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チャイと時枝ヒカル君  作者: 河村諭鳥
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猫国編18

王宮では、チャイとビビの結婚式が行われていた。

国中の殆どの猫が王宮に集められ、静かに見守る中、王座には王と王妃が座り、 その前にいる牧師の横に、王子として正装したチャイが立っていた。

正面後ろのドアが開き、ウェディングドレスに身を包んだビビが、 バージンロードを父親とゆっくり迷いなく歩き、チャイの前まで来た。

牧師はチャイに向かって、


「あなたはその健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、 貧しい時も、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くす事を誓いますか?」


聞いた。チャイは、


「はい、誓います」


と答えた。今度はビビに向かい、


「あなたはその健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、 貧しい時も、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くす事を誓いますか?」


と聞いた。

ビビが「はい」と答えようとした時、扉が勢い良く開き、


「ちょっと待った!!!」


と叫んだヒカルの隣には、ヒカルの両親も立っていた。ビビは驚いた顔でヒカルを見た。


「ビビ、結婚式はもう出来ないよ」


ヒカルの言葉に一瞬戦いたが、ビビはすぐに平常な顔になり、


「はぁ?何言ってるの? あなた人間じゃない、人間がこんな所に入って来て良いと思って るの?クセ者よ!今すぐこの者を捕えなさい!!」


ビビは周りにいた部下に命令したが、誰も動こうとしなかった。


「何やってるの!早く」


「ここにはもう、ビビの味方はいないよ」


ビビはうろたえながら、


「どういう事よ!何をしたのあんた!?」


「描だまし作戦じゃよ」


と王様が言った。


ビビは驚いて王様を見た。


「今ここにいる、そなたの一族と臣下達は、全て王宮に捕えられ、姿、形をそっくりに仕立て上げた替え玉にすり変えた。猫であるそなたを騙すためじゃ。しかし、そなたは全く気づきもしなかった。」


「・・・うそでしょう?王様?」


王様は右の前足を上げた。すると部下達が、捕えられたビビの一族とその臣下を連れてき た。


「お父様、お母様!?」


「替え玉には全て、赤の肉球を私が塗ったわ。あなたは本物だけどね」


と王妃が言った。ビビは自分の肉球を見て、


「これは大切な儀式だと・・・」


「そんな儀式は、始めから無いわ」


と王妃は言い放った。


「王様、王妃様も騙されているんです! そこにいる人間に!この人間はこの国を乗っとろうとしてるんです!」


「見苦しいぞビビ !!」


と王様が一喝した。


「わしは、そこにいる人間のヒカルが、死んだ恋人の家に手を合わせに行った時、こっそり人間界へ行き、ヒカルを見つけ、後をつけて行った。そしたら、その後ビビが現れて、両親の命と引き換えに、チャイを諦め、人間として暮らせと言っておった」


ヒヒは身体を強張らせた。


「そして、ヒカルの部屋へ行き、ヒカルと話し、ビビとその一族が犯した罪を罰せねばならんと同時に、ビビが真の王女に相応しいかどうか見極めたいと思い、この作戦を考え、 決行した。ビビ、お前は自分の一族、そして臣下のみならず、目の前にいる自分の新郎になろうという男が、替え玉だという事すら見抜けなかった」


王様の言葉に、周りがざわつき、ビビも目の前のチャイを見て、


「まさか、チャイ様?」


チャイは無言で右の前足を見せた。赤の肉球がしっかりと塗られていた。


「申し訳ありません。ビビ様」


と謝った。ビビはチャイを睨みつけ、


「チャイ様・・・チャイ様はどこよ。私は・・・小さい頃からチャイ様だけを見て生きてきた わ!!ヒカルなんかよりずっと大好きだった!!チャイ様を返して!私のチャイ様を返してよ!!!」


叫びながら、ビビはチャイの顔を思いっきり引っ掻いた。


「チャイ!大丈夫!?」


ヒカルが思わずチャイに向かって叫んだ。

チャイはヒカルの方を見て、


「ああ、大丈夫だぜ、ヒカル」


とチャイが言って、ヒカルの所へまっすぐ歩いた。

ヒカルもチャイの所へ駆けて行き、チャイに抱き付いた。チャイはヒカルを抱きしめたまま、


「残念だよ、ビビ。俺は最初からずっと本物だ」


ビビは驚き、うなだれて下を向いた。


「な、んで、始めから知らされて・・・」


「この事は誰にも言っとらんよ。これで真の王女が決まった。連れて行け」


と王様は部下に言った。

ビビは下を向いたまま連行されて行った。


王様はヒカルに、


「よくやったヒカル」


と言った。


「本当によく頑張ったわ」


と王妃が言った。


「はい、ありがとうございます。パパ、ママ」


とヒカルが涙を流しながら王様と王妃に言った。

チャイも一瞬貰い泣きしそうになったが、


「ん?パパ、ママ?」


と少し驚いて聞いた。


「だって、そう呼べって王様と王妃様に言われたから」


とヒカルが言った。


「はぁ?」


とチャイが言うと、王妃が、


「いや、だって、あんたは何回言っても、『親父とお袋』としか呼んでくれないから、せめてこの子には、そう呼んで欲しくて」


と言った。


「だからって嫁になる奴に頼むなよ!」


「いいじゃねーかチャイ、お前は細かい事にグダグダ言い過ぎなんだよ」


「いや、どう見てもおかしいだろ!」


「ハハハ」


とヒカルは笑った。


「お前も笑ってんじゃねーよ」


「ハハハハ!パパママ、だーい好き!」


「だーかーらー!」


「ママも、ヒカルだーいすき!」


「パパも、ヒカルだーいすき!」


というやりとりが続き、王宮内は次第に笑いに包まれて行った。




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