猫国編19
「美咲ちゃん、残念だったな」
ヒカルの自転車の前カゴに乗ったチャイが言った。ヒカルは自転車を漕ぎながら、
「うん、僕が悪かったんだ。今でも後悔してるし。これからもずっと忘れない」
と言った。
「僕ね、美咲ちゃんが亡くなってから、学んだ事があるんだ」
「学んだ事?」
「うん」
と前を向きながら、
「自分が本気で好きになったら、死んでも離しちゃいけない」
チャイは、しばらく黙り、
「そうか、そうだな」
と言った。その後ヒカルの自転車は静かにキセラ橋に向かった。 キセラ橋の下には、先に人間の両親が着いていて、その近くには、大きな光の輪、キャットホールが輝いていた。
「お父さん、お母さん」
とヒカルは言った。
「ヒカル」
と両親が笑顔で言った。
そして、チャイの前足を握り締め、
「チャイ、今まで本当にごめんなさいね」
と泣きながら言った。
人間の父も一緒に握り締め、
「ヒカルを頼みます。猫の御両親に、くれぐれもよろしく伝えてくれ」
と言った。
「はい、分かりました。お任せください」
と答えた。
ヒカルは人間の両親と抱き合った後、
「それじゃあ、お父さん、お母さん」
と言い、キャットホールをゆっくり潜り、白い雌猫になった。
「ヒカル」
と両親は驚いたが、すぐに優しい笑顔に戻り、ヒカルを見守った。
「お父さん、お母さん、短い間だったけど、ありがとうございました」
とお辞儀して、猫国への入口でもあるキセラ橋の袂に、チャイと二人で入っていった。
目の前には、猫国の優しい緑が広がっていた。
ヒカルは大きく深呼吸した後、
「ただいまー!」
と大きな声で言い、本来の雌猫に戻った姿で動き周りながら、
「人間も楽しかったけど、やっぱ猫の方がいいや」
と言い、
「帰ろっか」
とチャイに向かって笑顔で言い、走りだそうとしたが、
「待て」
とチャイが言った。
「何?」
「ヒカル、改めて言う」
「ん?」
「俺の嫁になってくれ」
ヒカルはチャイを見た。
「俺の嫁になれるのはお前しかいない」
と言った。ヒカルはとても優しい笑顔になり、
「僕、いいえ、私も。ありがとうチャイ」
と言った。
(おわり)
「チャイと時枝ヒカル君」これにて完結致しました。
至らない部分も多いと思いますが、自分なりに全力で書いて、ラストを迎えられた事を嬉しく思います。
最後までお付き合い頂いた読者の皆様、誠にありがとうございました。




