青春編6
家に帰ると、チャイが僕の部屋の開いたパソコンの前に居座っていた。
「おう、遅かったな。今日スイーツ200円引きの日だから連絡待ってたんだぞ」
とチャイが言った。
僕が学校の時は、パソコンの電源をオンにしておき、チャイにメール受信の見方を教え、放課後、後をつけて貰いたい時など、いつでも連絡が取れる様にしていた。
「今日は行かないみたい」
と僕は言った。
「そうか、珍しいな」
「うん」
僕は鞄をイスの上に置き、
「チャイ」
「ん?」
「これからはもう自分でやって行くから、探る回数はかなり減ると思うよ。今までありがとう」
「そうか」
「あ、でもチャイはずっとここにいていいからね」
「ああ」
「ていうか、ずっとここにいてね」
「うん」
「そういえば、チャイは好きな子とかいないの?」
「何だよ急に」
ヒカルはチャイを見た。
「そんなの・・・知るかよ!!」
「ああー! その口の悪さじゃ、モテないよね」
「は?」
「本当は良い猫なのに残念だね」
「うるせーよ!バーカ!」
と言って、窓から出て行った。
夕方になったので、お風呂に入るついでに、出し忘れていた空の弁当箱と洗濯物を持って一階に降りると、お母さんが電話で話しているのが聞こえた。
「こないだ見たけど、右手も左手も大丈夫みたい。ええ、ええ、分かりました。何かあったら連絡します・・・」
お母さんは僕に気づくと、少し慌てながら電話を切った。
「ヒカル、どうしたの?」
「どうしたの?って、お風呂に入ろうと思って。はいこれ」
僕は弁当箱を差し出した。
「ああ、ありがとう」
と言って弁当箱を受け取った。
「今日、お父さん遅くなるんだって。だからお風呂入ったら夕飯食べちゃいなさい」
「うん。分かった」
と言って僕はお風呂に入った。
湯船に浸かりながら両手を見てみたけど、いつも通り何の問題も無く、指を折ってみても普通に全部曲がった。
お風呂から上がり、夕飯を食べ、TVを見て、自分の部屋に行くと、
チャイが窓からじっと月を見ていた。
「チャイ、御飯だよ」
声を掛けても、チャイは無言でじっと月を見ていた。
大きくてとても奇麗な満月だった。
僕もチャイの隣で椅子に座り一緒に月を見た。
しばらくすると、チャイが僕の膝の上に乗ってきた。
「チャイ?」
こんな事初めてだったので驚いたが、
僕はチャイの背中を優しく撫でた。
チャイはそのまま安心した様に眠った。
僕はじっと月を見たまま、チャイの背中を撫で続けた。




