猫国編12
「よく眠ってるみたいね。さようなら、ヒカル」
確かにあの声はビビだった。
目が覚めた今でもはっきり分かる。
間違いない、僕は絶対にビビを許さない。
「おはよう」
と言いながら、制服に着替えて下に降りた。
「ヒカル、おはよう」
とお父さんとお母さんが言った。
お父さんもお母さんも、心なしか、さっぱりした表情になっていた。
朝食を食べ終えると、僕は右の掌を二人に見せた。金色の肉球の形をしたシミがしっかりと現れていた。お母さんは笑顔で、
「全部思い出したのね」
と言った。
「うん。僕の本当のお父さんとお母さんはとても良い猫達だったよ」
「そうだろうな」
お父さんが言った。
「本当の御両親に感謝しなくちゃね、こんな良い子に育ててくれたんだから」
お母さんが言った。
「僕、今日で学校行くの最後になると思う」
僕が言うと、二人は揃って頷いた。
僕は鞄を持って、いつもの様に玄関を開け、
「行ってきまーす!」
と言うと、
「行ってらっしゃい」
とお母さんの声が聞こえてきた。
自転車に乗り、学校へ向かっていると、勇太が同じく自転車でやって来た。
「勇太、おはよう!」
と僕はいつも通り言うと、
「おはようヒカル!」
と何事も無かった様に返してきた。
「勇太、話あるから、今日のお昼空けといてね」
と言うと、
「俺も」
と言って、二人で学校に行った。
学校に行くと、クラスの皆が驚いた顔で僕を見て、
「ヒカル、お前体大丈夫なのかよ」
と言ってきた。僕は病気で休んでた事になっていた。
「うん、もう大丈夫だよ」
と笑顔で言った。僕は職員室へ行き、担任の先生と話した。
「時枝、もう大丈夫なのか?」
と言われたので、
「はい、大丈夫です」
と答えた。先生は僕が授業を休んだ分の単位の話等をしたが、僕にはもう関係無い事だったので、適当に聞き流し、教室に戻った。
勇太は前の席いたが、一言も話しかけてこなかった。
僕は美咲ちゃんの席を見た。彼女の席には、花の入った花瓶が置いてあった。
僕はそれを見ると、胸が締め付けられ、泣きそうになりながら、
心の中で何度も何度も 「ごめんね」と詫びた。
午前中の授業が終わり、お昼御飯を食べた後、どちらともなく勇太と二人で屋上まで上がった。
「ここよく来たよね。二人で授業さぼって」
「うん」
と勇太が言った。
「ヒカル」
「ん?」
「俺、今日美咲ちゃんの家に行こうと思うんだ」
と言いにくそうに言ってきたので、
「実は僕もそうしようと思ってたんだ」
と僕が言うと、
「そうか」
と勇太は言った。
僕はポケットから猫のキーホルダーを取り出し、
「勇太、これ勇太が持ってて」
と勇太に渡した。
「なんでだよ、これお前のだろ?お前の大事な…」
「今日で勇太と会うのが最後になるかもしれないから」
「え?どういう事だよ」
僕は全てを勇太に話した。
人間として初めて出来た友達には、どうしても話しておきたかった。
自分が本当は猫である事も、猫に戻り、猫国に帰るかもしれない事も。
勇太は最初、冗談でも言ってるのかという顔をしていたが、僕があまりに真剣に話すので、冗談では無い事を分かってくれた。
「もし猫に戻れなかったらどうするんだよ」
と聞いてきた。
「どうもしない。猫の記憶を持ったまま人間として生きていく事になると思う」
「そうか、分かった」
「その時はまた友達続けてね」
と僕が言うと、
「当たり前だろバな!その時じゃなくてもずっと友達だよ、俺とお前は!」
と言い、猫のキーホルダーを見て、
「これは、もしお前が人間として生きていくってなった時、返してやるから、それまで持っとくわ」
「うん、ありがとう」
と笑顔で言った。
そして僕達は教室に戻り、午後の授業を受け、放課後二人で花屋さんに寄り、美咲ちゃんの家まで行った。