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チャイと時枝ヒカル君  作者: 河村諭鳥
19/28

猫国編10

夜になり、下へ降りるとお母さんが、

いつのまにか金魚鉢に入っていた金魚に餌やっていて、お父さんは一人でTVを見ながら晩酌していた。


「お父さん、お母さん」


と声を掛けた。二人は心配そうな顔をしながら僕の顔を見た。


「勇太が待ってるから、明日学校行くね」


「ヒカル、お母さんとお父さん、ヒカルにお話しなきゃいけない事があるの」


と言ってテーブルに座り、お父さんも黙ってTVを消して座り、僕も同じ様に座った。


「もう分かってると思うけど、ヒカル、あなたはお父さんとお母さんの本当の子供じゃないの」


とお母さんが言った。

僕は黙って話の続きを待った。


「お母さんは、子供が出来ない体だったんた。色々検査したんだけど、お医者さんから、 子供は望めないだろうって、はっきり言われたんだよ」


とお父さんが言った。


「でも、どうしても子供が欲しくてずっと悩んでいたら、たまたまヒカルがキセラ川の橋の下で倒れているのを見つけたの。そして、その隣にビビがいたわ。ビビから、この子は元々、猫国という猫だけの国にいた雌猫なんだけど、自分の婚約者を奪われたので、この人間界に連れ去って、薬をかけ、人間の男の子に姿を変えてやったんだって言ってたわ」


その話に僕は顔を強張らせた。


「お母さん、信じられない話に、とてもびっくりしたんだけど、でもヒカルを見ている内 に、だんだん

『この子を、自分の子供に出来ないかしら?』と思っちゃって、ビビにそれ を相談したら、

『いいわよ』って言ってくれて、それで一度家に帰ってお父さんに話したら、 最初は、

『猫が話する訳ないし、どこか他の家の子が倒れてるんじゃないか?』

と言って信 じてなかったんだけど、一緒に橋の下まで行ってビビって会ったの。

そしたら、お父 さんも始めはとても驚いてたんだけど、話聞いてる内に

『俺も覚悟を決めた。この子を家 の子として迎えいれるぞ』

と言ってくれた。

ビビがこの子が目覚めた時、猫の記憶は全て失ってるはずだから、問題は無い。 でも二年後には除々に記憶が戻ってくる。戻って来る証として、右掌にビビと同じ金色の 肉球のシミが出来てきて、全て戻ったら、肉球の形になり、猫国へ出入り出来る事になるって」


「うん」


と僕は頷いた。


「『記憶が全て戻れば、ヒカルは猫に戻るんですか?』

って聞いたの。そしたら、違うって。 記憶が戻った後、そのキセラ橋の下に『キャットホール』という輪っかが出来て、24時間以内にそこを潜れば、猫に戻れるんだって。でも24時間が過ぎると、キャットホールは消えて失くなり、肉球のシミも消える。つまり二度と猫に戻れないの」


とお母さんは言った。


「だから、2年が過ぎるまで、ヒカルをしっかり監視して、何かあればすぐに報告して欲しいって言われたわ。絶対にヒカルを猫に戻さないでって。それがヒカルを引き取る条件だって。お母さんもお父さんもその条件を飲んだわ。ヒカルを本気で家族にしたいと思ったから。ヒカルが目覚めた時は本当に嬉しかった。この子をうちの子にする為なら何でも してやると思った」


お母さんがそう言って、強い眼差しでお父さんを見た、お父さんも深く頷き、


「だから4歳の時に事故に遭い、記憶を失くしたんだと話した上で、矛盾が無い様に、ヒ カルの過去を取り繕い、猫を見ると、ヒカルが何か思い出すんじゃないか?と思って、お母さんは大の猫嫌いだと嘘をついて、猫をなるべく近づけない様にした」


お父さんが言った。


「僕は疑いもしなかった」


僕は言った。


「ごめんね。でもお母さんもお父さんもヒカルの事が可愛くて仕方なくて、絶対離したくなかったの」


お母さんは、少し涙ぐみながら言った。


「でも、そんな時ヒカルがチャイを飼いたいと言い出した。大反対したんだけど、後でビビから、チャイは自分の婚約者だって言うの。ヒカルを追いかけてここまで来たんだって。 で、ビビがチャイを飼いなさいと言ったわ。逆に描国とヒカルの動向がより分かるから、 チャイは飼った方が良いと言われて、飼う事に決めたの」


お母さんは言った。


「チャイは良い猫だったわ。少しやんちゃな所もあるけど、本当は優しくて、面倒見もよくて、チャイが来てからヒカルは毎日本当に楽しそうだったわね」


「うん」


「チャイはヒカルの事を、本気で大事にしてるんだって思った。だからヒカルがもしも猫だったらと考える様になったの。もし猫のままだったらチャイと一緒になれただろうし、 それに…」


お母さんが言葉を詰まらせながら言った。


「この前、ビビから聞いたんだけど・・・ヒカルを産んだ本当の御両親を・・拉致・・・・したみたいで・・・だから向こうで、どれだけ辛い思いをされてるんだろうなって考えたらもう私達の気持ちだけで・・・ヒカルをこれ以上奪う事は出来ないって思ったの」


とお母さんは言った。


「ヒカル、今までお父さんとお母さんは、猫であろうと無かろうと、ヒカルの事を本気で自分の子供だと思ってきた。勿論これからもそうだ。だからにヒカルが何処へいこうが、ど んな道を選ぼうが、反対しない、ずっとヒカルの味方だ」


とお父さんは言った。







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