表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チャイと時枝ヒカル君  作者: 河村諭鳥
8/28

青春編8


「英語の辞書は持ってきた?」


前の週の日曜日、美咲ちゃんが辞書を持ってくる様に言ってたので、


「うん」


と言って僕は鞄から取り出した。


「オッケー、じゃあこれ」


と美咲ちゃんが三冊の問題集と、小さな本を一冊、差し出した。見ると、中学三年分の英語の文法の基礎問題集と中学の英単語帳だった。


「これって?」


「私が中学の時に使ってたやつ、もう使わないからあげる。色々考えたんだけど、ヒカル君はこれをやった方がいいと思うの。今日からこれ使って勉強してみて」


「え?」


「この問題集は中学三年分だけど、薄いし基礎問題だから、すぐに終わらせられると思うよ。これを何回も繰り返しやって基礎を徹底すれば、苦手な英語を克服出来るんじゃないかなと思うの。

それと、この単語帳は中学で必要な単語帳で1800位あるの。夏休み終わるまでに覚えよう」


「う、うん」


「あ、無理はしないでね。夏休み終わるまでって言うのは、あくまで私の勝手な目標だから。その方がキリがいいと思っただけだから」


「いや、頑張るよ!良い目標だと思う!夏休みまでに単語も問題集も全部終わらせるから」


「ヒカル君なら大丈夫だと思う、分からない所があったら何でも聞いて。一緒に頑張ろう」


と彼女は笑顔で言った。その笑顔だけで、俄然やる気が出た。 僕はその後、必死で問題集をやり彼女も自分の勉強をしていた。

問題集は本当に基本的な問題ばかりだし、一つの文法に対して、だいたい2ページ位だったので、スムーズに進んだ。時々分からない所を彼女に聞くと、彼女はどんな時でも教えてくれた。

彼女の教え方はとても丁寧で分かりやすかった。


「ヒカル君、覚えが良いね」


お昼を食べてる時に言ってきたので、


「美咲ちゃんの教え方が上手いからだよ」


と僕は答えた。


「そんな事ないわよ、ヒカル君の覚えが良いから、私も教えやすいし、この調子なら夏休み終わるまでには本当に中学英語マスター出来ると思うよ」


「ありがとう」


と言って、僕はジュースを飲み、


「あのさ、家でも分からない所あると思うからさ、連絡先とか教えて貰えないかな?」


と緊張を隠しながら言った。


「え?」


「僕、これを機に中学英語も次の英語のテストも頑張ろうと思うんだ。だから家で分からない所あった時、教えて欲しいから、お願い!!」


と頭を下げた。


「そういう事なら・・・いいよ」


と言って、二人で連絡先を交換した。

僕はその後死ぬ気で英語を勉強し、一週間で一冊のペースで問題集を終わらせた。英単語も、レポート用紙に英単語とその意味や品詞等を書き、部屋中に貼りまくり、見る度に音読し、チャイにかなりうっとうしがられたが、無視して続けた。

分からない所を連絡すると、すぐに返信がきた。

図書館の時と同様に、彼女の説明は丁寧で分かりやすかった。

基本的に勉強の事しか連絡しなかったけど、いつも最後に『おやすみ』や『明日も頑張ろう』と付け加えた。

そしたら彼女も、『おやすみ』や『頑張ろうね』と応えてくれた。学校では相変わらずほとんど何も話さす、名字で呼んでるけど、だから、余計に 二人だけの秘密みたいで嬉しかった。


「来週から期末テスト始まるから、図書館来れないわ」


美咲ちゃんが図書館の帰りに言った。


「え?」


「やっぱりテスト前は勉強に集中したいから、質問にも答えられないかも」


「・・・そっか」


「ヒカル君なら大丈夫。中学英語も学校の英語も凄い頑張ってるから、絶対良い点取れるよ」


「うん」


と言った後、僕は黙って歩いた。美咲ちゃんも黙っていた。

何だかとても寂しくなった。図書館からの帰り道はいつも少し寂しくなるのだけど、いつにも増して寂しくなった。

美咲ちゃんの家の近くまで来た時、


「美咲ちゃん、お疲れ様会やらない?」


と思い切って僕は言った。


「お疲れ様会?」


「うん。勉強頑張ったから、テストの最終日に二人でお疲れ様会やらない?」


美咲ちゃんは、フフッと笑った。


「ヒカル君って面白いね、テスト頑張ろうね」


と言って、美咲ちゃんは家に帰った。

それからしばらくして、テスト期間に突入したが、お互いに一度も連絡しなかった。


『お疲れ様会、海に行きたいです』


テスト最終日の前夜、美咲ちゃんから連絡が来た。

とても驚いたが、すぐに、


『了解です』


と返した。

昨夜の出来事が夢じゃなかったのかと思い、

携帯を聞くと、昨夜の連絡に加えて、


『おはよう、今日楽しみにしています』


と新たにきていた。

僕の中にこの上ない限りのパワーがみなぎり、全身全霊でテストを受け、自転車で全速力で家に帰り、鞄を放り投げ、私服に着替え、また全速力で海に向かった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ