ってきた。
「リリー君。いつもすまんな、こんな田舎まで」
「あ、こんにちは村長!はいこれ、頼まれていた一月分の週刊新聞!」
週刊新聞の束を老執事が受け取るも、待ちきれぬと横から一冊抜いて読み始める村長。
「ほっほっほ、これが老後の楽しみでの」
「はしたないですよ旦那様」
老執事に窘められるも、広告欄にある【絶倫!赤猫屋特製トカゲの白焼】や【秘密の館:ロストプリンセスに新顔登場】等をギラつく目で素早くチェックを入れる。
「アレさえなけりゃあ良い村長なんだけどね」と、村長が老執事に引き摺られていく姿を生暖かく見てる村人達へ、次回の御用聞きをしていると、荷物を受け取ったおばちゃん達が心配そうに声をかけてくる。
「一番安い、町の三号郵便より運賃安いけど、大丈夫なのかい?」
「うん、大丈夫。依頼はまとめて一度に運んでるし、ちゃんと報酬は街のギルドで貰ってるから」
一通り荷物を下ろし、水筒の中身を飲み干すリリー。
「それなら良いけど。でも空賊には気を付けるのよ」
「こんな小型船じゃ、アイツらも割に合わないと知ってるわ。あ、そうだ。井戸水分けて貰っても?」
「いいけど、今来たのにもう行くのかい?リリーちゃん」
すぐに飛行船の炉へコークスを足しているリリーに、不思議に思ったのかおばちゃんの一人が聞いてくる。
「今から出れば、低空の追い風に乗って夕方には町まで戻れるから」
リリーはそう答えながら、相棒の飛行船――《アーヴィング号》の双気嚢間に備え付けられた、自動給炭器の蓋を開けて中を覗き込んだ。
(……風に乗らないとギリギリかな)
軽く中を混ぜて蓋を閉め、煤だらけの手袋をパンパンとはたく。
アーヴィングと、自分の水筒へ給水を終えたタイミングで、村のおばちゃんと子供達がやって来て重たそうなバスケットを押し付けてきた。
「何も食べてないんだろ?空でもサンドイッチ位は食べれるよ」
「私も手伝ったの!」
「わあ、ありがとう!」
笑顔でリリーはお礼を言い、バスケットを長櫃に仕舞うと操縦席に腰を下ろす。
「お姉ちゃん、また来てねー!」
村の子ども達が大きく手を振る。
「もちろん! 次は頼まれた絵本も持ってくるからね!」
大きく手を振り返すと、操縦席の計器を一つずつ確認する。
蒸気圧――良好。
気嚢、パイプライン――破れてない。
ラダー、半硬式フレーム――問題なし。
最後に、気嚢のフレームへポン付けしたパネルの蓋を開けて目をやる。
ーー秘密の装置と各種計器、多分良し。
「さて、行きますか」
リリーは飛行帽とゴーグルをかぶり、蒸気圧を確認して空気排出弁を開いた。
下降時に気嚢へ溜めていた空気が、小気味よい音を立てて外へと放出され、アーヴィング号がゆっくり上昇していく。
蒸気圧を確認して速度レバーを微速に合わせると、座席後ろの蒸気エンジンから軽快な音が鳴り始めて、プロペラがゆっくりと回転を始める。
やがて、村の木々より高くなった所で巡航速度へ。プロペラの回転は滑らかに、より風を切る音へ変わった。
「行こう、アーヴィング」
コンパスと風速計を元に、ラダーを合わせるとアーヴィング号は半円を描いて風に乗り、あっという間に高く小さくなっていく。
予定高度まで上がると、眼下の景色はどんどん広がっていく。
「やっぱり、この景色が一番好きだ。」
今日も空は穏やかだった。




