猫国編15
猫国に戻ったチャイは、誰とも口を利かず、一人で部屋に閉じこもっていた。
「入るぞ」
チャイの部屋に入って来たのは、猫国の王様でもあるチャイの父親だった。
王様は、ほとんど手をつけていない食事を見て、
「お前、全然食ってねーじゃねーか?男はもっと食わねーと」
「親父・・・俺ビビと結婚するわ」
「たかだか女の一人や二人と喧嘩した位で、ヤケになってんじゃねーよ」
「大嫌いって言われた」
「え?」
「ヒカルと喧嘩して、最後に大嫌いって言われた。だから腹立って俺も大嫌いって言ってやった」
「・・・」
「俺、ヒカルと初めて会った時、すっげー変な奴だなと思ったんだ。
でも後で考えたら、 何か『目からうろこ』って感じになってきて、こいつと一緒に遊びてーなーってなって、 会いに行って、それから毎日遊る様になったんだ。
遊んでる内にいつのまにかヒカルの事好きになってた。で、俺の嫁はこいつしかいないと思って『俺の嫁になってくれまってプロポーズしたのに・・・いなくなっちまって・・・二年かけて探し当てたヒカルは、人間の男になってたんだけど、見た瞬間、ヒカルだって分かった。
俺、心のどこかで、ヒカルは俺の事覚えててくれてると思ってたんだ。だから会った瞬間にプロポーズの言葉を言った。でも全然覚えてなくて…ただ、性格はちっとも変わらない。
猫の時のまんまだった。アホで可愛くて優しくて、そのくせ、変な所で芯強く
て、だからだろうな、人間になっても皆に好かれてたよ。家族からも大切にされて、あんな可愛い恋人もいて、物凄く幸せそうだった」
「それで?」
と王様は言った。
「あいつは人間のままでいた方が幸せなんじゃないか?って思えて・・・だから俺、ビビと結婚するわ。ビビ嫌いじゃねーし」
「ヒカルに本当の事を話して、もう一度プロポーズはしようと思わなかったのか?」
「そんな事出来る訳ねーだろ! 俺はあいつを守れなかったんだ!そんな資格なんてねー よ!」
「どうせ、二年経ったら全部思い出すんだろ?」
「そうだけど…」
「確かにヒカルは辛い運命になった。
お前がヒカルを守れなかったのも事実だ。でもなっちまったもんを悔やみ続けても何も変わらねぇだろ。これからどうするか考えて行くしかねぇんだよ。
ヒカルが人間として生きるか猫として生きるかは、ヒカルが決める事だ。 ヒカルは真っすぐで強い、だからもし猫に戻れなかったとしても、運しく生きて行くだろ うな。
でもそれはそうとして、お前はどうしたいんだ?本当にビビと結婚しても良いの か!?二年間、死に物狂いでヒカルの事探してたしゃねーか!! ヒカルが人間で幸せそうだからってそのまま引き下がるのか!?お前のヒカルへの思いは、そんなもんだったのか!?」
「俺は、ヒカルに幸せになって欲しいんだよ!人間の彼女までいるのに、猫の俺が勝てる わけねーじゃん!!」
「だから何だって言うんだ!!お前だって彼女に負けない位好きなんだろうが!!人間に勝てないなら、自分も人間になって告白してやる位の気概はないのか!! そんな奴が好きでもない女と結婚して、国の王になんかなれる訳ないだろ!!!!」
「…」
「すまん、言い過ぎた」
「いいよ、言われて当然だから」
「わしが言いたいのは・・・最後まで諦めんでくれ。まだチャンスは残っとるんだから・・・」
「うん、分かったよ、親父」
王様はチャイの肩を叩き、
「よし、じゃあ『猫だまし大作戦』じゃ」
「『猫だまし大作戦?』」




