青春編3
「ヒカル お風呂沸いたわよ」
部屋のノックの音がした後、お母さんの声がした。
「うん」
お母さんが部屋に入り、
「チャイは?」
とお母さんが聞いた。
「さあ、外にでも行ったんじゃない?」
「そう、最近学校はどう?」
「楽しいよ」
「何か変わった事あった?」
「お母さんそればっかりだね。いつもと同じだ よ」
「そう?」
「そうだよ」
「お父さんもすぐ帰ってくるから、先に お風呂入っちゃいなさいよ」
「うん」
お母さんは、僕が高校に入学してから、口癖の様に 「最近変わった事はあった?」と聞いてくる。
チャイを飼いだしてからその頻度は増した気がする。
色々心配してくれるのは分かるけど、あんまり言われると面倒臭くなってくる。
「ヒカル、 最近変わった事はあったか?」
晩御飯を食べてる時、お父さんが聞いてきた。
「お父さんまで・・・ないよ」
僕はため息をついた。
「そうか、すまんすまんついな。しかしお前も大きくなったな」
「そりゃ、もう高校生だからね」
「ほら、手を見せてみろ」
「え?」
お父さんは、右手を出してきた。
「ヒカル、お父さん嬉しいのよ、ヒカルが大きくなってくれて」
「はいはい、分かった分かった」
と言って2年前より、少し大きくなったであろう手を合わせると、 お母さんはその手を真剣に見つめた後、急に涙ぐんだ。
「何で泣くの?」
「ごめんね」
「いや、謝らなくてもいいけどさ」
「母さんは嬉しいんだよ、ヒカルがここまで成長してくれたから」
「うん、ありがとね」
僕は言うと、晩御飯のカレーを食べた。
「それより、今日のカレー美味しいね」
「ほんと!?」
お母さんはとても嬉しそうに言った。
「うん、なんかいつもより美味しいよ」
「玉ねぎ、いつもより多めに炒めたのよ。ヒカル、玉ねぎ苦手だからどうかと思ったんだけど」
「うん、全然いける」
それを聞くと、お母さんはまた涙ぐんだ。
「母さんは本当に涙もろいな」
と言ってお父さんは笑った。
「ほんと、早く食べようよ」
「そうね、ごめんね」
笑いながら三人でカレーを食べた。
面倒臭いけど、そんなお父さんとお母さんが僕は大好きだ。
部屋に戻ると、中川勇太から明日遊びの誘いの連絡が来ていた。
「ごめん。 明日はちょっと無理なんだ。と」
連絡を返した。 勇太は僕の初めての友達で、いつも一緒につるんでる。
僕には小さい頃の記憶が無いし、
目が覚めてすぐにリハビリとを始め、
無我夢中で勉強したので、友達と呼べる人間は勇太が初めてだった。
高校の入学した初日の放課後、勇太が僕の前の席から振り返ってきて、
「時枝、お前、部活何やるの?」
と、いきなり聞かれ、
「僕は帰宅部だけど」
と答えると、
「お前もか? じゃあ一緒に帰ろうぜ」
と話したのがきっかけだった。
勇太は、学校の近くの個人経営の焼き肉屋でバイトしてて、たまに僕も食べに行くと、そこのおばちゃんが良い人で、サービスしてくれる。
そんな勇太も美咲ちゃんの事は、可愛いと言っている。
なんでも顔がどストライクなんだそうだ。
だから勇太にも相談出来ない。
クラスの他の男子なんかに相談したら、冷やかされるに決まってるし、一人でやらなくては。
あ、一匹いたか、強き味方が。
その強き味方の報告を勉強しながら、明日まで待とう。さあ、勉強だ。
僕は、一人で思いながら勉強を始め、
そして適当な所で切り上げ、眠りについた。