猫国編13
美咲ちゃんの家のインターホンを押すと、お母さんが出迎えてくれた。
僕達が名前を告げると、
「あなたがヒカル君ね、美味からよく話は聞いていました」
と言った。
「美咲さんとは、生前、お付き合いさせて頂いたのに…本当に…本当に…すいませんでした」
僕は深く頭を下げた。
「僕も、僕も…お通夜にも、お葬式にも来れなくて、何も出来なくて…すみません!!」
勇太も泣きながら頭を下げた。
「こちらへどうぞ」
と言って、遺影のある部屋まで案内してくれた。
僕は、美咲ちゃんの笑顔の遺影を見て、
もう何があろうとも、二度と彼女に会う事は出来ないんだと実感すると、
涙が溢れて止まらなくなった。
『ごめんなさい』と言う位じゃ済まされないという事を、思い知ったが、それでも心の中で謝り続ける自分がいた。
隣にいた勇太もずっと泣きながら、手を合わせていた。
「美咲ね、高校の事、いつも本当に楽しそうに話していたの。特にヒカル君と付き合い出してから、毎日楽しそうでね」
とお母さんは、お茶を出しながら言った。
「そうですか」
と僕は言った。
「ヒカル君と同じ大学へ行きたいって言ってたね。一緒に夢を叶えるんだって」
お母さんは言いながら涙ぐみ、言葉を詰まらせた。僕はその言葉に胸が締め付けられた。
「本当に、僕、夏休みの終わり頃から、美咲さんにずっと連絡してなくて、だから美狭さん、ずっと僕の事心配してくれてたみたいで、あの日、僕の家にさえ行かなければ、彼女は…」
「僕も、もっと注意してれば、美咲さんを救えたかもしれないのに…」
お母さんは僕達を見て、
「これは事故だったのよ。でも私があなた達二人に対して、何も思わないと言えば嘘になるわ。だけど私達はこれからも、生きていかなきゃならないから。だから、これだけは約束して欲しいの。美咲の事を決して忘れないでちょうだい」
「はい」
と二人で返事した。
「今日は来てくれてありがとう。美咲も…きっと喜んでくれていると思います」
お母さんは言った。
美咲ちゃんの家を出ると、自転車を押しながら二人でしばらく黙って歩いた。
もうすっかり日が暮れて夜になっていた。
「俺、お前に貰ったキーホルダー、絶対失くさないから」
と勇太が言った。
「うん」
と僕は答えた。
「これ持ってたら、お前と美咲ちゃんの事絶対忘れないと思うし」
「うん、ありがとう」
「俺、これからどうしていいか分かんないけど、でもとにかく美咲ちゃんの分まで頑張って生きていくからさ、お前も猫国で立派な猫になれよ」
と勇太が言った。
「ハハハ」
僕は小さく笑った。
「何で笑うんだよ」
と勇太が言ったので、
「だってなんか可笑しくて」
と僕が言うと、
「そうだな」
と二人で笑った。久し振りに笑った気がした。
勇太の家に行く別れ道まで来た時、
「あ、最後に訂正しとく事あった」
と勇太が言った。
「なに?」
「俺、お前が後ろの席にいてマジでラッキーだったよ」
と言って自転車に乗ろうとしたので、
「勇太」
と声を掛け、僕は手を差し出した。勇太は力強く僕の手を握り、
「頑張れよ、ヒカル」
と言って来たので僕も負けずに握り返し、
「うん、勇太も頑張って」
と言った。二人はお互い目を真っ直ぐに見据えた。
「じゃあなヒカル」
と自転車に乗り笑顔で手を振り、帰って行った。
勇太の姿が見えなくなるまで、僕はずっと手を振り続けた。