猫国編11
その日の夜、僕は全て思い出した。 夢の中で白い雌(女)の子猫になり、猫のお父さんとお母さんと一緒にいた。
雨の強い日も、風の強い日も、猫のお父さんとお母さんと一緒に寝ていると、
いつもポカポカして温かく眠れた。
「私、大きくなったらお父さんと結婚する!」
と言うと、お父さんは嬉しそうに、
「そうかそうか」
と笑っていた。お父さんとお母さんはいつも、家族にも周りの猫達にも優しかったので、
「お父さんとお母さんは、いつもどうしてそんなに優しいの?」
と聞くと、
「周りの皆を大事にしようと努力してるからよ。そうすれば、皆も自分を必ず大事にしてくれる。すると自然に優しい気持ちになれるものなのよ」
と言っていた。猫の両親も人間の両親に負けない位、心温かかった。
それから大きくなり、チャイに出会った。 チャイは足も速いし、ジャンプカもピカーだし、頭も良かったので、威張り散らしていた。 周りもチャイが王子様だったという事もあり、皆、チャイにひれ伏していた。
そしてその隣にはいつもヒビがいた。
ある日、僕が友達と遊んでると、チャイとビビとその仲間達がやってきて、
「今から俺達がここで遊ぶから、お前らどけよ」
と言ってきた。
「なら、一緒に遊ぼうよ」
と僕は言った。すると周りがざわつき始めた。
「はぁ!?何でお前らなんかと遊ばなきゃいけないんだよ」
とチャイが言ってきたので、
「なんで?いいじゃん。皆で一緒に遊ぼうよ」
と言うと、友達が慌てて、
「ちょっと・・・」
と止めようした時、
「あなた誰に口きいてるの?この方は、この国のチャイ王子様なのよ」
ビビが言った。
「知ってるよ」
と僕は言い、
「いつも感張ってる、優しくない猫だって事も」
と小さく呟いた。
「なんだと!」
とチャイが怒った。
「何で王子様なのに、皆に優しく出来ないの?」
と僕は正直に言った。するとチャイは、僕達を見下した様な顔になり、
「王子だからだよ。それに皆に優しい奴ってのは、力が無くて、が悪い、結局自分には何も無いから、そうやって気を引こうとする。力があって、頭が良けりゃ、皆集まって来るんだよ」
僕は、その言葉にめちゃくちゃ怒り、
「そんな事は無い!絶対に無いよ!皆に優しく出来る方が一杯集まるよ!!!」
と大きな声で言った。
「ふん、もう良いわ。じゃあ俺と勝負しょう。それでお前が勝ったらここで遊んでいいぜ」
「しない」
「ふふん、結局自信無いのかよ」
と笑いながら吐き捨てた。
「私は勝負なんかしない、でもここも動かないよ。ここは、今、私と友達が遊んでた大事な場所なの。ここで皆で遊ぶならいいよ、でも無理やりここを取ろうとするなら、私は絶対にここを動かないから」
と僕はチャイを真正面から見て言った。
「チャイ様、こんなの相手にしないで他に遊ぶ所を見つけましょう」
とビビが言ったが、チャイは僕を見て、
「ここ、そんなに大事な場所なのか?」
とチャイが言った。
「今日初めて来た」
「はあ!? じゃあ、なんでそこまでするんだ?」
「だって、友達と遊んでて楽しかったから!」
「…」
「友達と楽しく遊びたいじゃん」
「そんなに楽しかったのか?」
「うん!」
と僕は満面の笑みで言った。
「変な奴」
と言って、チャイはそのまま去って行った。 その数日後、僕が一人でこの場所にいると、チャイが一人でやって来た。
言われて振り向くと、チャイが一人でいた。
「ん?あっ、えーっと?お、王子様?」
僕はびっくりして言った。
「チャイでいーよ」
「え?でも」
「お前に王子様とか言われると、なんか気持ち悪くなるからチャイでいーよ。それより、 ああー、なんだ、この前、俺、皆に…優しくしてみたんだよ。
「えぇ?うそ!?」
「うそじゃねーよ!そしたら、最初、皆驚いてたんだけど…でもなんかすげえ喜んでくれたし、遊んでて…楽しかった」
とチャイは言った。
「そっか、よかった」
僕は笑顔で言った。
「お前、名前何て言うんだ?」
「私?私はヒカル」
「ヒカルか。ヒカル、俺と友達になってくれないか?」
「え?いいけど」
「ありがとう、よろしく」
僕はとてもびっくりしたけど、それ以来、毎日の様にチャイと遊んだ。
チャイと遊ぶのは、とても楽しかった。
相変わらず口は悪いけど、優しくて面倒見が良くて、思いやりのある猫だった。 チャイにだったら何でも話せたし、チャイも僕にいっぱい話してくれ、いつの間にか、僕はチャイの事を大好きになっていた。
ある日、チャイが僕を自分の部屋に呼び、
「ヒカル、俺の嫁になってくれ」
と言った。
「俺の嫁になれる奴は、お前しかいないんだ!」
真剣な顔で言ってくれたので、嬉しくて、
「私も、ありがとうチャイ」
僕は笑顔で答え、チャイの傍へ行き、寄り添いながら長い長い眠りについた。