猫国編14
僕も自転車に乗ろうとすると、小さな黒猫が目の前に現れた。ビビだった。
僕は思いっきりビビを睨みつけ、
「もう、君の思い通りにはさせないよ」
と言って右掌を見せた。ヒビはフフッと笑い、
「私、チャイ様と結婚する事になったの」
「うそだ」
「本当よ。それに猫に戻るのはあなたの勝手だけど、あなたの両親の命が私の手の中にある事を忘れないで。もしあなたが一生人間のままでいるなら、考えてあげてもいいけど」
「何て卑怯なの!?」
「何とでもおっしゃい、私はチャイ様と結婚する為ならなんだってするわ。私は小さい時からチャイ様とずっと一緒にいて、チャイ様だけを見てきたし、結婚出来て当たり前だと思ってた。なのに、いきなりあなたが現れて、チャイ様は性格が変わってしまって、あなたの所ばかり行く様になって、私の事なんか見ようともしない…でもそれでも良いわ。私はチャイ様以外どうでも良いの。チャイ様さえいてくれたら周りなんてどうなっても良 いの」
「チャイは、いつも周りの事を考えてる猫だ、君みたいな優しくない猫を絶対に好きになんかならない」
「あなたのその甘ったるい所が大嫌いだったわ、ずっと。でも分かったの、これからまた私がチャイ様を昔みたいに変えていけばいいって。あなたが出来たんだもの、私に出来ないはずないわ。だから絶対あなたなんかに渡さない」
「僕だって、君みたいな優しくない猫にチャイは絶対に渡さないし、両親も助けてみせる!」
ビビは鼻で笑い、
「上手くいくと良いわね」
と言って去って行った。
僕は家に帰り、部屋の中を片付けた。
部屋中に貼りまくった英単語の紙を全て剥がし、美咲ちゃんから貰った問題集と単語帳をまとめて空き箱の中に入れ、チャイが使っていた、ケージや、エサ入れや、爪とぎ等も掃除して奇麗に片付け、美咲ちゃんの空き箱と一緒に押入れにしまった。 携帯電話を聞くと、チャイや美咲ちゃん、クラスメイトや家族と撮った写真や、今までの 連絡のやり取り等が出てきて、様々な事を思い出したが、全で残し、そのまま携帯を机の上に置いた。
もう涙は出なかった。
服を着替えてベッドに座っていると、窓ガラスを叩く音が鳴った。 見るとべキがいたので、窓を開けると急いで入って来て、
「ヒカル様、大変です!ヒカル様の御両親が行方不明です!!」
と言ったので、
「犯人はビビだよ」
と僕は冷静に答えた。
「え?」
「ビビが僕の両親を拉致したんだ」
「う、うそ?」
と驚いた顔をしているビビに、
「ホントだよ、本人から聞いた。両親の命と引き換えにチャイから手を引いて、人間として生きろって。僕を人間に変えたのも、全てビビの仕業だったんだよ」
「ヒカル様」
ボー然としているべきに、僕は右掌を見せ、
「全て思いだした。そしてもうすぐキセラ橋の下にキャットホールが出来る。それを24時間以内に潜れは僕は猫に戻れるみたい」
「…」
「許さない、僕は絶対にビビを許さないよ」
と怒りをあらわにした。
「べキ」
と言って窓のカーテンを閉めた。
「は、はい」
「これから話す事をよく聞いてね」
すると、窓を叩く音が聞こえてきた。
カーテンを開けると、1匹の年老いた猫が窓際に立っていた。




